第六十五話 勝負! その四
「場所を確保して参りますので、少々お待ちください」
第一魔法訓練場、俺がこの城に来て魔法を披露した場所に到着し、カールが急いで他に訓練をしていた魔導士達の所に勝負の場所を確保しに行った。
俺とカールの勝負だと言う事で、訓練をしていた魔導士達は全員手を止め場所を空けてくれた様だ…。
「ルリア、行って来る」
「頑張って来なさい!」
俺はルリアと繋いでいた手を離し、カールの所へと向かって行く事にした。
先程までルリアの手の温もりを感じていた手は少し冷え、アンジェリカとロムルスの甘い空気で緩んでいた気持ちを引き締めなおすのには丁度よい風が吹いて来ていた。
両手で頬を軽く叩き、深呼吸して気持ちを落ち着かせていった。
よし!
どんな勝負だとしても集中して行えば敗北する事は無い!
「エル!エルではないか!」
せっかく気持ちを落ち着かせたのに、ヘルミーネ王女が手を振りながら大きな声で俺の名前を呼んだことで動揺してしまった…。
この前俺が言った事守り、真面目に魔法の訓練をしていたのかも知れない。
それならば、俺としてはヘルミーネ王女の事を褒めてやらないといけないだろう。
俺は急いでヘルミーネ王女の元まで行き、片膝をついて挨拶をした。
「ヘルミーネ王女様、お久しぶりでございます」
「うむ、久しいな。今日は何用で来たのだ?
エルは男爵の仕事で忙しいのでは無かったのか?」
「は、はい、そちらは忙しいのですが、今日はあちらに居る知人のお見合いの為に来た次第です」
ヘルミーネ王女は俺がお城に居る事に対して、眉をひそめて疑問を投げかけて来た。
暇があるのなら、ヘルミーネ王女の魔法の訓練に付き合えと言いたげな様子だ。
しかし、俺の後ろで片膝をついて頭を下げているロムルスとアンジェリカを見て納得してくれたみたいだ。
「そうであったか、でもそれは終わったのであろ?」
「はい、無事に婚約が決まりました」
「それはめでたいの!エル、暇なのであれば私の魔法を見てはくれぬか?」
「申し訳ございません。今からあちらに居るカールと勝負をする事になっております」
「むっ、そうなのか。では、その勝負見学させて貰うぞ!」
「はい」
やはり魔法の訓練を見て貰いたいみたいだったが、カールとの勝負が先だ。
さっさと終わらせて、ヘルミーネ王女の魔法の訓練を少しは見ていかないといけないみたいだな…。
時間には余裕があるし、ロムルスとアンジェリカが一緒に居られる時間も長くなるから丁度いいのかも知れないな。
「ヘルミーネ、エルレイの邪魔になるからこっちに来なさい!」
「むっ、その声はルリアか…」
ルリアに呼ばれたヘルミーネ王女は、ルリアを見て嫌そうな表情をしていた。
ルリアとは知り合いだったのか…と言うか、ヘルミーネ王女を呼び捨てにして問題無いのだろうか?
問題無いから、ルリアも呼び捨てにしているのだろうな。
ヘルミーネ王女も嫌そうな表情をしながらも、大人しくルリアの指示に従っている所を見るに、意外と仲がいいのかも知れないな。
邪魔が入ったが、俺はやっとカールの所に行く事が出来た…。
「お待たせした。それで勝負の方法を教えて貰えないかな?」
「はい、的を二つ用意しておりまして、交互に魔法を使い、与えられた的を先に倒した方の勝ちとなります。
そして、相手の的を倒してしまった場合は負けとなります」
「なるほど、同時に倒せた場合は引き分けという事かな?」
「いいえ、その場合はもう一度的を立てて勝敗が決まるまで続けます」
「分かった。ちなみに、普通だと何回ほどで倒せる的なのか教えて貰えないかな?」
「はい、宮廷魔導士の皆様だと、三回以内には倒せる的です」
「ありがとう」
カールは親切丁寧に教えてくれた。
しかし、カールの俺を見る目だけはギラギラと闘志を燃やしていて、負ける気は一切ないという事だろうな。
俺の予想だとカールは一回で的を倒す自信があるのだろう。
長い戦いになりそうだが、魔力と集中力の勝負だな。
二つの的の間隔は三十センチ位しか離れておらず、少しでも魔法の制御を間違えれば隣の的に当たってしまうな。
それに、強力は範囲攻撃を有する魔法、火属性や風属性は相性が悪いと思われる。
カールがどの属性を使って的を攻撃するのか見ものだな。
「私から先にやらせて頂きます」
カールが一歩前に出て的に向けて構えた。
「燃え盛り荒れ狂う炎よ、我が大いなる魔力を糧とし燃え盛る槍となり、我が敵を貫き燃やし尽くせ、フレイムランス!」
カールが作り出した炎の槍は的の中心に見ごとに命中し燃やし尽くしていた!
そして、隣にある俺の的には一切被害を与えていない。
制御の難しい火属性魔法を、あれほどまで完璧に使いこなしているとは驚きだな。
振り返ったカールのドヤ顔にはちょっとイラっとしたけれど、俺は大人だ…怒ったりはしないぞ。
「お見事です。次は僕の番ですね」
俺はカールに笑顔を見せながら、的の前に立った。
カールが燃やした的は、既に他の魔導士の手によって新しいのが立てられていた。
さて、どの魔法を使えばいいだろうか?
カールと同じ魔法を使うのが、カールの精神を逆なでしてよさそうではある。
でも、そこまでする必要は無いし、大人げないよな…。
ヘルミーネ王女も見ている事だし、地属性魔法を使うのが良いだろう。
地属性魔法は先の戦争でも使用していて、宮廷魔導士達にも知られている。
この際、俺の得意な属性は地属性魔法と思わせた方が得策だろう。
使う属性も決まり、的に向けて魔法を放つ!
使ったのは初級の地属性魔法ストーンバレット。
拳大の石の塊が的に飛んで行って根元の方に当たり的が倒れた。
普通の初級魔法だと倒れないだろうけれど、ちょっとだけ威力を増していたので問題無く倒れてくれてほっと一安心した。
威力の調整を間違えば的は倒れてくれなかっただろうからな…。
「さ、流石です…」
カールが驚愕の表情を浮かべている。
でもカールは諦めず、勝負の継続を告げて来た。
「こ、降参します…」
「いい勝負だったよ」
カールと俺が、十回的を倒した所でカールが降参してくれた。
カールは中級魔法で俺は初級魔法を使っていて、このまま続けたとしてもカールの方が先に魔力切れになるのは目に見えていて、カールの勝ち目は無いからな。
カールは俯き加減で、トボトボと歩いて退場して行った。
ちょっと可哀想かと思ったが、俺も負ける訳にはいかないからな。
「エル!見事だったぞ!」
勝負が終わった途端、ヘルミーネ王女が駆けつけて来てくれた。
「ヘルミーネ王女様、お褒め頂き恐縮です」
「うむ、やはり地属性魔法は素晴らしい魔法だな!」
「はい、その通りでございます」
ヘルミーネ王女は、俺が地属性魔法を使って勝利した事でご機嫌になっていた。
この選択は間違っていなかったのだと安堵した。
「エルレイ、まだ時間があるからヘルミーネの魔法を見てやってあげなさい!」
「分かりました。ヘルミーネ王女様、少しの間ではございますが訓練に付き合わさせて頂きます」
「うむ、よろしく頼む!」
ルリアにも頼まれた事だし、ロムルスとアンジェリカが一緒に過ごせる時間を少しでも長くするために、俺はヘルミーネ王女の魔法の訓練に付き合う事にした。
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