第七十四話 グリバス砦へ侵攻 その二

一番左端の塔を破壊し終え次の塔に向かう時には、ルリアも右端の塔を破壊し終ええていた。

と言うより、現在進行形で破壊し続けていると言った方が正解だな。

ルリアの使った魔法は炎の竜巻で、右端の塔の破壊を終えた後、そのまま城壁を移動させて城壁にいる敵兵を追い払いながら次の塔へと迫っていた。

ルリアにしては効率のいい魔法を選択したな…。

あれなら魔力消費を抑える事が出来るし、余計な破壊をする事も無い。

俺はてっきり、塔と城壁をまとめてバーンと破壊するのでは無いかと思っていたが、ルリアにも自制心はあったらしい…。

「リゼ、急がないと俺達の塔もルリアに取られてしまうぞ!」

「はい、頑張ります!」

こんな機会でもない限り建物の破壊とか経験出来ないので、リゼにも頑張って貰う事にした。


「終わったわ!」

「ルリア、よくやってくれた。こっちも今終わった所だ」

「頑張りました!」

ルリアとリゼは塔の破壊を終えて、満足そうな表情を見せていた。

「この後は何もする事が無いのよね?」

「うん、後の事は軍に任せて僕達は見学していよう」

「そうね…まだまだ魔力は余っているけれど、彼らの活躍の場を奪ってはいけないわよね…」

ルリアは凄く残念そうにしながらも、一応納得はしてくれたみたいだ。

今のルリアの実力であれば、グリバス砦にいるアイロス王国軍を全滅させる事も可能かもしれないが、ルリアにそんな残虐な事はさせたくは無いし、俺もやろうとは思わない。

仮に俺達だけでアイロス王国軍を全滅させれば、次も一人でやれと言われるのは間違いない。

その事は勇者時代に嫌と言うほど思い知らされたからな…。

あの時は勇者と言う事で俺も調子に乗っていたし、それが女神クローリスから与えられた使命だったからな。

でも今は違う。

無理をする必要は全く無い。

ソートマス王国軍の活躍に期待する事にしよう…。


俺達が四つの塔の破壊を終えると、ソートマス王国軍の魔法師団百名程が飛んで来てグリバス砦の門に近づき、一斉に魔法を放った!

「派手だね!」

「そうね…でもあれなら私がやった方が早かったわ!」

「そうだけど、あれが普通なんだよ」

魔法書に書かれている通り呪文を唱えていれば、一人で門を破壊するのは大変だ。

しかし、あの様に人数を揃えて一気にやる方法なら手っ取り早くて確実に壊せるし、魔法使いの負担も少なくて済む。

門を破壊した後は、壊れた門の破片を吹き飛ばして砦内に侵入しやすい様にしている。

軍隊と言う事だけあって、手際よくまとまって行動しているな。

そして、砦に突入する軍が一気にグリバス砦に向けて突っ込んで来た。

ここまで上手く進んでいる所を見るに、俺達が塔を破壊する必要は無かったのかとも思えて来る…。

「見事な物ね!」

「そうだね。魔法師団も突撃している軍の防衛に回ってるし、意外と簡単に砦は落とせそうかな?」

本当の戦いは砦内部に侵入してからなのだろうけれど、中に入れてしまえば砦は落ちたも同然だよな…。

俺は安心して軍の動向を見守る事にした…。


≪アイロス王国軍 トリステン視点≫

部下に指示を出した後、グリバス砦の中央にある司令塔へと戻って来た。

「カールハインツ、こちらの準備は整った」

「そうか、ソートマス王国軍も動き出した。手筈通り撤退を開始する!」

欺瞞作戦の為に残っていた兵士達に撤退の指示が出された。

まだグリバス砦に残っているのは、俺の部隊と魔法師団のみとなる。

魔法師団には、あの少年の相手をして貰う事になり非常に危険なのだが、少年の実力を見極めるには居て貰わなくてはならない。

しかし、すぐに逃げられるようにと、魔法師団長のブルクハルトには飛行魔法が使える者だけを選別して残して貰っている。

何人生き残れるかは分からないが、危険を感じたらすぐに逃げる様にとブルクハルトを通さず言ってはおいた。

ブルクハルトは少年に勝つつもりでいて、奴の指示通り動いていては死んでしまうだろうからな。


「来たな」

高く作られた司令塔からも、ソートマス王国軍がグリバス砦の前方に布陣したのが見えた。

「魔法師団精鋭の実力をお見せしますよ!」

ブルクハルトは自信に満ちた笑みを浮かべ、ソートマス王国軍を見下ろす。


「敵魔法使いと思われる少年と少女が塔に接近!少年はメイドを抱えているとの事です!」

「は?メイドだと?」

俺は念話で報告を受けた部下に再度尋ねて見たが、同じ答えが返って来た…。

敵の魔法使いは少年少女とメイドの三名だと言う事だ。

少年一人だけでは無かった事にも驚いたが、戦場にメイドを連れて来たという事には理解が及ばなかった。

「撃て撃て、撃ちまくれ!」

ブルクハルトが攻撃の指示を出し、塔に配置していた魔法師団から次々と魔法が少年少女に向け撃ち出されて行く。

ここからは離れすぎていて詳しい状況が分からないが、一通りの魔法攻撃を受けてなお空中に浮いている人らしきものは確認出来た。

「ブルクハルト!撤退の指示を出せ!」

「撤退?まだまだこれからですよ!」

「馬鹿早くしろ!部下が死ぬぞ!」

駄目だ、ブルクハルトは聞く耳を持たん。

そして、ここからでも分かる派手な魔法が塔を包み込んだ…。


「あれは何だ!?」

「馬鹿な!ありえない!」

カールハインツとブルクハルトも、目の前で起こっている魔法に驚愕している。

俺もあんな魔法を見た事も聞いた事も無い!

炎の竜巻が塔を包み込んでいて、逃げ遅れた魔法使いは助からないだろう…。

「もう一度言う!ブルクハルト、直ちに撤退の指示を出せ!!」

「わ、分かった…」

塔を襲ったのは炎の竜巻だけでは無かった、反対側の塔は氷に覆われたかと思うと次の瞬間には赤く光り、ここまで聞こえるほどの音を出しながら崩れ去っていた…。

「カールハインツ、俺達も逃げ出すぞ!」

「うむ、全軍撤退!」

これ以上見ている必要は無い!

俺達は急いで司令塔の階段を駆け降り、用意しておいた馬に跨ると、裏門に向け全力で馬を走らせた!


しかしタダで砦を渡すほど優しくはない。

アイアニル砦での決戦に向け、少しでもソートマス王国軍に被害を受けて貰わないとな!

それに、少年にはやられっぱなしだから、少しでもやり返してやらないと俺の気持ちが収まらない!

ここである程度被害を与える事が出来れば時間も稼げると言うものだ。

しかし、少年だけでも手に負えなかったのに、二人も魔法使いが増えている。

それに、あの炎の竜巻魔法の破壊力は計り知れない。

本当にアイアニル砦で防げるのか?

上空から侵入され、砦内であの魔法を使われては打つ手が無いぞ…。

馬上で思考を巡らせるも不安しか募って来ない。

そして裏門に到着し、部下達と合流した。


「残っている者はいないな?」

「はっ、我々で最後です!」

「よし!罠を起動させる者だけを残し撤退するぞ!」

「はっ!」

俺達はグリバス砦を捨て、予定通りアイアニル砦まで撤退して行った。

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