第四十四話 戦争の後始末

周囲に霧を発生させ、ルリアが壁を壊している所を見られない様に処置を施してやると、ルリアは遠慮なく俺が作り出した壁を魔法で壊し始めた。

最初は、やはり俺の壁を壊すのに苦労していたみたいだけれど…。

「エルレイ、一気にやるけどいいわよね?」

「あ、うん…」

ルリアが何をやるのかと思ったら、細長い竜巻を作り出し、それを壁にぶつけて端から削り始めた…。

なるほど、かなり効率的なやり方だが…あっさり壊されていく壁を見て、少し落ち込んでしまった…。

逆にルリアは「意外と簡単に壊れるわね!」と、鼻歌交じりで俺が徹夜で作った壁を壊して行っている。

まぁ壊してくれと頼んだのは俺なのだが、簡単に壊されるのは癪だし、次は簡単に壊されない様な壁にしてやると心に決めた。

ルリアは一時間もしないうちに、壁を壊してしまった。

しかも、竜巻で削った土も纏めてくれているというおまけつきだ。


「ルリア、ありがとう。お陰で随分と楽になったよ」

「次はもう少し丈夫に作った方が良いと思うわ!」

「そうだね…」

完璧に自分の仕事をやり遂げたと、ルリアは腕を組んで自慢げに俺を見て来た。

めちゃくちゃ悔しい…。

次があるかは分からないけれど、これが終わった後にでも、丈夫な壁の作り方を研究しておかないといけないな。

決してルリアに壊されたくないと言う理由では無く、いや、その気持ちが無いとは言わないけれど、強力な魔法使いが居ないとも限らないからな!

それに、今回は土を使ったけれど、周囲にある物を使用して魔法を使う研究は、意外と楽しいかもと思ってしまった。

時間に余裕がある時にでも、色々試して見ようと思う。


さて、俺はルリアが粉々に砕いてくれた土を元の状態に戻すために、水を含ませてから穴掘りの魔法を使ってかき混ぜて行った。

十分にかき混ぜた土を掘り出した場所に戻して行き、少し熱して水分を飛ばす。

「こんなものだろう」

「少し軟らかいけれど、元に戻ったんじゃない?」

「完全に元の状態とは言えないけれど、これ以上は無理かな」

「いいと思うわよ!」

ルリアも太鼓判を押してくれたので、俺は残った土も同じ様にして元の状態に戻して行った。

そして丁度壁の土を全部戻し終えた頃、リリーとロゼが昼食を持ってやって来てくれた。

即席のテーブルと椅子を作り、みんなで楽しい昼食を摂る事となった。


「先に戻っているわね!」

ルリア、リリー、ロゼの三人は、昼食を終えた所で戻って貰った。

後は落とし穴を元に戻す作業が残っているけれど、その現場をルリアには見せたくは無かったからな…。

落とし穴の傍には、大勢の遺体が並べられている。

それは昨夜戦って死んだ人達と、俺の落とし穴に落ちて死んだ人達だ。

顔の汚れは綺麗に落とされていて、少し離れた所では遺体を馬車に積み込む作業をしている兵士達もいた。

積み終えた遺体は、アイロス王国に運んで行くのだろう。

遺体を運ぶ作業は大変だろうけれど、遺族の下に届けられる事を願うばかりだ…。

戦争とは言え、俺が殺した数も相当数に上るだろう。

その事に罪悪感を感じるが後悔はしていない。

守らねば、死体になっていたのは俺達の方なのだからな…。

俺は黙とうを捧げ、落とし穴を元に戻す作業に取り掛かる事にした。


ルリアがやっていたのと同じように、落とし穴の中に小さな竜巻を作り、固めた地面を削って行く。

「うわっ!」

周囲の土が飛び散り、俺は慌てて障壁を張った事で土まみれにならずに済んだ…。

ルリアは器用にも、土が飛び散らなようにしていたんだなと感心した。

そこで俺は、落とし穴の上部に障壁魔法で蓋をしてからやる事にした。

ルリアは恐らく風を使ってやっていたのだろうけれど、ここは落とし穴の中だからどれだけ飛び散っても問題は無い。

固めた土を削ると同時に、別の竜巻で土を混ぜる作業も同時進行でやる事にした。

落とし穴の中は、泥の渦が幾つも出来て酷い状況だが効率はかなりいいはずだ。

とは言え、直径二十メートルの落とし穴が五つもあるのだから、全部を元通りに出来た時には、すっかりと日も落ちてしまっていた…。

「エルレイ様、お疲れさまでした」

「リゼも疲れただろう、早く戻って休む事にしよう」

俺はリゼと共に砦に戻り、ルリア達が待っている部屋で休む事にした…。


翌朝、食中毒で遅れていた援軍が到着したとの知らせを受け、俺は円卓の会議室へと呼び出されていた。

「ソートマス王国軍第一軍団長、ダニエル・フォン・ワーズだ」

「エルレイ・フォン・アリクレットです」

会議が始まるなり、ダニエルが俺に挨拶をし話しかけて来た。

「遅れて申し訳なかったが、君が上手く守ってくれたみたいだな」

「いえ、砦を守っている皆様が頑張った結果だと思います」

「なるほど、そうかも知れないな。

さて、皆の努力を無駄にせぬためと、遅れて来た汚名返上のために、これより全軍を持って敵の砦を攻め落とす。

誰か異議のある者はいるか?」

ダニエルが周囲を見渡すが、異論を唱える者などいなかった。

昨日までこの砦を守っていたガンデル達は、昨日の勝利で勢いを増しているし、今日来た人達は後れを取り戻そうと息巻いている。

「よし、一時間後侵攻を開始する!」

「「「「「はっ!」」」」」

兵士達が一斉に部屋を退出していく中、ダニエルが俺の所にやって来た。

「エルレイ少年には、もうしばらく付き合って貰うぞ」

「はい、分かりました」

元気に返事はしたものの、徹夜と慣れない戦争で疲弊していて、一刻も早く家に帰りたいと思うが、俺の立場で断る事など出来ない…。

俺の会議室を後にし、ルリア達の所に戻り、侵攻する事を伝えた。


「当然よね!敵の砦を奪い取ってやるわ!」

ルリアは嬉々として喜び、リリーとロゼと共に出発の準備を整えて行っている。

俺は準備と言っても特にする事は無いので、出発までの僅かな時間も体を休める事にした。

そして時間前に部屋を出て建物の外に出ると、一台の馬車が用意してあった。

恐らく、ラノフェリア公爵がルリアの為にと口添えしての事だろう。

馬車と言っても豪華な物では無く、と言うか、よく見るとヴァルト兄さんが家を出て行く時に乗って行った馬車だよな…。

という事は、ラノフェリア公爵では無く、ヴァルト兄さんが気を利かせてくれたという事なのか…。

後でヴァルト兄さんにはお礼を言っとくとして、乗らないと駄々をこねるルリアを強引に押し込んだ。

「リリー、ロゼ、ルリアが外に出ないようにしっかりと見張っていてくれ」

「「承知しました」」

ルリアの事はリリーとロゼに任せ、俺は用意されていた馬に魔法で浮かび上がって跨った…。

普通に乗ろうとしたが、子供の身長で馬に跨る事が出来なかったからな…。

馬の手綱はリゼがしっかりと握ってくれている。

乗馬の訓練も、一応やっているから問題なく乗れると思うが、家にいる馬とは違うからちょっと自信が無かったので助かるな。


エレマー砦の外に出ると、大勢の兵士達が隊列を組み、いつでも侵攻開始できる状態だった。

俺は最後尾にいる、ダニエルの横に並ぶように言われた。

ルリアが乗る馬車はその更に後ろで、万が一にも襲われる事は無いだろう。


「全軍、シュロウニ砦に向けて進軍開始!」

ダニエルの命令を受け、全軍が進軍を開始した。

アイロス王国軍との本格的な戦闘になるのだと言うのを実感し、気を引き締めて行く事にした…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る