第四十六話 家族に報告
「やっと帰って来られた…」
「そうね。少しゆっくり過ごしたいわ…」
自宅の自室に転移して来た事で、やっと安心感を得る事が出来た。
このまま自分のベッドに転がってゆっくりと休みたい気持ちだが、両親に報告して安心させないといけない。
ルリアは疲れているだろうから部屋に戻し、俺だけ父の執務室へとやって来た。
「父上、エルレイです」
「エルレイか、入れ!」
父の嬉しそうな声が扉越しに聞こえて来て、執務室に入ると、父とマデラン兄さんが笑顔で出迎えてくれた。
「父上、マデラン兄さん、ただいま戻って参りました」
「うむ、無事で何よりだ」
「エルレイ、お帰り」
父とマデラン兄さんは、俺が帰って来た事を本当に喜んでくれている様で、俺も嬉しくなる。
俺の帰りを喜んでくれる家族が居ると言う事は、本当に幸せだと改めて実感した。
「ルリアお嬢様は疲れていましたので、先に休ませました」
「うむ、慣れない戦場の生活で気苦労もあっただろうから無理もない。
それで、詳しい状況を聞かせてくれ」
「はい、ヴァルト兄さんが居るエレマー砦は無事守り切り、ソートマス王国軍が到着後にアイロス王国側のシュロウニ砦を占拠しました。
その後のソートマス王国軍の行動については把握しておりませんが、エレマー砦が再び危機にさらされる事は無いかと思います」
「そうか、それは本当に良かった…」
父はほっと一安心し、椅子の背もたれに体を預けて大きく息を吐きだしていた。
今日まで心休まる時が無かったのだろう。
しかし、安心してばかりはいられない。
これからどのような状況になるかは分からないが、ソートマス王国軍とアイロス王国軍の衝突は避けられないだろう。
ソートマス王国軍が敗北する様な事になれば、再びエレマー砦が危険に晒される事となる。
そうならない様に、ソートマス王国軍には頑張って貰いたものだ。
「エルレイ、疲れているとは思うが、母さんの所に行ってやってくれ」
「はい、分かりました」
父の執務室を出て、母の部屋へとやって来た。
声を掛けてから部屋に入るなり、アルティナ姉さんの抱擁で出迎えられた。
「エルレイ、お帰り!」
「アルティナ姉さん、ただいま」
「エルレイが居なくて寂しかったんだから!」
アルティナ姉さんはそう言って、更に俺を抱きしめて来た。
抱擁自体は嬉しい事だが、今は母に挨拶をするのが先だ。
少し力を入れてアルティナ姉さんを引きはがし、椅子に座っている母の前へとやって来た。
「母上、無事に戻って来ました。ヴァルト兄さんも無事です」
「そう、良かった…」
母は涙を流して喜び、立ち上がって俺を優しく包み込んでくれた。
「エルレイ、本当にありがとう…」
母は何度も俺に感謝を言いつつ、暫く抱きしめ続けてくれた…。
やっと母から解放されたと思ったら、再びアルティナ姉さんに捕まってしまい、暫く母の部屋から出て行く事が出来なかった…。
母の部屋を出た後は自室に戻り、夕食まで休息を取る事にした。
ルリアと俺の仕事の事で話をしたかったが、それは明日で良いだろう…。
ルリアも疲れているだろうし、俺自身もかなり疲れている。
徹夜もしたし、戦争と言う初めての経験で、思いのほか精神的に疲れていたのかも知れない。
着替えもせずベッドに転がると、そのまま寝てしまった…。
リゼから夕食ですと言われて起きると、疲れはしっかり取れて体調もかなり良くなっていた。
やはり若い肉体は素晴らしいものだな。
転生前も二十代後半だったから、そこまで老けていた訳では無いが、十代の肉体にはやはり勝てはしないと実感した。
食堂に行くと、既にルリアが席に着いていたので俺もその隣に座った。
「ルリア、体調は良くなったかい?」
「えぇ、お風呂に入ってスッキリして来たわ!」
「それは良かった。僕はずっと寝ていたよ…」
ルリアからは、確かに良い匂いが漂って来ている。
俺はと言うと、自分では気づけないが汗臭いはずだ…。
砦に居る時には、風呂に入る事なんて出来なかったからな。
そもそも、戦場に風呂なんて贅沢なものがあるはずもない。
桶に水を満たして水浴びをするか、濡れた布で拭くくらいしか出来ないはずだ。
着替えの際に、リゼが軽く体を拭いてくれたくらいだったからな。
夕食が終わったら、真っ先にお風呂に入りに行こうと思った。
家族全員がそろい、夕食が始まった。
「エルレイとルリアお嬢様が無事帰って来てくれた。
ヴァルトが守っているエレマー砦も健在だ。
しかし、アイロス王国との戦闘が終わった訳では無い。
引き続き、気を引き締めて事に当たらねばならないだろう。
だが、今日ばかりは、素直に喜びを分かち合いたいと思う。
エルレイ、ルリアお嬢様、ソートマス王国の為に戦ってくれて本当に感謝する」
父が珍しくお酒を用意して飲んでいて、母、マデラン兄さん、セシル姉さんも飲んで浮かれていた。
俺とルリアの所には果物ジュースが用意されていて、俺もお酒を飲みたかったが、この年齢では飲ませては貰えないのがとても残念だ…。
食後の紅茶が出された所で、俺は空間属性魔法について家族に話す事にした。
皆が浮かれている所に水を差す様で気が引けたが、命に係わる重要な事だからな。
俺が話し始めると、お酒で浮かれていた家族も真剣な表情で聞いてくれていた。
「そうか、しかし心配する事は無い。私は家族を守るために常日頃から鍛えておるからな!」
「そうよ、私達の事は心配せずとも、エルレイの好きなようにやりなさい」
「父上、母上、ありがとうございます」
父は毎日剣術の鍛練を怠っていないが、それでもロゼとリゼには敵わないだろう。
他の貴族がラウニスカ王国の暗殺者を雇わないとも限らないから、魔法を覚えて貰った方がよさそうだ。
そして家族に、魔法を覚えてもらうよう言ったのだが…。
「そんな事が可能なのには驚きだが、もしそれが事実だとすれば大変な事になる!
エルレイ、この事は絶対に秘密にするのだぞ!」
「はい、勿論そのつもりです!」
「うむ、それ故に、今まで魔法を使えなかった私は辞退する」
「そうですね、貴方がそう言うのであれば私も辞退します」
「と言う事は、私もですね…」
両親に続き、マデラン兄さんまでも残念そうにしながら辞退して来た。
残ったのはアルティナ姉さんとセシル姉さんだが…。
「エルレイ、私は良いのよね?」
「アルティナ姉さんとセシル姉さんは、護身用に覚えて貰いたいです」
「良かったぁ!」
「私も良いのかしら?」
アルティナ姉さんは喜び、セシル姉さんはマデラン兄さんと父の方に許可を求めるような視線を送っていた。
「そうだな、アルティナとセシルは魔法を覚える事を許可する。
しかし、人前では決して使わぬようにな」
「はい、ありがとうございます!」
セシル姉さんは喜び、マデラン兄さんに抱き付いて喜びを表現していた。
いちゃつく二人を見ていると、微笑ましく思える一方で羨ましくもある。
俺にも一応婚約者がいるけどまだ子供だし、ルリアが俺に抱き付いて来るような状況を想像できない。
ルリアの事は嫌いではないが、やはり目の前の夫婦の様な甘い関係が築ける相手が欲しいと思ってしまった…。
「時間が出来次第、イアンナ姉さんも含めて魔法を教えて行こうと思います」
「エルレイ、お願いね!」
「エルレイ君、よろしくお願いします」
夕食が終わり、俺は久々の風呂に入って、ロゼから体の隅々まで綺麗に洗われてしまった…。
ラノフェリア公爵家に滞在している時はメイドの仕事だと割り切っていたのだけれど、自宅に戻って来てまでやる必要は無いと断ったのだが、その様な訳にはまいりませんと押し切られてしまった…。
女性に体を洗ってもらえるのは嬉しい事だが、可愛い息子を見られるのはやはり恥ずかしい。
もう少し逞しければなと思うが、後数年は成長を見守るしかないな…。
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