第六十八話 準備完了
俺はいよいよソートマス王国軍と合流し、アイロス王国に侵攻する事となった。
今日まで準備を怠る事無くして来たが、不安でいっぱいだ…。
しかし、その気持ちを表に出すと他の皆が不安になるから平気な顔をしていなくてはならない。
まだ結婚した訳では無いが、家族を守る大変さと言うのを少しずつ実感してきた。
改めて父を尊敬し、見習って行こうと思う。
戦争の準備として魔法の訓練を続けて来たのだけれど、主に地属性魔法と水属性魔法に力を入れて来た。
理由としては、ルリアが火属性魔法と風属性魔法が使えるし、火力と言う点において俺はルリアに勝てない。
勿論、魔力をより多く消費すれば火力を出す事は可能だが、ルリアに任せた方が楽だからな。
本音を言えば、ルリアに危険な前線に出て魔法を使って貰いたくは無いが、後方で大人しく待っている様な性格ではないからな…。
水属性魔法だが、俺が主に使用するのは治癒魔法だけだ。
訓練のお陰で、三メートルほど離れた場所からなら治癒魔法を掛けられるようになった。
リリーは目視できる範囲であれば治癒魔法を掛けられるのに対して、俺の範囲は狭いと感じられるが、それでも治癒対象に触れずに行使できる利点は大きいと思う。
地属性魔法の方は色々な物を土で作り出せて、俺のお気に入りの魔法になりつつある。
努力の甲斐あって、ルリアでも簡単に壊せない様な土壁を作る事が出来る様になった。
強度に関してはその場にある土に異存してしまうが、形を作って固めた後、高温で焼き上げて固めるのである程度の硬さになる。
レンガや陶器の様な感じだ。
魔法を使って短時間で作るから、本格的に焼しめた物よりは強度は劣る。
材料の粘土を厳選し、時間をかけて作り上げれば、より強固な物が作れた。
その技術を使い、俺は強固な家を作り上げた!
勿論材料は土だから見た目が非常に悪い…。
悪いが、生活するのには何も問題が無いし安全性も高い。
重要な強度だが、実験として俺が家の中に入り、外からルリアに魔法攻撃をして貰ったが中も外も無事だった事から、この家があればどこでも安心して休む事が可能だ。
入口の扉や窓は二重になっていて、雨戸みたいな防壁を開ければちゃんと中に光も入って来る。
内装に関して俺には作れないので、村の職人に頼んで仕上げて貰ったのだけどな。
家の中は十二畳の寝室、二十畳のリビング、ダイニング、キッチン、風呂、水洗トイレ完備だ!
寝室に関して、最初は男女別になるように部屋を分けていたのだけれど、安全を確保するため一部屋になった。
これはロゼとリゼの要望であり、ルリアも認めた事で俺が望んだ事では決してない!
望んで無いんだからな!
家具類も間に合ったし、家ごと収納魔法で持ち運べば、戦場においてルリアとリリーが苦労する事も無いと言う事だ。
ソートマス王国軍が居る中で収納魔法から家を取り出せば目立つ事は間違いなく、俺が空間属性魔法を使える事を大々的に宣伝してしまう事になる。
しかし、ルリアが戦場でテント暮らしを強いられる事を許容できなかったラノフェリア公爵が、空間属性魔法の使用を許可してくれた。
それに、何度も暗殺者の襲撃を受けたので隠している意味も無くなったからな。
アルティナ姉さん、セシル姉さん、イアンナ姉さんの魔法も上達し、自衛は出来る様になって来ているのも大きい。
後は、アイロス王国との戦うために用意した大小様々な玉だ。
玉を作ったのには理由がある。
ラノフェリア公爵から知らされたアイロス王国側の情報に、魔法ではどうにも出来ない物があったからだ。
それは、ここまでアイロス王国を守って来た砦であり、四百年前にソートマス王国軍がその砦まで攻め込んで大敗した砦でもある。
その砦の名前はアイアニル砦。
全ての魔法を無効化する素材で作られている砦は、この魔法の世界において破壊不可能な砦とされている。
俺はその情報を知ったとき言葉を失った…。
どんな強固な砦でも、ルリアがバーンとやれば破壊出来ると思っていたし、俺でも破壊出来ない砦は無いだろうと思っていた。
エレマー砦の時にも攻城兵器は無かったし、ラノフェリア公爵に問い合わせても、ソートマス王国軍が攻城兵器を所持していないと言う事が分かっている。
魔法が効かないのであれば物理で殴るしか無いと思い、玉を用意したと言う事だ。
大きな玉を魔法で撃ち出すのはかなり困難だ。
しかし、上空に飛んで収納魔法から取り出して落とすのであれば簡単に出来る。
問題は、俺が作った玉より砦の方が強固だった場合お手上げになるのだが、その時はまた違う方法を考えるしかない…。
金属製の玉を用意出来れば良かったのだろうけれど、お金と時間が足りなかった…。
まぁ、ソートマス王国軍もいる事だし、いざとなれば数で押し込んで貰う他ないだろう。
食料は、五人が一ヶ月は食べて行ける量は用意した。
それとは別に、一週間に一度程度は家に補給しに戻る予定にしている。
収納魔法に食材を入れて置けば腐敗はしないけれど、毎日同じメニューになるのは避けたいし、家族に報告するためにも戻って来た方が心配かけないで良いからな。
アイロス王国との戦争に出発するのを前に、皆に俺の部屋に集まって貰った。
ルリアとリリーの部屋だとベッドが三つ置いてあって狭いからな…。
かと言って、八畳の俺の部屋が広い訳でも無いが、五人が椅子に座って話せるくらいは出来る。
皆が席に着いた所で話を始める事にした。
「戦争に向けて大まかな役割を決めておこうと思う」
「分かったわ。それでどの様にするの?」
ルリアは腕を組んで俺の言葉を待ち構えている。
気に入らなければ、いつでも口を挟んでくるつもりなのだろう。
意見を言って貰うために集まったのだからそれは良いのだが、威圧するような視線で睨んで来ないで貰いたい。
前回のエレマー砦では、ルリアに大した魔法を使わせなかったから仕方が無いな…。
「ルリアには、俺と一緒に前線に出て魔法を使って貰うつもりだ」
「そう、本当にいいのよね?」
「うん、心配しなくても活躍の場は作るつもりだ。
しかし、ソートマス王国軍との連携もあるから無差別にと言う訳にはいかない」
「それくらい分かっているわ!」
ルリアは前線に出られると聞いて表情を緩め、組んでいた腕を解いて紅茶に手を伸ばしていた。
ルリアが活躍できるかはソートマス王国軍に掛っているが、そこは俺が交渉するしか無いな。
これだけ言って活躍の場が無いとルリアに言えば、暴れるのが目に見えているからな…。
「リリーは後方に待機して、俺達がもし怪我をした場合に備えて貰いたい」
「はい、分かりました」
「ロゼはリリーの護衛を頼む。いざと言う時はロゼの判断でリリーを抱えて逃げてくれ!」
「承知しました」
リリーは元王女であったし武術の心得も無いので、安全な後方にいて貰う事にした。
ロゼは飛行魔法を使えるので、リリーの護衛には適任だからな。
そして残ったリゼは飛行魔法が使えなく、どんな役割を与えられるのか期待の眼差しを向けて来ている。
ここで、ロゼと一緒に後方で待機なんて言ったら文句を言って来るのは目に見えているな…。
「リゼは、俺と一緒に前線に来て貰う」
「はい、全力でお守り致します!」
リゼは笑顔で応えてくれた。
リゼを抱きかかえて飛べば俺の負担になるのだが、役割を分担すれば悪い方法でもない。
リゼに攻撃を任せ俺が防御に徹する事にすれば、防御は完璧なものとなるだろう。
それに、ルリアを守る余裕さえ生まれて来るはずだ。
そして最大の利点が、常にリゼ体温と柔らかさを感じる事が出来るし、戦場に置いて俺の心を癒し続けてくれる事となるだろう!
心の安寧が得られれば、常に冷静な判断が出来るし良い事尽くめだ!
「翌朝には出発するから、今日はゆっくりと休んでいてくれ」
「分かったわ!」
「はい、エルレイさん」
「「承知しました」」
準備は整った。
ルリア達は自室に戻り、俺は皆が無事にこの家に戻って来られる様にと、女神クローリスに祈りを捧げることにした…。
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