第五十五話 王子との会談

そして翌日、ラノフェリア公爵とネレイトと共に馬車に乗り込み、お城へと向かって行った。

今日もルリアとアベルティアは買い物に出掛けるそうだ。

アベルティアが朝食の時に、ルリアのアクセサリーを買いに行く事を楽しそうに教えてくれた。

出来る事なら、指輪だけは買って来ないで貰いたいと願ってしまった…。


馬車は何事も無くお城に着き、俺達はお城の前に降り立った。

昨日と同じく美しい城を見上げて一つ息を吐き、気を引き締めなおしてラノフェリア公爵とネレイトの後に続いてお城に入って行った。

俺は昨日男爵を拝命していたため騎士から睨まれる事は無かったが、油断しない方が良いだろう。

お城では騎士達が正義だ。

騎士が俺の行動に対して疑問を持つだけで捕まえられ処罰される。

言動には細心の注意を払って方が良いだろう。

ラノフェリア公爵は長い廊下と階段を迷う事無く歩き、一つの扉の前で立ち止まった。

扉の両隣には騎士が立っていて厳重に警護している所を見るに、部屋の中に居るのは高位の人物だと言うのが想像できる。


「エルレイ君、今からお会いする人物は、次期国王のヴィクトル第一王子だ。失礼の無いようにしてくれ」

「はい!」

「ネレイトには、エルレイ君の手続きの方を頼む」

「はい、お任せください」

ネレイトは頑張ってね!と俺に耳打ちをしてから、他の場所に行ってしまった…。

俺の手続きの方も気になるが、今は第一王子との面会に集中した方が良いだろう。

ラノフェリア公爵が騎士に名前を告げ、騎士が面会の許可を確認した後扉が開かれ中に入る事が出来た。


「魔法使いのお兄ちゃんだぁ!」

部屋に入るなり小さな男の子が駆け寄って来て、ドーンとタックル気味に抱き付かれた。

四、五歳くらいの男の子だから衝撃はそんなになく受け止められたが、問題はどう対応して良いものか迷う。

まさかこの子が第一王子だとか言わないよな?

それだと、頭を撫でた時点で不敬罪で罰せられやしないか?

俺が困惑して固まっていると、横に居たラノフェリア公爵が男の子の頭を撫でたから第一王子ではない?


「ストフェル王子は元気があってよろしいですな」

「えへへ」

頭を撫でられた男の子は、ラノフェリア公爵にはにかんでいた。

第一王子の名前はヴィクトルだと聞いたから、この子は違うようだが王子には変わりは無い。

「ストフェル王子、お父上の所に案内して頂けませんか?」

「うん、こっちー」

ストフェル王子は俺の手を握り、部屋の奥の方へと力強く引っ張って行かれた…。

部屋の奥にはアーチ状の短い通路があり、そこを抜けた先にはまた広い部屋があって、窓際に置かれたテーブルの席には三十代くらいの男女が座っていた。

こっちがヴィクトル第一王子で、隣に座って居るのがその妻だろう。

そして、俺の手を引っ張っているストフェル王子が二人の子供という事か…。


「ヴィクトル王子、メイヒア妃、エルレイ男爵をお連れ致しました」

「待っておったぞ。座ってゆっくりと話しをしようじゃないか」

ラノフェリア公爵が二人に声を掛け、俺達に席に着くようにと勧めて来た。

王子と同席しても良いのだろうかと迷っていたが、近くにいたメイドが椅子を引き、ラノフェリア公爵が着席したので俺もその隣に座った。

ストフェル王子は、俺が着席する前に母親の下に行って膝に乗せて貰っていて、俺の事を興味深そうに見ている。

昨日、俺が魔法を披露したのを見学していたのだろうが、恐らくあの場所で宮廷魔導士達が訓練しているのだろうから魔法は見慣れていると思うんだがな…。

まぁ、ストフェル王子の事はどうでもいいな。

ヴィクトル王子に対して、失礼の無いように気を付けなければならない。


「エルレイ・フォン・アリクレットと申します。

本日はお招きいただき、誠にありがとうございます」

俺は一度席を立ち挨拶をした。

「私はヴィクトル・フェリクス・ド・ソートマス。こちらが妻のメイヒアと息子のストフェルだ」

ヴィクトル王子も俺に挨拶をしてくれて、再び座るよう促されたので着席した。

なぜ俺がヴィクトル王子と会談する必要があるのが疑問だが、ヴィクトル王子の方には俺との会談に意味があるのだろう。

ヴィクトル王子をよく見ると、昨日お会いした国王陛下によく似ていて、優しそうな目をしている。

表情も柔らかく、第一印象は良かった。

そのヴィクトル王子がゆっくりと話し始めた。


「エルレイ、いきなり呼びつけられて驚いている事だろう。

しかし、この会談自体に大した意味は無いので、気を楽にしてくれて構わないよ」

「はい」

意味が無いのに呼び出さないで貰いたい!と言いたいが、ぐっとこらえて笑みを浮かべる。

「無理に笑う必要も無いよ。私は多くの人と会っていて、偽りの表情を見分けられるからね」

「失礼しました!」

ヴィクトル王子は少し苦笑いをして注意してきた。

俺は慌てて笑みを消し、普通の表情に戻した。

表情を読み取れると言うのは凄い技術だと思うと同時に、少し恐怖を覚えた。

ヴィクトル王子に対して嘘を吐けないという事だからな…。

「別に怒った訳では無いし、気にしなくて構わないよ」

ヴィクトル王子は笑顔を見せて気にするなと言ってくれたが、気にしない訳にはいかないだろう!

これ以上怒らせないようにしないといけない!


「エルレイ君、そう緊張しなくてもいいぞ。

ヴィクトル王子は寛容だし、本当に会話自体に意味は無い。

しかし、エルレイ君が私と共にヴィクトル王子を尋ねた事自体に意味がある」

ラノフェリア公爵がヴィクトル王子を擁護し、ここに来た事をの意味を教えてくれた。

「えーっと、それは、僕がヴィクトル王子の味方だとお城に居る人達へ表明する、と言う事で合っているでしょうか?」

「うむ、その通りだ」

会談に意味が無く、訪れた事に意味があるとするならば、それは対外的な意味でしか無い。

魔法しか能の無い俺を味方に付けた事に意味があるのかは分からないが、ヴィクトル王子とラノフェリア公爵にとっては意味のある事なのだろう。

ソートマス王国の貴族の世襲は、余程の事が無い限り長男が受け継ぐものだとされている。

王家も同じだとすると、ヴィクトル第一王子が次期国王のはず。

ラノフェリア公爵も、この部屋に入る時に次期国王だと言っていたからな。

しかし、その地位が危ぶまれているという事なのだろうか?

その事を直接聞く訳にもいかず、説明を求めてラノフェリア公爵を見た。


「エルレイ君、困惑の表情をしているな。そんな事ではヴィクトル王子で無くとも考えを読まれてしまうぞ」

そう言ってラノフェリア公爵に笑われてしまい、ヴィクトル王にも同じように笑っていた。

「ロイジェルク、子供のエルレイにそこまで求めるのは酷だと言うものだよ。

素直に表情に出ない子供の方が信用を置けないからね」

「確かにそうだな」

再び二人は笑い合った後、ヴィクトル王子が優しい目で見つめて来ながら説明してくれた。


「エルレイが考えた通り、私の王位継承の地位を私の弟イクセル第二王子によって脅かされている。

弟が優秀であれば、私もをれを受け入れる事も躊躇しなのだが、在る貴族に担ぎ上げられていてね。

そして、国王もそれに賛同しかけている。

国王と言えども、貴族の発言を無視して国政を行う事は出来ないから仕方ないのだけれど…。

だから私には、より多くの味方が必要だと言う事だね」

ヴィクトル王子は、それが君だよと言う視線を俺に向けて来た。

ここは素直に味方ですと言えばいい所だろうが、会って間もないヴィクトル王子に対して味方だとは言えない。

そんな事を言えば、また嘘だと見抜かれてしまうからな。

だからここは、今思っている事を嘘偽りなく伝えるしかない。


「失礼ながら、僕はヴィクトル王子の人となりを存じません。

したがって、現段階でヴィクトル王子を支持する事は出来ず誠に申し訳ございません。

しかし、僕はラノフェリア公爵様を信頼しており、ラノフェリア公爵様がヴィクトル王子を信頼しているのであれば、僕としては間接的ではありますがヴィクトル王子を支持致します」

俺の発言に、二人は言葉を失い沈黙していた。

ラノフェリア公爵にしてみれば冷や汗ものだろう。

俺も不敬で罰せられてもおかしくは無いと思うが、嘘を吐けないから仕方が無かった…。

その沈黙を破ったのは、今まで一言も話していなかったメイヒア夫人だった。


「まぁまぁ、魔法だけではなく、頭の方も優秀なのですね。

あなた、エルレイ男爵を必ず味方に付けないといけませんよ!」

「そうだな、エルレイ、今後ともよろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします」

俺は不敬で罰せられる事無く、無事に乗り切る事が出来たと安堵した…。

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