第四十八話 ラノフェリア公爵からの呼び出し
ロゼとリゼに魔法を教えた後、将来俺がやる仕事をルリアと話し合うために、ルリアの部屋へとやって来ていた。
テーブルの席にルリアと向かい合って座り、ロゼの淹れてくれた紅茶を優雅に飲んだルリアが、癒された表情を浮かべながら口を開いた。
「それで、話って何なのかしら?」
「僕が将来やる事になる仕事の件を、ルリアと相談したかったんだけれど…」
「仕事ですって?」
ルリアは怪訝な表情を浮かべて首を傾げていた。
まだ十歳の俺が、仕事の事をルリアに相談するのはまだ早いと思われたのかも知れない。
しかし、ラノフェリア公爵から仕事を与えられる前に決めておきたかったからな。
もう戦争にも行きたくも無いし、ルリアを養うためにも、今直ぐにでも仕事を始めて稼いでおくと言う理由を付ければ、ラノフェリア公爵からの仕事も断りやすいと言うものだ。
「うん、僕がやりたいと思って考えた仕事なんだけれど、ルリアに相談も無しに決めるべきでは無いと思ったんだ」
「ふーん、それで、どんな仕事をやると言うのかしら?」
ルリアは頬に手を当て、何か考え事をしているようなしぐさを見せつつ聞いて来た。
ルリアなりに俺の仕事を考えてくれているのかも知れないし、俺が言った仕事が気に入らなければ、何か提案して来るのだろう。
その為の話し合いなのだから、先ずは俺の話を聞いて貰う事にした。
「一つ目は、飛行魔法を使っての治癒師だね。
ソートマス王国中を飛び回りながら、怪我や病気の治療をしていきたいと思っている。
各街にも水属性魔法の使い手は居るかもしれないけれど、上級まで使える魔法使いは少ないだろうから何とかなるはず。
二つ目は、飛行魔法と収納魔法を使っての物資の輸送業だね。
収納魔法の使用には、ラノフェリア公爵様に許可を頂かないといけない。
もし許可を頂けなかった場合には、小さな小物や手紙なんかに限定すればいいだけだ。
三つ目は、魔法の家庭教師だね。
無詠唱を教える訳にはいかないけれど、魔力を増やしてあげたり、魔法を使っての戦い方等を教えたり出来るからね。
僕が思い付いたのはこれくらいなのだけれど、ルリアは何かいい案があったりするかい?」
俺の話が終わると、ルリアは大きくため息を吐いて、呆れた表情で俺の事を見ていた…。
俺が話した仕事が上手く行かないと思ったのか?
それとも、ルリアのお気に召さなかっただけなのだろうか…。
どちらか分からないが、ルリアが話してくれるのを待つしか無いな。
「エルレイ、貴方は貴族が嫌なの?」
「い、嫌では無いけど、僕は男爵家三男だから父上の後は継げないし、マデラン兄さんから奪い取る気も無いよ」
「そう言う意味で言ったのでは無いわ!」
ルリアは怒り、俺を睨みつけて来た。
「あぁ、ごめん…」
ルリアがそう言う意図で言った事では無い事を知り、嬉しくなったと同時にルリアに申し訳なく思い謝罪した。
「貴族になる方法は、親の後を継ぐだけでは無いと言いたかったのよ!」
「そ、そうだね…」
俺は貴族になる方法を詳しくは知らないが、ルリアの気迫に押されて同意してしまった。
「まぁいいわ!言い忘れていたのだけれど、今朝ヴァイス経由でお父様に戦争の報告をしたわ。
それで、明日にはエルレイも一緒にお父様に直接報告に行くわよ!」
「あ、あぁ、分かった」
そうだよな。
ラノフェリア公爵の命で戦争に行ったのだから、報告をしに行くのが筋と言うものだ。
本来であれば、俺がヴァイスに報告しておかなければならない物だった。
戦争から帰って来た解放感で、すっかり忘れてしまっていた…。
ルリアに謝罪し、明日の準備をすると言って自室に戻って来た。
うーむ、貴族かぁ…。
公爵令嬢のルリアにしてみれば、貴族以外の生活を送りたくは無いと言うのは良く分かる。
俺としては貴族にはなりたくないのだが、ルリアの事を考えると貴族にならないといけない気がする。
しかし、貴族になる方法とは?
アンジェリカからも教えて貰っていないし、父からも教えて貰えていない。
知識が無い以上、いくら考えても貴族になる方法が浮かんで来るはずもない。
明日の準備として、クローゼットから俺の服を何着も取り出しているロゼに聞いても知らないだろうし、恥を忍んでルリアに聞きに行くか?
それとも、父かマデラン兄さんに聞いた方が良いだろうか?
二人に貴族になる方法を聞いたとしたら、変に勘繰られてしまうのは間違い無いだろうし、余計な心配をかけてしまう事になる。
やはりルリアに聞いた方が良さそうだが、それは明日ラノフェリア公爵家に行ってからの方が、間違って家族に聞かれる心配が無くていいだろう。
そして翌日、ラノフェリア公爵家の執事ヴァイスに念話で空間転移魔法で移動する事を伝えた後、ルリア達とラノフェリア公爵家にやって来た。
事前に連絡していたため、部屋に置いてあるベルを鳴らすとすぐに転移した部屋の扉が開かれた。
「ルリアお嬢様、お帰りなさいませ。
エルレイ様、ようこそおいで下さいました」
ヴァイスは挨拶をした後、俺とルリアを応接室へと案内してくれた。
「ルリア、お帰り。怪我はしなかったか?」
「お父様、ただいま戻りました。怪我はしていませんのでご心配なさらず」
応接室には既にラノフェリア公爵が待ち構えていて、部屋に入るなりルリアの方へと近づいて来てルリアの体に異常が無いか確認していた。
俺に娘が出来たとしたら、こんな感じになるのだろうか?
いいや、そもそも戦争になんか絶対行かせない!
あっ…。
そこで、ルリアとラノフェリア公爵のやり取りを思い出してしまった…。
娘がルリアに許可を求めに行く姿が容易に想像できるな。
なるほど…俺に娘が出来たとしたら、戦争なんかが起こらないように努力するしかなさそうだな。
しかし、今回の様な事態が頻繁に起こる事は無いだろうし、結婚もしていない俺が心配する事では無いな。
「エルレイ君も無事で何よりだ」
「ラノフェリア公爵様、ご心配して頂きありがとうございます」
「さて、座って話を聞かせてくれ」
「はい」
お互いにソファーに腰掛け、俺は戦争の報告をした。
「うむ、大活躍だったみたいで良かった」
ラノフェリア公爵は俺の活躍に大層満足してくれた様子だ。
ガンデル軍団長が俺に仕事を与えてくれたお陰だな。
普通だったら俺がいくら魔法使いとはいえ、最前線に立たせる様な事をさせてはくれなかっただろう。
その点に関しては、ガンデル軍団長に感謝しなくてはならないな。
「お父様、エルレイの魔法が凄い事が証明されました」
「そうだな。エルレイ君、この後王都へ向かい、明日は王都観光をしようでは無いか」
「はい、ありがとうございます」
「ではルリアも、出掛ける準備を整えて来なさい」
「はい、お父様」
ルリアとラノフェリア公爵は席を立ち、部屋を出て行ってしまった…。
あっという間の展開に着いて行けない俺は、二人の出掛ける準備が整うまでこの部屋で待たされることとなった。
なぜ急に王都観光する事になったのだろう?
ルリアも何か知っている様子だった。
ルリアは昨日念話で連絡したと言っていたから、その時にご褒美として王都観光したいとお願いしたのかも?
まぁ、俺も王都に行った事が無いので興味はある。
商店を見て回りたいと思うが、ラノフェリア公爵とルリアが一緒ではそれは見込めないな。
しかし、美味しい料理を出すお店とかには連れて行って貰えそうだな…。
俺は王都観光に期待を膨らませながら、二人の準備が整うのを待つ事となった。
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