第四十九話 ソートマス王都へ

一時間ほど待たされた後、ラノフェリア公爵、妻のアベルティア、長男ネレイト、ルリアの五人で馬車に乗り込み、ソートマス王国の王都へと向かう事となった。

リリー達メイドは、俺達とは別の馬車に乗り込んでいる。

俺達が乗っている馬車の前に一台、後ろに三台の馬車が続いている。

護衛と使用人、後は荷物なんかを乗せているのだろう。

俺の横にルリアが座り、対面にラノフェリア公爵、アベルティア、ネレイトがにこやかな笑みを浮かべながら座っている。

狭い空間に婚約者の家族と同席するのは、精神的に辛いものがある…。

何か話をしないといけないと思うが、どんな話題を振ればいいのか困る。

戦争の報告は先程やったし、アベルティア様に戦争の話なんか聞かせても楽しんではくれ無いだろう。

ルリアに助けを求めようしても、ルリアは車窓から外を眺めているし、両親と会話をしようと思っていないみたいだ。


「エルレイ、エレマー砦では大活躍だったと聞いたぞ。詳しい話を聞かせてはくれないか?」

そんな中、長男ネレイトが少し興奮気味に尋ねて来た。

「大活躍だったのは、砦を守っていたガンデル軍団長率いるソートマス王国軍でした。

僕が行ったのは時間を稼ぐための壁の作成と、敵を混乱させる落とし穴を作ったくらいです」

「それでも十分凄い事では無いか!ルリアも活躍したのだろう?」

「私も初級魔法を撃ったくらいで、大して活躍して無いわ」

「そうなのか?」

ルリアが俺の方を見ながら少し不満気に話したので、ネレイトは俺の方を見て聞いて来た。

ルリアに初級魔法しか使わせなかったのは俺だし、きちんと説明する必要があるが…。

ラノフェリア公爵も、ルリアの活躍に水を差したのかと、眉をひそめて俺の事を見て来ているし…。

「僕とルリアは、あの砦の防衛に関してはおまけみたいなものです。

ソートマス王国を守るのは、ソートマス王国軍の役割であって、僕達がその役割を奪ってはいけないと思ったのです」

「それは違うのでは無いのか?確かに軍はその為の存在だが、エルレイの様な凄い魔法使いであれば、余計な犠牲を出さずに済むだろう?」

「今回の戦いに関してだけ言えば、僕とルリアだけで敵を退ける事が出来たと思います」

「やっぱりそうじゃないか!」

「だからこそ、あえて僕はその力を使わない選択をしました」

「どう言う事だ?」

「ふむ、なるほどな」

俺の説明でネレイトは首を傾げ、ラノフェリア公爵は頷いてくれた。


「ネレイト、エルレイ君はこの後の事も考えているという事だ」

「この後と言うと、アイロス王国との戦争でしょうか?」

「うむ、それも含めてという事だろう」

ラノフェリア公爵はネレイトに言い聞かせた後、俺の方に視線を向けて来た。

ネレイトに最後まで説明してくれという事なのだろう。


「ネレイト様が言う様に、今回の戦いを僕とルリアだけで敵を退けたとします。

その次にソートマス王国及びソートマス王国軍が思う事は、侵攻して来たアイロス王国を逆に侵攻しようと思うはずです。

その際に、当然僕とルリアの魔法に頼って来る事でしょう。

頼られたからには、貴族である僕としても全力を出さざるをえません。

そして、運よくアイロス王国を攻め滅ぼせたとしましょう。

そこで、めでたしめでたしで終わればいいのですが、ソートマス王国はさらに欲を出すかもしれませんし、周辺国は領土を増やしたソートマス王国を脅威と感じる事でしょう。

終わりなき争いの始まりとなるかも知れませんし、僕も攻め込まれるなら攻め滅ぼそうと考えるかもしれません。

そして、全ての国を従えたソートマス王国はどうなるのでしょう?」

「全ての国を従えたのであれば、争いの無い平和な国になるのでは無いのか?」

「そこに住む人々にとってはそうかも知れませんが、ソートマス王家にとっては僕の存在が脅威となります。

僕としても、自分で勝ち取った物を簡単に渡したくはありませんからね」

「なるほど、確かに僕がエルレイと同じ立場だったなら、その様な判断をするかもしれないな…」

ネレイトは僕の説明を聞いて真剣な表情で考え始めていた。

俺としては、ソートマス王家を乗っ取ろうとかそんな面倒な事は考えてはいないし、あくまで例として挙げたまでの事だ。

戦争にも行きたくは無いし、俺の魔法だけで簡単に勝てる様な物でも無いだろう。


「だから、私にも魔法を使わせなかったのね?」

「はい、ルリアお嬢様を必要以上に危険な目に遭わせたくはありませんので…」

「うむ、当然の配慮だな!」

今の話を聞いてルリアも納得してくれたみたいだし、ラノフェリア公爵も満足げな表情だ。

ラノフェリア公爵としても、ルリアを戦争の道具として使われたくは無いだろうからな。


「エルレイ君、話は変わるのだけれど、ルリアと仲良く出来ていますか?」

話しが一区切りついた所で、今まで一言も発していなかったアベルティアが俺に話しかけて来た。

「はい、仲良くさせて頂いております!」

「そう?この子ちょっとだけ口より先に手が出てしまうでしょう。

エルレイ君が、ルリアの事を嫌いになって無いか心配していたのよね」

「お母様!」

ちょっとでは無いけれど、ルリアが俺に手を出して来る時は大抵俺の方に非があるからな。

反省させられる事はあっても、ルリアの事を嫌いになったりはしていない。

まぁ、出会った当初は嫌いだったけれど、今はルリアの事は結構気に入っている。

ただし、愛情があるかと言われれば答えは否だが、転生した俺が十歳の女の子に愛情を抱く方が異常だと思う…。


「ルリア、エルレイ君に嫌われないように可愛くしていないと、他の人に取られてしまいますよ!」

「むっ、ルリアは十分可愛いであろう!なぁエルレイ君!」

「は、はい!ルリアお嬢様の事はとても可愛らしく思います!」

ラノフェリア公爵が凄みを効かせて俺を睨みつけて来た。

見た目だけならルリアは十分可愛いと思うし、そんなに凄まれなくても可愛いと答えると、ラノフェリア公爵に言いたかった…。

「そうであろう、そうであろう。アベルティア、そんなに心配する必要は無いぞ!」

「そうかしら?ルリア、エルレイ君に他の婚約者が出来る前にしっかりと心をつかんでおくのよ!」

「はい、お母様…」

ルリアは恥ずかしそうに俯きながら、アベルティアに答えていた。

そんなに心配しなくとも、ルリアの事を嫌いになったりする事は無いが、他の婚約者?

俺がハーレムを夢見ている事が知られている?

いや、単にソートマス王国は一夫多妻が認められているし、ラノフェリア公爵も三人の婦人が居るからの発言だろう。

「エルレイ君もルリアの事を可愛がってあげてね。

でも、子供を作るのは結婚してからにしてくださいね」

「はい、心得ております!」

子供を作ると聞いてルリアの顔が赤くなり、ついでに俺の正面に座って居るラノフェリア公爵も別の意味で顔を赤くしていた。

大事なお嬢様に手を出していませんと言っても、今は安心させるどころか火に油を注ぐだけだろう。

俺は黙って、目的地に着くのを待つ事しか出来なかった…。

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