第六十一話 リリーと帰宅

翌朝の朝食には、エーゼル夫人に説得されたのか、次男ルノフェノと長女マルティナの姿が見られた。

しかし、二人共リリーの顔を見ようともしていないから納得はしていないのだろう。

でも、リリーも俺達と共に、この後家に帰るから気にする必要は無いか…。

何となく雰囲気の悪い朝食を終えた後、俺達は家に帰る事となった。

見送りに来てくれたのは、ラノフェリア公爵とアベルティア夫人とネレイトの三人。

王都に一緒に行った人達だけだが、この方が余計な気遣いをしなくて済むので助かる。


「エルレイ君、準備をしっかりしてくれたまえ!」

「はい、良い結果を出せるよう努力いたします!」

ラノフェリア公爵は力強く俺を激励し、アイロス王国との戦争にかける意気込みを感じさせた。

俺としても後に引けなくなった以上頑張るしかないが、もしかしてラノフェリア公爵も追い込まれているのかもしれない。

アイロス王国との戦争に敗北する事になれば、ラノフェリア公爵の立場も悪くなり、強いてはお城で会わされたヴィクトル第一王子の立場も危うくなるのかもな…。

この戦争は俺が思っている以上に重要な物なのかもしれないと気が付いたが、今は自分の出来る事を頑張るだけだな。


「エルレイ君、ルリアとリリーの二人共可愛がってあげて頂戴ね」

「はい!」

アベルティアから二人を可愛がるように言われて返事をしたが、正直どの様に可愛がればいいのかが分からない…。

頭を撫でればいいのか、それとも抱きしめてあげればいいのか?

街に買い物とかにも連れて行く事は出来ないし、近くの野山にピクニックとに行ければいいのかも知れないな。

そんな事を考えていると、ラノフェリア公爵が怖い表情で睨んでいた…。

嫌らしい事をするつもりは無いので睨まないで貰いたいのだが、ネレイトの言葉によるとラノフェリア公爵はルリアを溺愛しているみたいだし、気持ちは分からなくもない。

「ルリアお嬢様とリリーお嬢様は命に代えましてもお守り致します!」

「うむ、頼んだぞ!」

だから、このように答えるしか無いんだよな。

「ルリア、リリー、元気でね」

ルリアとリリーも別れの挨拶を終えたので、皆と手を繋いで家の自室へと空間転移魔法で帰って来た。


「リリーはルリアと同じ部屋で良いのかな?」

「はい、その方が都合がいいのでお願いします」

「そう?部屋は空いているから遠慮しなくてもいいんだよ」

ヴァルト兄さんの部屋が今空いているから、父にお願いすればリリーに使わせて貰えるだろう。

リリーも一人になりたい時はあるだろうし、個室があった方が良いと思ったのだけれど。

「いいえ、ルリアと同じ部屋でお願いします!」

「エルレイ、リリーの安全の為にも同じ部屋が良いのよ!

それに、ずっと一緒に過ごして来たのだから余計な気遣いは無用よ!」

「分かった。ルリアの部屋に荷物を置きに行くよ」

二人はとても仲がいいし、姉妹になったのだから気にする必要は無かったな。

ルリアの部屋へと移動し、収納魔法に入れていたルリアとリリーの荷物を取り出して床に置いて行く。

二人合わせて大きな鞄がニ十個もある。

ラノフェリア公爵邸で運んでとルリア言われた時には、多すぎると文句を言ったのだが、これでも減らした方なのだと言われた…。

殆どがリリーの服らしく、俺が城で苦労している時に王都で買って来たそうだ。

リリーは元王女で今は公爵令嬢なのだから、服が多い事に越した事は無いのだろう。

服が多いと文句を言って嫌われたくは無いので、黙って鞄を置いて立ち去る…。

俺はこの後父に報告に行かないといけないし、ルリアとリリーも鞄の中身を見られたくは無いだろうからな。


父の執務室に行き、男爵になり再び戦争になる事を伝えたが、父は既に知っていたみたいで驚く事は無かった。

ラノフェリア公爵に呼び出されて行った時点で、俺が男爵になる事は予想出来ていたみたいだな。

知らなかったのは俺だけの様だ…。

「エルレイ、お前には領地経営に関して何も教えていない。

不安はあるが、ラノフェリア公爵様が良い執事をお付けしてくれると言う事なので、最初は執事にすべて任せてしまえば良い。

しかし、エルレイが勉強を怠っていいという事では無いぞ!

今からでも私が教えてやりたい所だが、エルレイにはその時間が無い!

アイロス王国との戦争に備えてしっかり訓練に励むのだぞ!」

「はい、父上!」

父は厳しい表情で俺に釘を刺して来た。

「エルレイ、おめでとう!」

しかし、次の瞬間には笑顔になり祝福してくれた。

「エルレイ、おめでとう!」

一緒に居たマデラン兄さんも祝福してくれて、俺の頭を撫でてくれた。

この後、母とアルティナ姉さんにも報告に行ったのだが、母は泣いて喜び、アルティナ姉さんは暫く俺を抱きしめ続けて離してくれなかった…。


そして昼食時に、家族全員にリリーの事を紹介する事となった。

「僕の二人目の婚約者、リリーお嬢様です」

「リリー・ヴァン・ラノフェリアです。皆さんよろしくお願いします」

流石に俺の家族も、メイドのリリーがラノフェリア家の養女となり、更に俺の婚約者となった事には驚いていた。

しかし、それも少しの間だけだったな。

「事情は分かりました。リリーお嬢様、エルレイを支えてやって下さい」

「はい」

父は、リリーがラノフェリアを名乗った事で察してくれだのだろう。

事情を聞かずにリリーを受け入れてくれた。

リリーがラウニスカ王国の王女だったことを説明する訳にはいかないので、俺としては非常に助かり、リリーの事を家族が受け入れてくれて一安心した。

俺の家族にラノフェリア家で起こった様な事を言う人はいないと思っていたけれど、実際に受け入れられるまで心配だったんだよな。

一つ心配事は無くなったが、戦争と言う大きな心配事は残っている。

今日からは戦争に向けて、魔法の訓練の日々を送る事になるだろう。

気を引き締めて頑張って行かないといけない。


そして翌日からは、アルティナ姉さん、セシル姉さん、イアンナ姉さんの三人も含めて魔法の訓練を行う事にした。

自分の訓練も大事だが、家族の危険を減らすのも大事だ。

ロゼとリゼの魔法の訓練は、ルリアとリリーが引き受けてくれたので、俺はこちらに専念する事が出来る。

イアンナ姉さんは、朝から俺が家まで空間転移魔法で行って連れて来た。

皆と一緒にやった方がイアンナ姉さんも家族に馴染む事が出来るだろうし、俺も説明が一度で済むので楽が出来るからな。

「エルレイ、お姉ちゃん頑張るから遠慮なく教えてね!」

「エルレイ君、お手柔らかにお願いします」

「エルレイ君、私は火属性魔法が使いたいからお願いね!」

女三人寄れば何とやら…。

俺が説明している間も騒いでいる。

「エルレイ、お姉ちゃんに早く魔法を使わせてよね!」

「エルレイ君、私も難しい事は良く分からないので、先に魔法を使わせて貰えないかしら?」

「そうよね。実践あるのみよ!」

「分かりました。では今から呪文を教えますので順番に唱えて行ってください」

確かに、色々説明するよりやらせた方が早いのは間違いない。

魔法を使えれば、魔力切れで倒れて静かになるしな…。

という事で説明を省いて、三人に俺の魔力を渡して魔法を使わせる事にした。


この日と次の日の結果、アルティナ姉さんは水属性魔法と風属性魔法、セシル姉さんは火属性魔法と水属性魔法、イアンナ姉さんは火属性魔法と地属性魔法を使えることが分かった。


「お姉ちゃんもエルレイと同じ魔法使いになったのね!嬉しい!」

「エルレイ君、本当に魔法が使える様になって嬉しいわ」

「エルレイ君、これで私は魔法剣士ね!」

三人共と魔法が使えた事をとても喜び、三人から思いっ切り抱きしめられる事となった。

マデラン兄さんとヴァルト兄さんに悪いが、大人の女性の体は柔らかくてとても気持ち良かった!

ルリアとリリーの成長を楽しみにしておこうと思う…。

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