第七十話 戦場の家 その一
ダニエル軍団長と兵士達が見ている中、俺達は家の中へと入って行った。
「ロゼとリゼは、必要な品物がそろっているか確認してくれ」
「「承知しました」」
出発前に全部そろえていて紛失している物は無いとは思うが、収納魔法の出し入れで消えている物があるかも知れない。
ロゼとリゼにはその確認に行ってもらった。
「ルリアとリリーは…」
「大人しくしておけばいいんでしょ!リリー行くわよ!」
「は、はい…」
ルリアは元から何も出来ないから、自らリビングのソファーに向かって行って座っていた。
リリーは何か手伝おうとしてくれていたみたいだけれど、ルリアが手を引いて連れて行ってしまったからな。
その気持ちだけで十分ありがたい。
俺は家の破損個所が無いかの確認と、家の地下に穴を掘る作業に向かって行く。
トイレの隣にある扉を開けると、そこには四角い蓋があって、それを開けると床下に降りられるようになっている。
真っ暗なので、火の玉を浮かべて灯り代わりにして床下へと降り、地面に魔法で深い穴を掘って行く。
その穴はトイレ、風呂、キッチンの排水を捨てるための場所で、家を撤去する際は埋め戻さなければならない。
穴掘りが終わって上に戻り蓋をしっかりと閉め、今度はそこにある梯子を上って天井裏へと来た。
ここには貯水タンクがあり、トイレとキッチン用の水を魔法で溜めて置ける。
無くなったらまた補充しなくてはならないが、一日くらいは持つだろう。
風呂のお湯は、俺かリゼが直接溜める事になっている。
水を沸かす給湯機なんて便利な物は無いから、水属性魔法と火属性魔法が使える俺とリゼしかお湯を作り出す事は出来ない。
水さえ用意出来ればルリアも沸かす事は可能だが、公爵令嬢にそんな事をさせる訳にはいかないからな…。
水を溜めつつ屋根裏にヒビが無いか確認するが、問題は無さそうだ。
下に降り、床下の四角い蓋が締まっていることを確認する。
この蓋が開いていると、匂いが部屋中に拡散されるからな…。
そんな事になってしまえば間違いなくルリアから怒られる。
念入りに確認してから部屋の外に出て、更に扉も厳重に閉めた。
それから一通り部屋を見て回って異常が無いか確認したが、問題は無かった。
収納している間は極端に物が傷んだりする事は無い事は分かっているが、皆の命を守る大事な家だから、念には念を入れておかないとな。
「エルレイ様、全て整っておりました」
「そうか、ありがとう」
リゼが俺に報告しに来てくれた。
ロゼはルリアとリリーのお世話をしている。
「これから食事の準備に取り掛かります」
「僕も手伝おうか?」
キッチンはあるが、火は魔法で出さないといけない。
リゼは火属性魔法を使えてロゼは使えないので、必然的に料理はリゼの担当と言う事になる。
一人では大変だろうから俺も手伝おうとしたのだけれど…。
「エルレイ様、お気持ちだけ受け取らせて頂きます。リビングでお待ちください」
「そうか…なら頼む」
「はい!」
俺は邪魔だと思われたのだろうな。
この世界に転生してから食事を作った事は無い。
それは貴族の子供として生まれたからには当然の事だ。
しかし勇者時代には作っていたから、それなりの料理は作れるとは思う。
でも俺が作った料理を、ルリアとリリーに食べて貰って不味いと言わると当分落ち込むのは間違いない。
無理をしない方が無難だな…。
俺もルリアとリリーの所に行って寛ぐ事にした…。
≪アイロス王国軍 トリステン視点≫
エレマー砦から撤退後、ソートマス王国に進軍中の本隊と合流し撤退を提案すると、カールハインツ第一軍団長以下全ての軍団長が提案を受け入れてくれた。
魔法師団長のブルクハルトだけが、そんな魔法はありえないと否定していたが数で押し切れた。
部下が持ち帰って来た壁の一部だが、鑑定の結果、単なる土を固めた物だと言うのが分かった。
通常なら焼しめて固めたりするものだが、焼いた痕跡はないと言う事で、魔法で固めた可能性が高いという事だった。
そしてそれを証明するかのように、ソートマス王国で俺達との戦争で戦果を挙げた少年が男爵になったと言う情報がもたらされて来た。
障壁を貫通する魔法を使い、一晩で長い壁を建設し、大きな落とし穴を作れる魔法使いが、たった一人の少年によってなされたという事だ…。
しかもその少年は、四属性魔法全て使用することが出来る為、ソートマス王国では英雄の生まれ変わりだとか言われているそうだ。
流石にこれは、ブルクハルトも認めなくてはならない事態となった。
俺達軍もそうだが、王族や貴族達もこの事には慌てふためき、少年に向けて暗殺者を送ったくらいだ。
恥を忍んでラウニスカ王国に頼ればよかったものの、面子を気にしてか、国王陛下はラウニスカ王国に頼る事はせず普通の暗殺者を送り込み、全て返り討ちにされた。
軍と魔法師団で知恵を絞り、様々な対策を考えては見たが、有効な物は何一つ出ては来なかった。
それでもこの国には、魔法使いに対して絶対的な防御を誇るアイアニル砦があるので皆楽観視していた。
だが俺は、それこそが危険なのでは無いかと思わざるを得ない。
確かにアイアニル砦の防御は硬い。
しかし、ソートマス王国が軍を二分し、一軍はアイアニル砦を抑え、もう一軍はアイアニル砦を大きく迂回して攻め込んで来れば魔法使いの少年の脅威は変わらない。
いや、王国の都市を直接攻撃されるため脅威は増す!
そもそも上空を飛んで攻め込んで来れば防ぎようもない。
ブルクハルトは単独で攻め込んで来てくれるのであれば返り討ちにしてやると豪語していたが、俺は不可能だと判断せざるを得なかった。
傭兵部隊とは言え、三百人の魔法使いを一人で追い返せる実力の持ち主だ。
魔法使いが何人いようと被害が増えるだけだ。
その事はブルクハルトに何度も言い聞かせたのだが、聞き入れてはもらえなかった…。
魔法使いの少年の対応策が決まらず無駄に日々が過ぎて行き、ソートマス王国軍の準備が着々と進んで行った。
軍ではソートマス王国軍の準備を妨害する案も浮上したが、魔法使いの少年が出て来ては被害が増加するのみと見なされ見送られた。
俺としても魔法使いの少年の前には立ちたくは無かった。
攻め込めば落とし穴に落とされ、守れば障壁を貫通する魔法で攻められる。
無駄に部下を死なせる事になるからな…。
そしていよいよ、ソートマス王国軍が我が王国に攻め込んでくると言う知らせが届き、軍団長が集まり対策会議が開かれる事となった。
現在俺達はグリバス砦にいる。
しかし、兵数そのものはかなり少ない。
何故なら、一度ソートマス王国軍と当たった後はグリバス砦を捨て、アイアニル砦まで下がる予定だからだ。
グリバス砦では、魔法使いの少年の実力を他の者達に見て貰う事が肝要だ。
それを受けて、アイアニル砦で魔法使いの少年とソートマス王国軍を叩く作戦だ。
ブルクハルトはグリバス砦で魔法使いの少年を屠るつもりのようだが、上手く行くとは思えない。
被害に遭う味方の魔法使いは可哀そうだが、ブルクハルトの目を覚まさせる役割は担ってくれるだろう。
「では、作戦どうり皆の者配置に付け!」
「「「「「はっ!」」」」」
カールハインツの号令と共に、軍団長たちが持ち場へと移動を開始した。
俺も部下達の所へと移動し、ソートマス王国軍の到着を待つ事となった…。
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