第四十七話 ロゼとリゼの魔法

久しぶりの自分のベッドでの目覚めは、最高に気分が良かった。

夜中に叩き起こされる心配も無いし、安心して朝までぐっすり眠ることが出来た。

一つだけ不満があるとすれば、一緒に寝たロゼが既に起きてベッドの横に立っている事だろう…。

俺が起きるまで横に寝ていて可愛い寝顔を見せてくれれば最高なのだが、恋人同士の様なシチュエーションをメイドのロゼに求めるべきではないみたいだ。

「ロゼ、おはよう」

「エルレイ様、おはようございます」

ロゼはそんな俺の気持ちとは関係なく、手際よく俺を着替えさせてくれる。

家族との朝食を終え、ルリアと共にアンジェリカの指導の元、剣の訓練を始めた。

いつもの日常が戻って来た事に幸せを感じる…。

午後からは、ルリアとリリーの三人で魔法の訓練となる。

アルティナ姉さん、セシル姉さん、イアンナ姉さんの魔法の訓練は、もう少し落ち着いてからと言う事になった。

アルティナ姉さんは一日でも早く始めたかったみたいだが、父が戦争から帰って来たばかりの俺を気遣ってくれての事だ。

俺としても数日はゆっくり過ごしたかったから、父の提案は非常にありがたかった。

ルリアとリリーは、仲良く一緒に魔法の訓練を行っている。

俺は戦争で作った壁を元に、土を固める研究を色々試して行きたいと思う。


「「エルレイ様、お願いがございます」」

魔法の訓練をしようとしていた所に、ロゼとリゼが二人そろって俺の前へとやって来てた。

メイドの二人からお願いとは何だろう?

もしかして、一緒のベッドで寝るのを強制しないで欲しいとか言うのだろうか…。

よく考えて見れば、拒否できない立場の二人に嫌な思いをさせ続けていて、それが我慢の限界に達したという事だったりするのかも知れない。

それとも、一緒にお風呂に入る事だろうか?

いや、あれはどちらかと言うと二人から強引に俺の体を洗われている気がするし、二人も濡れてもいい服を着ているから全裸では無い。

後は着替えくらいしか思いつかないが、嫌な思いをしているのであれば是正したいと思う。

とにかく二人の話を聞いて見るしか無いが、ルリアに聞かれたくは無いな…。

メイドと一緒のベッドで寝ているとルリアに知られては、一発殴られるだけでは済まない気がする…。

「大事な話みたいだから、向こうのベンチに座ってから話を聞こう」

「「はい」」

俺はロゼとリゼを連れて、ルリアとリリーが訓練している場所から離れた位置にあるベンチへとやって来て座った。

ここなら多少声を出したとしても、ルリアに聞こえる事は無いだろう。

二人もベンチに座らせて、少しドキドキしながら話を聞く事にした。


「それで、お願いとは何かな?」

俺は問いただすと二人は顔を見合わせると軽く頷き合い、ロゼが話を始めた。

「エルレイ様、私達にも魔法をご教授お願いできませんでしょうか?」

「あっ、魔法かぁ…」

俺の予想とは違った事で、俺はほっと息を吐いて安心した。

「エルレイ様、ルリア様の許可も頂いておりまして、是非とも教えて頂きたいのです!」

ロゼは俺の反応を見て教えて貰えないと思ったのか、慌ててルリアの名前まで持ち出して来た。

しかし、二人は俺のメイドのはずなのだが、ルリアの許可を事前に貰ったのか…。

何となく釈然とはしないが、ルリアの方が貴族の地位としては俺より遥かに上だから、仕方のない事だと納得するしか無いな…。

「うん、二人にも魔法は覚えて貰おうと思っていたからね。

それなら、今から覚えて貰う事にしよう!」

「「ありがとうございます!」」

二人は珍しく感情をあらわにして喜んでいた。

魔法を教える前に、不満に思っている事が無いか聞いておいた方が良いよな…。

魔法の事もルリアに許可を貰って来た事だし、俺に不満をぶつける前にルリアに報告される恐れがある。

いや、きっとそうするだろう…。

ルリアから殴られる前に、話を聞く事にした。


「二人共、魔法を教える前に聞いておきたい事がある。

僕の行動に不満があったり、直して欲しい所があったりするだろうか?」

「「いいえ、ございません!」」

俺の問いに、二人は即答で応えてくれた。

「本当に?遠慮しなくてもいいんだけど?」

「「ございません!」」

「それならいいんだけど…まぁ、今後もしそのような事があれば、遠慮なく言ってくれて構わないからね?」

「「はい、承知しました」」

二人が嘘を言ったり無理をしている様な感じはしないから、大丈夫なのだろうか?

一応今夜寝る時にでも、一緒に寝なくていいと確認した方がいいのかも知れないが、それで一緒に寝てくれなかったら、それはそれでとても寂しい気がする…。

ルリアに殴られるのと、メイドに添い寝して貰う事を天秤にかけると…添い寝の方が勝るな!

よし、ルリアに殴られるまで、添い寝は続けて貰う事に決めた!


「今から魔法を使って貰う。最初の内は魔力切れで意識を失うと思うけど、体に異常があったりする事は無いので安心してくれ。

それで、どちらから魔法を使ってみる?」

「はい、私からお願いします!」

リゼが俺の問いに間髪入れずに反応してきた。

俺がロゼに視線を投げると無言で頷いてくれたので、リゼから教える事にした。

「リゼ、今から僕の魔力をリゼに渡す。その後で、俺の後に続いて呪文を唱えてくれ」

「エルレイ様、風、風属性魔法をぜひお願いします!」

リゼが力強くお願いしてきた。

そう言えばリゼは、俺が抱きかかえて飛んだ時にとても喜んでいたからな。

その時の印象が強く、自分でも飛んでみたいと思う気持ちになったのだろう。

しかしこの世界では、使える属性を自分で選ぶ事が出来ないんだよな…。

その事は残念に思うし、リゼが風属性魔法を使える事を願う事しか出来ない。

「あぁ、どれからでも構わないけれど、使える魔法は四属性の内のリゼと相性がいい二つとなる」

「そうなのですか…」

「とにかく、魔法を使って見ない事には分からないから早速やって見よう」

「はい、お願いします」

俺はリゼの手を握って魔力を流し込んでやり、風属性魔法の呪文を教えて唱えさせてみた。

「何も起こりません…」

「ざ、残念だったが、他の属性を試していこう」

「はい…」

リゼは風属性魔法が使えなくてガックリと肩を落としていた…。

四属性使える俺が慰めた所で逆効果だろうから、次の属性魔法を唱えさせる事にした。

結果的に、リゼは火属性魔法を使えた所で魔力切れになり意識を失った。

ロゼの魔法はリゼが意識を取り戻してから行い、風属性魔法を使えることが分かった。


「ロゼずるい!」

魔力切れで意識を失ったロゼを、リゼが膝枕で介抱しているのだが…。

ロゼが風属性を使えたことに納得できなかったのか、リゼが寝ているロゼの頬を引っ張って文句を言っていた。

意識を失っているロゼの表情が、頬を引っ張られている事で少し面白い事になっているが、やめさせた方が良いだろう…。

「リゼ、流石に可哀想だと思うからやめた方が良いぞ…」

「はい…」

「それとリゼ、風属性魔法が使えない代わりと言っては何だが、空を飛びたい時は僕に言ってくれれば、いつでもとはいかないかも知れないが、時間がある時なら空に連れて行ってやるからな?」

「本当ですか!」

「あぁ、勿論だとも」

「ありがとうございます!」

リゼは喜び、やっとロゼの頬から手を離してくれた。

ロゼの頬が赤くなっていた事から、かなりの力で引っ張っていたのだろう。

起きた時にリゼと喧嘩にならないようにと、ロゼの頬を治療しておいた。


後日、ロゼは風属性魔法と地属性魔法を使え、リゼは火属性魔法と水属性魔法を使える事が分かった。

双子だと同じ属性になるかと思っていたのだが、全く違っていて驚いた。

似ているのは容姿だけなのだと実感し、今後は髪飾りで名前を判断するのでは無く、二人の事を良く知って判断出来る様になろうと思った…。

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