第五十九話 リリー その二
ベッドの中でごろごろしていただけで、まったく休憩できずに夕食に呼び出された。
ご飯を食べれば少しは落ち着いて眠る事が出来るかも知れないな…。
そう思いながら食堂へと向かって行った。
食堂には一番乗りで、他の人が来るのを待つ。
俺の次に来たのは、ルリアとリリーだった。
リリーはメイド服では無く、ルリアとおそろいのピンクの服を着ていた。
俺は席から立ち上がって、二人の所へと向かって行き声を掛けた。
「リリー、服が良く似合っていて可愛らしいよ」
「エルレイ様、ありがとうございます…」
俺は褒めると、リリーは両手を頬に当てて恥ずかしがりつつも、喜んでくれているみたいだった。
やっぱりリリーは可愛い!メイド服も可愛かったが、普通の服装も可愛すぎる!
メイドの時は簡単にまとめられていた銀の髪も綺麗に編み込まれていて、可愛さを引き立たせている。
思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、リリーに嫌われたくは無いので何とか我慢する…。
「エルレイ!」
ルリアに呼ばれて振り向くと、間近に拳が迫って来ていた!
「ぐぼっ!」
ルリアから派手に殴られて、壁まで吹っ飛ばされた…。
「ふんっ!リリー座るわよ!」
「はい…」
リリーは俺の事を心配しつつも、ルリアと一緒にテーブルの席に座った。
ルリアの事を放置していたのは悪いと思うが、リリーが可愛かったのだから仕方なない…。
俺はゆっくりと立ち上がり、殴られた頬を治療しながら席に座った。
「ルリアも可愛いよ!」
「お世辞は結構よ!」
ルリアは俺から顔を背けて、リリーと二人で楽しく会話をし始めている。
完全に怒らせてしまったみたいだが、今日ばかりはリリーを愛でていたいと思う…。
それから、他の人達も食堂にやって来て席に座っていたが、リリーが席に座っている事に対して不快感をあらわにしていた。
リリーがラノフェリア公爵の養子になると言う事は、他の家族に知らせてはいなかったみたいだな。
だとすると、メイドのリリーがルリアと同じ服を着て席に着いている状況を不快に思っても当然の事なのだろう。
しかし、ルリアが睨みを効かせているからか、リリーに直接文句を言って来る人が居なかったのは幸いだな。
そして、ラノフェリア公爵が食堂に入って来て夕食が始まった。
「今日は皆に良い知らせが二つある。
一つ目は、ルリアの婚約者エルレイ君が、国王陛下より男爵位を授かった。
エルレイ君、おめでとう!」
「ありがとうございます」
皆から拍手を貰い、俺は立ち上がって感謝を述べた。
「エルレイ君、これからの活躍、期待している!」
「はい、頑張ります」
俺のやる事は決まっているので、特に何か言う事も無い。
ただその意思を込めて、ラノフェリア公爵の目を見ればいいだけだ。
ラノフェリア公爵も俺の目を見て満足げに頷いてくれたくた。
「二つ目は、今日新たに私達の家族が増えた事だ。
ルリアのメイドだったリリーを、私の養女として迎え入れた。
これはリリーが我が家にやって来た時から決まっていた事だが、理由は話せない。
話せないが、ラノフェリア公爵家の養女に相応しい人物だと言う事だ。
そしてルリアの希望通り、リリーもエルレイ君の婚約者となる。
エルレイ君、私の娘リリーをよろしく頼む」
「は、はい」
突然の言葉に驚きを隠せない。
リリーが俺の婚約者!?
可愛い妹みたいだと思っていたリリーが俺の婚約者!
やばい!嬉しい!非常に嬉しい!
だが今は、その事を表情に出してはいけない!
何故なら、ルリアが俺の事を睨みつけて来ているからだ!
他の家族もいる場で、ルリアから殴られて笑いものにされたくは無いからな…。
出来るだけ平静を保ちつつ、リリーを見ないようにする。
今リリーを見てしまうと、嬉しさが溢れて来るに決まっている。
しかし、その嬉しさを我慢出来なくなる前に事態が急変した。
「父上、何故家族である私達に理由を話せないのですか!納得できません!」
次男のルノフェノが立ち上がり、ラノフェリア公爵に説明を求めたからだ。
「お父様、わたくしも納得できませんわ!メイドがわたくしの妹なるのを許容できませんわ!」
長女のマルティナも続いた。
「私が決めた事だ、異論は認めん!」
ラノフェリア公爵は二人を睨みつけながら言い放ったが、ルノフェノも負けてはいない。
「父上が話せないと言うのであれば、私は彼女と同席できません!失礼します!」
ルノフェノは躊躇する事無く食堂から出て行ってしまった。
「わ、わたくしもお兄様と同じですわ!
お、お兄様お待ちくださいまし!」
マルティナもルノフェノを追いかける様にして食堂から出て行った。
「旦那様、二人とも急な事で混乱したのだと思います。
私が言い聞かせますので、どうか二人をお許しください」
「エーゼル、苦労を掛けるが頼む」
「はい、それでは皆様失礼します」
第二夫人のエーゼルも二人を追いかけて食堂を出て行ってしまった。
「こうなる事は分かっていたけど、仕方ないよね!
今日は祝いの日だし、残った皆でリリーとエルレイを祝福してあげよう!」
ネレイトが、暗くなった雰囲気を明るくしようとしてくれたので、他の人達も表面上は笑顔で食事を楽しむ事となったが、リリーだけは申し訳なさそうな表情が晴れる事は無かった…。
「ルリア、少し話をしたいがいいだろうか?」
「嫌よ!と言いたい所だけれど…私の部屋に来なさい!」
「ありがとう」
食堂を出た所でルリアに小声で話しかけると、嫌々ながらも承諾してくれた。
まだ、先程ルリアを褒めなかった事を根に持っているのだろうけど、ルリアはリリーの事を考えて俺を部屋に呼んでくれた。
ルリアの部屋に入ると、ルリアはソファーにぼふっと背中を預ける感じに座った。
「もうルリア、お行儀悪いです」
「いいのよ!ここには身内しかいないのだからね!」
リリーはルリアの隣に行儀よく座りながら、ルリアの行動を咎めていた。
しかし、ここはルリアの部屋で気を使う必要は無いから、俺も同じ様にルリアの正面にソファーに体を預ける感じで座り込んだ。
「エルレイ様まで…」
「リリーは私の妹になったのだし、エルレイに様を付ける必要は無いわよ!」
「それに、僕の婚約者にもなったのだからね」
「はうっ!」
リリーは婚約者と言う言葉を聞き、両手で顔を覆って恥ずかしそうにしていた。
その可愛い仕草に顔がほころびそうになるが、ルリアの前だからぐっとこらえる。
また殴られたくは無いからな…。
「…エルレイさんと呼ばせてください」
「うん、リリー、よろしくね」
「はい、エルレイさん、よろしくお願いします」
リリーは覆っていた手をゆっくりと横にずらして真っ赤になった顔を見せ、小さな声でエルレイさんと言ってくれた。
嬉しいし可愛いし、傍に行って抱きしめたくなるな!
流石に嬉しさが表情に出ていたのだろう、ルリアから鋭い視線が刺さって来る…。
しかし、暫くこの表情が元に戻るとは思えないし、ルリア気遣いをする事で誤魔化す事にした。
「ルリア、リリーとも婚約者になったのだけれど、これからもよろしくお願いします」
「その事は最初から決まっていた事だから構わないわ!
そんな事より話があったのじゃないの?無いのならお風呂に入って寝たいのだけれど?」
「あぁ、そうだね。僕からの話と言うより、リリーの事を聞きたかっただけれけれど…。
リリーが嫌なら、話さなくてもいいんだよ?」
俺としては非常に気になるが、リリーを傷付けてまで聞きだしたいとは思わない。
事情を知っているルリアも、その辺りと気にしているのだろう。
ルリアがリリーに話していいか聞いている。
「ルリア、エルレイさんには私からお話しします」
「そう、リリーが決めたのであれば私は何も言わないわ!」
「ルリアありがとう。それから話は長くなりますので、ロゼとリゼも座らせてよろしいでしょうか?」
「いいわよ、ロゼ、リゼもソファーに座りなさい!」
「「はい、失礼します」」
ロゼとリゼもソファーに座り、リリーがゆっくりと話し始めた…。
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