第六十七話 アリクレット男爵家の危機 その二

父には家の周囲に罠を作ると言った物の、良い案が浮かばず何もしていない…。

落とし穴を作るにしても家の周囲全てに作るわけにもいかず、かと言って高い壁で家を囲ってしまえば一時的に暗殺者から家族を守る事が出来るが、根本的な解決には至らない。

暗殺者を捕らえて雇い主の事を聞きださないといけない。

話してくれるかは別として、捕らえない事には永遠と狙われる事になるからな。

結局、襲って来てから対処するしか方法は無いみたいだ。


ヴァイスさんから情報を貰ってから二日後の深夜、暗殺者集団が家に迫って来た!

「エルレイ様、近くに来たみたいです!」

「分かった。ロゼには手配通り動くように伝えてくれ」

「はい、承知しました」

暗殺者が意外と早く来てくれて助かった。

この二日間、夜の間はほとんど寝ていなかったからな…。

この状態が一週間も続けば、俺の幼い体は持たなかっただろう。

リゼが俺の部屋の窓を開け、俺はリゼを抱きかかえて窓から外へと飛び出した。

家の守りはロゼに任せていて、ロゼは一階のあらゆる入り口を地属性魔法を使って塞ぐ手筈になっている。

父には、使用人を含む家族全員を安全な二階へと集めて貰う。

ロゼの魔法が破られる事は無いとは思うが、それだけの威力ある攻撃を家に与えられた場合、一階は崩れて危険だからな。

それに二階にいれくれれば、俺が窓から戻って転移魔法で全員避難させると言う方法も取れる。

空間属性魔法の情報が漏れる可能性が高いから、それは最終手段だ。


俺はリゼを抱えたまま家の屋根へと降り立つ。

周囲は暗く、ここから暗殺者を見つける事は出来なかった。

「リゼ、敵の数は分かるか?」

「正確な数までは分かりかねますが、敵は四方から家を取り囲む様に来ています」

「そうか…」

確実に殺しに来たという事だな。

出来れば俺一人でやりたかったが、四方から来られては防ぎようが無いな…。

『ルリア、起きているか?』

『起きているわ!それで、何処をやればいいの?』

『家の正面から近づいて来た敵を頼む!』

『分かったわ、殺していいのよね?』

『うん、手加減は不要だ。ルリアは決して地上に降りずに空からのみ攻撃してくれ』

『任せといて!』

ルリアの魔法でも殺さないで捕まえる事は可能だろうけど、反撃を受ける可能性があるし、ルリアの危険を極力減らしておきたかった。


「リゼ、家の右側、裏、左側の順番で敵の排除に行く。

俺は敵の気配が分からないから、リゼが見つけた敵を氷漬けにしてやってくれ!」

「承知しました!」

屋根から飛び出し、リゼの指示に従いながら夜の空を飛んで行くと、俺も闇夜に蠢く影を三つ確認出来た。

「アイスフィールド!」

リゼが素早く魔法を使い、闇夜に蠢く影三つを氷像に変えた。

恐らく生きてはいないだろうが、もし生きていたとしても逃げる事は不可能だろう。

全員を生け捕りにする余裕など無いのだからな。

「エルレイ様、他に気配はありません」

「裏側に向かう!」

俺は素早く方向転換をし、家の裏側へと飛んで行く。


家の裏側に到着すると同時に、こちらに向けて火の玉が飛んで来た!

流石に相手も気が付いたのだろう、家の正面側からルリアの魔法の音も聞こえて来ているしな。

火の玉は俺の障壁によって消え去り、リゼがお返しとばかりに魔法を使い敵を氷像へと変えていく。

裏側に来ていた四人の敵も、ろくに抵抗させずに仕留める事が出来た。


「残りは左側だが、そこは俺が生け捕りにする」

「承知しました」

家の左側へと急いで飛んで行き、暗殺者を生け捕りにしようと思ったのだけれど…。

「遅かったわね!」

そこには既にルリアが上空で停滞していて、近くには暗殺者だと思われる二体の死体も見えていた…。

「…リゼ、他に敵の気配はあるだろうか?」

「いいえ、ございません」

「そうか…」

生け捕りにしたかったが仕方が無い。

「ルリア、家の中に戻ろう」

「分かったわ!」

俺は一応リゼと共に家の周囲を飛んで回って敵が居ないことを確認した後、家の中に戻って行き父に報告した。


「エルレイ、暗殺者はどうなった?」

「全員倒しました。死体はそのままにしていますので、明日の朝にでも処理をお願いします」

「うむ、後の事は私に任せて休みなさい」

「ありがとうございます」

これで安心して眠れる…かどうかは分からないが、体の方に疲れがたまって来ている。

父に甘えて自室に戻り、ベッドに寝ころんで目を瞑った…。

エレマー砦の時もそうだったが、睡眠不足は子供の体に負担が大きすぎる。

これ以上暗殺者が襲って来ない事を願いつつ、意識を手放した…。


翌日、父が暗殺者たちの死体を調べたそうだが、身元を確認出来る物や雇い主からの命令書のたぐいは発見されなかったそうだ。

暗殺者から得られる情報が無いのは父も承知していた様だ。

それは、生け捕りにした場合も同じだろう。

雇い主が直接暗殺者に依頼する事は殆どなく、間に誰か入るのが普通なのだそうだ。

暗殺の依頼を受けるギルドがあるらしいが、父は知らないとの事だった。

知っていたとしても、俺に教えてくれるはずも無いな…。


それからも、何度か暗殺者が俺に向けて送られてきたが、事前にヴァイスさんから情報を得る事が出来て家族を守る事が出来た。

情報が分かるのならヴァイスさんの方で未然に防いでくれればありがたいのだが、ヴァイスさんが居るラノフェリア公爵家と家とは遠く離れているからそれは無理なのだろう。

それならなぜ、ヴァイスさんは暗殺者の情報が分かるのか疑問に思いルリアに聞いて見た。


「ヴァイスさんはどうして暗殺者の襲撃が事前にわかるんだ?」

「それは、お父様が大陸中に諜報員を配置しているからよ」

ルリアは当然といった感じで答えてくれた。

ルリアを守るために、ラノフェリア公爵がアリクレット男爵領に人を送り込んでいても不思議では無いな…。

「なるほど、でもそれって物凄くお金がかかりそうだね…」

「お金は掛かるでしょうけど、そのお陰でラノフェリア公爵家が長年に渡って続いて来たのよ」

大陸中に諜報員を配置するだけでも相当なお金がかかる事だろう。

それもただの諜報員では無く、念話が使える魔法使いで無ければ情報の伝達速度に問題が出て来てしまう。

十人に一人の割合でしか居ない信頼できる魔法使いを、何人も雇い入れるにはどれだけのお金が必要なのか想像もつかない…。

しかし情報は大事だし、公爵家を維持するためには必要な投資と言う事なのだろう。

俺は絶対にラノフェリア公爵を敵に回さないと心に誓った…。


危機に対して周囲に注意を払わずに済むのが分かり、俺は安心して魔法の訓練に集中できると言うものだ。

アイロス王国に侵攻する時期も迫って来ていて、ラノフェリア公爵からアイロス王国に関する情報も伝えられていた。

その情報を元に対策を立てなくてはならないし、より一層忙しい日々を送る事となった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る