第七十八話 アイアニル砦へ侵攻 その一
家は、安全が確認されたグリバス砦内に移動させた。
俺としては外でも良かったのだけれど、護衛に付いてくれている兵士達が大変だからな。
今でも兵士達が護衛に付いてくれている。
俺は断ったのだが、ラノフェリア公爵から頼まれていると、ダニエル軍団長が苦笑いしながら言っていた。
まぁ、ラノフェリア公爵の思惑は置いておくとして、ソートマス王国軍としてもルリアにもしもの事があればラノフェリア公爵から要らぬ不興を受けるのを避けたいのだろう。
その事は俺も良く分かるので護衛を受け入れた。
家ではルリアと一緒に寝た次の夜、リリーが珍しく提案をして来た。
俺とルリアは、ルリアに抱きしめられた事がリリーに発覚したのかと冷っとしたのだが違っていた…。
「エルレイさんと寝るを四人で日替わりにしようと思いますが、ルリアはどう思いますか?」
「えっ…まぁ~良いんじゃないかしら?」
ルリアは少し考えて、リリーの提案を受け入れていた。
「リリーお嬢様、四人と言うのは私とロゼも含まれているという事なのでしょうか?」
リリーの提案に驚いていたのはルリアでは無く、ロゼとリゼの二人だった。
えっと…ロゼとリゼが驚いているという事は、俺と一緒に寝るのが嫌だと言う事なのだろうか?
そうだとしたら、俺は主人と言う立場を利用して一緒に寝る事を強要していたという事になる…。
命令はしていないから強要では無いと思いたいが、二人の立場上命令で無くとも受け入れないといけないよな…。
そんな二人に申し訳なく思うと同時に、嫌がる事を強要していたとしてルリアに怒られる方が怖い…。
そう思ってルリアを見たが、全く怒っている様子は無かった。
「そうです。ロゼとリゼもエルレイさんと一緒に寝たいでしょう?」
「はい!」
「お許しいただけるのでしたら…」
リリーの問いにリゼは元気よく答え、ロゼは遠慮がちに答えた。
という事は、ロゼとリゼも俺と寝るのを嫌がってはいないと言う事だよな?
俺はほっと一安心し、これからも四人で寝られる事をとても嬉しく思った。
「エルレイ!分かっているとは思うけれど、ロゼとリゼにも変な事をしたら駄目よ!」
「も、もちろん分かっているよ!」
下心が表情に出ていたのか、ルリアに釘を刺されてしまった…。
ロゼとリゼの体を触るような事はしていないし、これからもするつもりもない。
ただ…俺の体がもう少し成長すれば我慢できなくなる可能性はある…。
その時は殴られる覚悟を決めて、ルリアの体から触らせて貰う事にしないといけないよな。
二人の婚約者を優先し、そして公平に扱わなければ傷つけてしまう事は理解したからな…。
今夜はリゼの番だと言う事で、リゼの手を握って幸せな気持ちで眠る事となった…。
アイアニル砦への侵攻は、グリバス砦を落とした四日後に開始される事となった。
元々、アイロス王国の王都までの侵攻を予定して準備期間を設けていたため、グリバス砦には俺の領地から物資の搬入をするだけだった。
それと、兵士達の休養も兼ねていたみたいだ。
その休養には俺も少しだけ貢献させて貰った。
俺達だけ家の中でゆっくりと過ごしているのも気が引けたので、何か出来ないかと考えてダニエル軍団長に提案してみた。
「風呂だと?それがあれば兵士達は喜ぶが…」
ダニエル軍団長は首を傾げながら、グリバス砦内部の一角を与えてくれた。
屋根を付けるのは面倒だから四角く囲っただけの百メートル四方のプールを作り、そこにお湯を流し込むだけの簡単な風呂を作った。
排水はグリバス砦にあった排水溝を利用した。
排水はそのまま川に流れて行く事になるが、兵士達の体を洗った水くらいで汚染される事も無いだろう…。
プールを作るのにはロゼに協力して貰い、お湯を入れるのにはリゼに協力して貰った。
二人の魔法の訓練にもなるし、兵士達も喜んでくれて一石二鳥だ。
ただし、五万人いる兵士達が一斉に入る事は出来ないし交代で入って貰う事になったのだが…。
「エルレイ様、私にはもう無理です…」
「うん、リゼは戻ってくれていいよ…」
減ったお湯を足さなくてはならないのだけれど、喜んだ兵士達が全裸で風呂に飛び込んで行く姿はリゼには刺激が強すぎたみたいだ…。
俺と違って兵士達は立派な物を持っているからなぁ…。
俺も後数年すればあれくらいには…っとそんな事はどうでもいいな。
男の物を見て喜ぶ変態では無いし、お湯を足す事だけに集中する事にした…。
アイアニル砦に向けて侵攻するに当たり、ダニエル軍団長から説明を受けた。
俺達はアイアニル砦に到着するまでの間、特に何もしなくて良いそうだ。
まぁ、軍人でもない俺が何か出来るかと言われれば何も出来ないと答えるしかない。
精々空を飛んで進行方向の安全を確認するくらいだろう。
しかし、軍にも魔法使いは居て訓練を受けているだろうから、素人の俺がやる必要は全く無い。
唯一頼まれたと言うか…お願いされたのは、風呂を用意して欲しいとの事だった。
行軍中は風呂なんかに入る事は出来ないし、運よく見付けた川で水浴びをする程度しか出来ない。
貴重な飲み水を汗を流す事に使う事は出来ないからな。
軍にいる魔法使いでも、五万人の飲み水を用意する事は不可能で、重い飲み水を馬車で運んでいるからな。
そんな状況で馬鹿みたいに水を出せる魔法使いが居れば重宝されるのは間違いない。
最初は飲み水を魔法で用意した方が良いのかとも思ったのだが、兵士達の要望で風呂の方を用意する事となった。
何日も徒歩で移動するのだから、一日の終わりに風呂に入って疲れを癒したいと言う気持ちは良く分かる。
数百人の兵士が死にかけたにもかかわらず、士気が落ちて無いのは風呂のお陰だとダニエル軍団長も言ってたからな。
罪滅ぼしとは言わないが、風呂は毎日用意すると約束した。
敵の襲撃も無く、順調にアイロス王国を侵攻して行く事が出来ていた。
途中、貴族の私兵達が夜襲を仕掛けて来た事もあったが多勢に無勢で、こちら側には大きな打撃を与えられてはいない。
ソートマス王国軍が侵攻途中にある街の傍を通る事はあっても、略奪など非道な行為は行っていない。
その辺りはダニエル軍団長以下、各軍団長が兵士達にその様な行為を行わないようにと徹底させていた。
アイアニル砦さえ上手く落とす事が出来れば、通過した領土はソートマス王国領となるのだから当然だな。
自国領になる場所から略奪など行えば、後に反発される事は必至だからな。
それに、今攻め入っている場所の多少は俺の領地になり、俺が守らなくてはならない領民となる予定なのだからありがたかった。
幾らなんでも、戦争が終わった後も領民がゼロと言う状況は続かないだろうからな…。
そして、アイアニル砦に後半日ほどで到着する場所で最後の宿営を取る事となり、俺も軍議に呼ばれて席に着いた。
今日まで毎日お風呂を軍に提供して来た事で、俺に対する風当たりは全く無くなっていた。
最初の時は子供として見られていたし、貴族が戦場に何をしに来たと言った視線を向けられていたからな…。
幾ら軍団長と言えども、お風呂の事で兵士達から感謝されている俺を邪険にする事は出来なくなったという事だろう。
「事前の資料にあった通り、アイアニル砦は魔法が一切効かない。
なので、通常の砦攻略法は通用せず、総力戦による打破が必要だ。
厳しい戦いが予想される!皆頑張ってくれ!」
「「「「「はっ!」」」」」
ソートマス王国軍は、何としてもアイアニル砦を落とすつもりのようで、総力戦を仕掛けるつもりの様だ。
しかし、それでは多数の死傷者が出てしまう上に勝算も高くはない。
魔法が効かないアイアニル砦を迂回してアイロス王都を目指す事も出来なくは無い様だが、目の前にそびえ立っている山脈が邪魔をして大きく迂回する事となってしまう。
そうなれば補給線が伸び、アイアニル砦から補給線を攻撃される上に背後からの襲撃を受けてしまう事になってしまう。
補給を断ち、一気にアイロス王都に攻め込む作戦も考慮された様だが、あまりにも無謀な作戦だと却下されたみたいだ。
このまま総力戦を仕掛ければ、多くの死傷者にリリーが心を痛めるのは間違いない。
それは、グリバス砦で嫌と言うほど知らされたからな…。
リリーは丸一日寝込むほど無理をして兵士達を助けた。
また同じような状況になれば、リリーが無理をする事は目に見えているし、無理をさせたくはなかった。
だから俺は反対されるかもしれないが、この場で提案をさせて貰う事にした!
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