第七十七話 ルリアとの夜
「エルレイ!リリーが目覚めたわ!」
「すぐ行く!」
リリーが目覚めたのは翌日のお昼前だった。
俺は急いで寝室に向かい、ベッドで体を起こしているリリーの傍に行って声を掛けた。
「リリー、気分はどうだい?」
「エルレイさん、まだ少し頭がぼーっとしています…」
「少し診るよ」
「はい」
リリーの差し出してきた手を握り、リリーの魔力の状態を確認して見る…。
体に触れなくても診ることは出来るが、触れた方が確実だしリリーの体温を感じることが出来て安心できるからな。
「魔力も戻っているし、食事を摂れば元気になるだろう」
「良かったわ!」
「ルリアには心配かけてしまいました」
「良いのよ!それより着替えて食事にしましょう!
リゼが美味しい料理を用意してくれているわ!」
「はい、分かりました」
ルリアはリリーを心配して、昨夜からずっと看病を続けていたからな。
リリーが目覚めた事でルリアの表情に笑顔が戻っているし、俺も嬉しい気持ちになる。
ルリアはリリーの看病をするからとリリーの横に寝たから、昨夜はルリアと一緒に寝ていない。
しかし、リリーが元気になったから今夜は一緒に寝ることが出来るだろう。
ルリアがどんな反応を見せてくれるのか今から楽しみだ。
リリーが着替えてリビングに来たので、少し早めの昼食となった。
リリーは丸一日寝ていたのでお腹が空いていたのだろう。
いつもより多めに食べて元気も戻って来たみたいで本当に良かった。
リリーには食後に、リリーが寝ていた間の事を説明した。
グリバス砦には敵兵は残っておらず、あれ以外の罠は仕掛けられてはいなかった。
俺が周囲を探索した結果は、伏兵なども見かけず平和なものだった。
それはソートマス王国軍が探索した結果と同じで、アイロス王国軍は完全に撤退したものだと言う事が確認された。
現在ソートマス王国軍はグリバス砦を完全に掌握し、補給拠点として運用する準備をしている所だ。
この準備作業が終わり次第、次のアイアニル砦に向け進軍予定だ。
アイアニル砦までは一週間ほどかかるらしいから、今のうちにゆっくり休んでおくよう言われている。
公爵令嬢のルリアと元王女のリリーには大変だろうけれど、後から飛んで行くとは言えないので辛いだろうけれど我慢してもらうほかない。
その大変さを少しでも和らげられるように用意したのがこの家なのだから、兵士達から文句を言われようと使い続けていくつもりだ。
と思っていたのだけれど…リリーが頑張って兵士達の命を救った事で、俺達に対する感情は良い物になっていたみたいだ。
説明を聞く為にダニエル軍団長の所に行った時には、リリーが助けたガンデル軍団長からとても感謝されたからな…。
あの危機的状況に陥った責任は俺にあり、非難されるべきで感謝される事では無いと言ったのだが聞き入れては貰えなかった。
助けた兵士たち曰く、あの炎で焼かれる中、上空に現れた天使に癒されたとの事だ。
死の淵に居た兵士達にはリリーの事が天使に見えても不思議ではないな…。
直接会って感謝を述べたいと言われたが、それは丁重にお断りした。
リリーはラウニスカ王国の元王女でラウニスカ王国から逃げ出して来ていて、今でもラウニスカ王国からの追手が襲って来る可能性も否定できず、極力人前に出る事を避けている。
リリーが兵士達の命を救った事は褒められるべきなのだが、リリーがそれを望まないだろうからな。
そしてその夜、いよいよルリアと一緒に寝る事となった!
「ルリア、恥ずかしくてもエルレイさんを殴っては駄目ですよ!」
「わ、分かっているわ!」
リリーはルリアに注意してから自分のベッドに入って行った。
注意されたルリアはと言うと、俺のベッドの横で腕を組んで仁王立ちをしている…。
リリーに言われなかったら、寝ている俺を殴って来ていたのは間違いないと思う…。
ここは俺が布団を上げてルリアを誘うべき所なのだろうか?
そんな事をしたら余計に恥ずかしがって、ルリアがベッドに入って来てくれなそうにも思える。
ルリアの心の準備が整うまで大人しく待つのが正解だろう。
「い、行くわよ!」
ルリアは決意したのか、自分に言い聞かせるように言って、思いっきり俺の布団をばっと上げながら一気に俺の隣に寝転がって来た。
勢いあまってか、ルリアの顔が俺の顔に当たりそうなほど近くに来ていた…。
「ルリア、おやすみなさい」
「エ、エルレイ!おやすみなさい…」
俺がルリアの手を握ると、ルリアはびくっとして手を引こうとしたけれど、何とか我慢して逆に握り返して来てくれた。
ルリアの真っ赤になった染まった顔を寝るまで見ていたい気もするが、そんな事をして怒らせるような事にはしたくは無かったので大人しく目を瞑って寝る事にした…。
…。
夜中に寝苦しくて目が覚めてみると…ルリアが俺を抱き枕のように抱きしめて眠っていた。
どうりで寝苦しいわけだ…。
しかし、ルリアを引きはがす際に目覚められると何を言われるか分かったものではない!
最悪、変な事をしたと言われてぼこぼこに殴られる事になるよな…。
かと言って、このままの状態でルリアが目覚めても同じ状況になるだろう…。
…。
どちらにしろ殴られるのであれば、このまま大人しく抱き枕にされていた方が良いよな。
ルリアの暖かな体温と柔らかな体を感じることが出来、そして膨らみかけた胸の感触が何よりも気持ちよかった!
ちょっとだけなら触ってもいいかなと思ったが、ルリアの可愛い寝顔を見ていると罪悪感に駆られてしまう。
このまま後数年すればルリアとは結婚し、その時は遠慮なく触れるようになるだろうから、その時までお預けだな。
俺は再び眠りにつくまでルリアの可愛い寝顔を見続ける事にした…。
「エ、エ、エ、エルレイ!」
「がふっ!」
翌朝、顔に激しい痛みを受け目が覚めた…。
予想通りの展開とは言え、無防備の状態で殴られるのは想像以上に痛かった…。
ルリアは俺から慌てて離れたのだろう。
顔を真っ赤にして布団で自分の体を隠すように丸めていた。
「エルレイ!私が寝ている間に変な事をしなかったでしょうね!」
「してないよ…ルリアより後に目覚めた僕がルリアに何か出来ると思う?」
夜中に目覚めた時も何もしなかったし、俺を抱き枕にしていたのはルリアだから嘘は言ってない。
ルリアも自分が俺に抱き付いていたのは分かって、状況を頭の中で整理しているのだろう…。
「それもそうね…殴って悪かったわ…」
ルリアは珍しく反省して俺に謝って来た。
今ならルリアに何か要求したら叶えてくれるかもしれないな…。
俺は込み上げて来る下心を隠し、ルリアにお願いしてみる事にした。
「ルリア、顔が痛くてたまらないから撫でてくれないかな?」
「そ、そんなの自分で……わ、分かったわ…撫でればいいのよね?」
「うん、優しくお願い」
ルリアはゆっくりと俺の頬に手を伸ばし、腫れた所を優しく撫でてくれた…。
ルリアが申し訳なさそうにしながら撫でてくる手は柔らかく、痛みも飛んで行く様な気がする。
「次は抱きしめてくれないかな?」
「なっ、何でそんな事を!」
「しーっ、リリーが起きてしまうよ」
「あっ…」
ルリアはリリーに俺の頬を撫でている所を見られたくは無かったのだろう。
慌ててリリーの方に振り向き、リリーが寝ているのを確認して安心していた。
それでも俺の頬から手を離さないのは、ルリアが本当に俺に対して悪かったと思っているからだろう。
俺はそこに付け込むわけだが、殴られたからこれくらいはして貰ってもばちは当たらないよな?
「ルリア、抱きしめてくれないの?」
俺は優しくルリアに問いかける…。
「す、少しだけよ!それから、リリーには絶対内緒よ!」
「うん、約束する」
ルリアは躊躇いながら、俺を抱き枕にしていた時の様にそっと抱き付いてくれた。
「温かくて幸せな気持ちになれるよ…」
「そう…私は恥ずかしくてたまらないわ…」
ルリアはそう言いつつも、腕に力を少しだけ込めてギュッとしてくれた…。
本当に幸せな時間で何物にも代え難いものがあると思ったのもつかの間…ルリアはパッと俺から離れて行った。
「はい、ここまでよ!もう満足したでしょ!」
まだ物足りなかったが、これ以上の要求はルリアを怒らせる事になるだろう。
「うん、ルリアありがとう」
「ふんっ、エルレイ起きるわよ!」
ルリアはベッドから勢いよく飛び出し、寝ているリリーの傍に行って小さな声で「ごめんね」と謝っていた。
リリーに黙って俺を抱きしめた事に対しての謝罪だったのだろう。
ルリアには悪い事をしてしまったな…。
俺は反省し、ルリアとリリーには何か他の事で返さなければと思った…。
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