第六十九話 アイロス王国に出発
翌朝俺達は、玄関前で家族に見送られる事となった。
「父上、行って参ります!」
「うむ、与えられた使命をしっかり果たしてくるのだぞ!
それと、ルリアお嬢様とリリーお嬢様を何があってもお守りするのだぞ!」
「はい!」
父はしっかりを俺を目を見て厳しく言って来た。
優しい父だが、俺が男爵になってからは子供として扱ってくれなくなっていた。
俺もその事を嬉しく思うし、父に恥をかかせない為にも男爵としての責務を果たしてこようと思う。
「母上、行って参ります!」
「エルレイ、気を付けて行ってらっしゃい」
父とは逆に、母は今まで以上に優しくしてくれるようになっていた。
恐らくこの戦争が終われば、俺は与えられた領地に移り住まないといけないだろう。
そこが例え領民がゼロだとしても、既に国王陛下から男爵位と領地を授かっているのだから。
その事は母も理解しているからこそ、俺を抱きしめて別れを惜しんでいてくれている。
「エルレイ、早く帰って来てね!」
「アルティナ姉さん、すぐに帰って来ますから心配しないで下さい」
母と抱擁していると、そこにアルティナ姉さんも加わって来て暫く三人で抱擁する事となった…。
「エルレイ、頑張ってこいよ!」
「エルレイ君、頑張って来てください」
マデラン兄さんとセシル姉さんは、二人して俺の頭を撫でて元気づけてくれた。
皆との挨拶が終わり、俺はリゼを抱きかかえ、ロゼはリリーを抱きかかえて、ルリアと共に空へと旅立って行った。
最初は空間転移魔法でエレマー砦の近くまで行ってから、ソートマス王国軍が陣地を張っている場所まで飛んで行く予定だった。
しかし、ルリアが家から飛んで行く事を希望した。
天気もいいし、ロゼの訓練にもなるから丁度良かった。
飛行魔法が使えないのはリリーとリゼの二人で、リゼは俺が運びリリーはロゼが運ぶ事となる。
魔法を覚えて半年で空を飛べるようになっているロゼは優秀だと思うが、まだそこまで飛ぶ事に慣れている訳では無い。
その上、リリーを抱き上げてから飛ばなくてはならないのだから、ロゼの負担はかなりの物となるはずだ。
だから、空間転移魔法を使って負担を減らそうと俺は考えたのだが、ルリアは敵がいない状態での移動は訓練だと捕らえ、ロゼにその時間を与えたのだと思う。
一人で自由気ままに飛び回っているルリアにその気持ちがあったかどうかは分からないが、結果的には良かったと思う。
「ロゼ、辛くなったら自分の判断で降りて休憩してもいいんだぞ。一番大事なのはリリーなのだからな」
「はい、承知しております」
ロゼの傍に近寄って様子を窺って見たが大丈夫の様だ。
今日は風も穏やかで余程事が無い限り落ちたりはしないだろう。
「リリーも周囲に気を配ってロゼの負担を減らしてあげてくれ」
「はい、分かりました」
ロゼはリリーにそんな事はさせられないと思っているかも知れないが、周囲に気を配る事はリリーの安全にもつながるのだからな。
でも、そこまで心配する必要も無かったな。
比較的ゆっくりと飛んで来たのだけれど、ソートマス王国軍が陣地を張っている場所まで一時間もしないうちに到着した。
俺達が陣地上空に近づくと、地上から二人の魔法使いが上がって来て俺達の五メートルほど前で停止した。
「アリクレット男爵様であらせられますか?」
「はい、そうです」
「私はソートマス王国軍第一魔法師団所属のルサームと申します。
ご案内いたしますので、私に着いて来て下さい」
俺達が今日ソートマス王国軍に合流する事は、ラノフェリア公爵経由で伝えて貰っていたとは思うが、陣地上空に侵入したのは不味かったのかも知れない。
魔法使いが上空に来たら警戒されるだろうし、問答無用で攻撃されていてもおかしくは無かったな…。
砦とかなら手前で降りていたのだけれど、平原に多くのテントを張っているだけの場所だと何処に降りていいか判断できなかったんだよな。
紺の軍服に身を包んでいるルサームが前を飛んでくれている事で、眼下に居る兵士達の警戒は解かれていた。
「あちらに降ります」
ルサームが大きなテントの前にゆっくりと降り立ち、俺達もそれに続いて降り立った。
ルサームはテントの前で警護している兵士の所に行き、俺達が来た事を知らせていた。
そして俺達はテントの中に案内されて行った。
テント内部には横長のテーブルが置かれ、テーブルを取り囲むように兵士達が椅子に座っていた。
そのテーブルの一番奥の席に座っているダニエル軍団長が立ち上がると、他の兵士達も一斉に立ち上がった。
「エルレイ少年、いや失礼。アリクレット男爵、よく来てくれた!」
「ダニエル軍団長、お久しぶりです」
俺はダニエル軍団長の前まで歩いて行き、手を差し伸べて握手を交わした。
ダニエル軍団長とはエレマー砦で一度会っているので顔見知りだ。
顔見知りと言っても、あの時遅れて来た軍を率いていたのがダニエル軍団長だったため、一緒に戦った訳では無い。
今思い返せば、食中毒で軍の到着が遅れたのもラノフェリア公爵の作戦だったのだと思う…。
過ぎてしまった事だし、今回は自ら望んで戦場にやって来たのだ。
その意思を込めて、ダニエル軍団長の手をしっかりと握った。
俺達の席も用意され、テーブルに広げられた地図を見せて貰いながら、今回の作戦内容の説明を受けた。
現在位置は俺の領地であるシュロウニ砦から、かなり北上した平原に位置している。
つまりアイロス王国領内と言う事で、何時敵軍が攻め込んで来てもおかしくはない。
しかし、アイロス王国軍は現在位置から北東に五キロほど離れた場所にある、グリバス砦に引きこもったまま出てくる様子は無いとの事。
ここまで進軍して来た時も一切の抵抗は無かったと言う話だ。
ダニエル軍団長の話によると、俺の事を相当警戒しているとの事らしい…。
アイロス王国側にも、俺がエレマー砦で活躍して男爵になった話は伝わっているのだろう。
攻め込めば落とし穴に警戒しなくてはならないし、障壁を貫通する魔法攻撃で被害が大きくなると言う事だ。
やはり、送られて来た暗殺者はアイロス王国からだったのだと言う事になるのだろうな。
俺を殺せればその問題は一気に解決する。
俺がアイロス王国側でもそうするだろうな。
それで、明日にはグリバス砦に攻め込む予定との事だ。
「アリクレット男爵には、グリバス砦にある四つの塔を破壊して貰いたいが、やれるかね?」
「はい、お任せください」
俺達の役割はグリバス砦の守りの要である塔の破壊を与えられ、俺は承諾した。
隣に座っているルリアは少し不満気の表情を見せているが、俺の立場を考えて口出しはして来ない。
後で俺には色々注文付けて来るだろうけれど、それは一向に構わないな。
話しも終わり、俺達が休めるテントを用意していると言われたが丁重に断った。
「少し開けた場所だけ用意して貰えないでしょうか?」
「分かった。一晩で壁を作ったアリクレット男爵だ。面白いものが見られそうだな」
ダニエル軍団長は部下に指示を出し場所を用意してくれた。
そして暇だったのか、ダニエル軍団長とテーブルの席に座っていた他の兵士達も見学に付いて来ていた…。
「危険ですので少し離れていてください」
俺は前に出て、収納魔法から用意していた家を取り出して設置した。
「これは予想していなかったな…」
「何も無い所から突然家が出て来たぞ!」
「魔法とはこんなことも出来るのか…」
皆は驚きの声を上げ、俺が出した家を呆然と眺めていた…。
「皆さん、僕に用事がある際はこちらの玄関の前から声を掛けてください。
無断で家の中に侵入してきた場合は敵とみなし、問答無用で攻撃を仕掛けます!」
「うむ、それは徹底させよう!」
「ダニエル軍団長、よろしくお願いします」
ソートマス王国軍の中に暗殺者が居る可能性がないとも限らない。
ルリアとリリーを守るために用意した家なのだから、これくらいのルールは守って貰わないといけない。
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