第三十話 ルリアへの贈り物

贈り物を買い終えた俺は、店を出て帰る事にした。

あんまり遅くなってはルリアに怒られるし、ラノフェリア公爵に魔法を使えたことを報告しなくてはならないからな。

「リゼ、後を着けて来ている人は居ないよな?」

「はい、大丈夫です」

通りから狭い路地に入り、周囲に誰も居ないことを確認した後、空間転移魔法を使ってラノフェリア公爵家の森の中に転移してきた。


「空間転移魔法は問題無く使える事が確認出来たな」

「一瞬で移動できるなんて、夢のような魔法ですね」

「本当にそうだな」

リゼは周囲を警戒する様に見回しながら、安全を確認していた。

こんな便利な魔法を覚えさせて貰ったラノフェリア公爵には、感謝してもしきれないと思う。

その分、ラノフェリア公爵には色々使われる事になるかも知れないけれど、この魔法の便利さに比べれば些細な事かも知れない。

「リゼ、飛んで戻るから抱きかかえるぞ」

「はい、よろしくお願いします」

少し楽しそうな表情をしているリゼを抱きかかえて、空へと飛び出した。

本当は真っすぐ戻らないといけないのだけれど、リゼの為に少し遠回りしながらラノフェリア公爵家の宮殿へと戻って行った。


「リゼ、先にルリアに贈り物を持って行こうと思うので、ルリアの部屋に案内してくれないか。

ラノフェリア公爵様への報告は、その後にしようと思う」

「承知しました」

宮殿内に入り、リゼに案内されてルリアの部屋へと向かって行く。

ルリアの部屋には一度行った事があるが、場所は覚えていない。

と言うより、こんな広い宮殿内の部屋の位置を覚えられるはずも無いよな…。

唯一覚えているのは、俺にあてがわれた部屋と食堂くらいだ。

自分の家を持つ機会があるのであれば、自宅くらいの大きさが使いやすくていいと思えた。


「ルリアお嬢様、エルレイ様がお戻りになられました」

リゼがルリアの部屋の外から声を掛けると、中からルリアの声で「入りなさい」と聞こえて来て、リゼが扉を開けて部屋の中に通された。

ルリアの部屋の中では、ルリアがテールブルの席に座っていて、リリーとロゼが席から立ち上がって俺を出迎えてくれた。

「ルリア、ただいま」

「エルレイ、遅かったわね。魔法は上手く行かなかったのかしら?」

ルリアは、俺が来るのが遅かったと少し怒っている様子だ。

魔法を試すだけなら、さほど時間がかかる事でも無いからな。

街に言って来たと言えば、ルリアが怒って殴りかかって来るかも知れない…。

しかし、せかっく買ってきた贈り物を渡さないのも勿体ない気もするな。

「魔法は上手く使えたけど、ちょっと寄り道をして遅くなった。ごめん…」

「ふんっ、まぁいいわ!早く座りなさい、リリーが座れないでしょ!」

ルリアとしては、リリーとお茶をして楽しく話をしている所を邪魔されて、機嫌が悪くなっていたと言った所だろうか?

俺がルリアの隣の席に座ると、ロゼが紅茶を用意してくれて、リリーも席に座ってくれた。

「ロゼとリゼも席に着きなさい」

「「失礼します」」

ルリアが許可を出し、ロゼとリゼも同じテーブルの席に着いた。

リリーが席に着いているのに、ロゼとリゼだけ立たされているのも可哀想だからな。

ルリアの気遣いを俺は快く思った。


「エルレイ、何処に行って来たのか話しなさい!」

「その前に渡す物があるんだ…」

俺はルリアの隣に座っているから、ルリアの機嫌が損なわれるとすぐに殴られる事になる。

そうならない様に、先に贈り物を渡す事にした。

収納魔法を使い、中から両手で持つくらいの大きさの木箱を二つと、手のひらに収まる木箱を二つ取り出した。

「これはルリアに」

大きめの箱を一つルリアに手渡した。

「何よこれ?」

「まぁいいから開けて見てくれ」

ルリアは目を細めて俺の事をジトッと見ながら、恐る恐る木箱を開けていた。

俺が変な物でも贈ると思っているのだろうか?

ルリアが殴って来た仕返しにとでも思っているのかもしれないが、自業自得だろう…。

「これはリボンかしら?」

「うん、ルリアに似合うかも知れないと思って買って来たのだけれど、少し子供っぽかったかな?」

「いいえ…エルレイ、ありがとう…」

ルリアはリボンを手に持って、少し恥ずかしそうにしながら小さな声で感謝を言ってくれた。

よし!これなら俺が殴られる事は無いだろう!

「こっちはリリーに、ロゼとリゼにはこれを」

更に身の安全を確保するために、メイドの三人にも贈り物を手渡した。

「エルレイ様、私にも…」

「「エルレイ様、ありがとうございます」」

「エルレイにしては、気が利いてるじゃない!」

ルリアは、メイド三人にも贈り物をした事でさらに機嫌が良くなってくれたと思う。

「ルリアとリリーは仲がいいから、色違いのリボンにしたけれど良かったのかな?」

公爵令嬢とメイドに同じリボンを贈るのはどうかと思ったけれど、二人は仲がいいし他の人に見られなければいいかなと思った。

「そうね…表では使えないわね…でも、嬉しいわ!

リゼ、このリボン着けて頂戴!」

「はい!」

リゼはルリアからリボンを受け取り、ルリアの後ろに回ってルリアの綺麗な赤い髪にリボンを着けてくれていた。

リリーも同じ様に、ロゼから色違いのリボンを着けて貰っている。


ルリアとリリーは大きな姿見の前に立ち、お互いのリボンを見せあってとても喜んでいる。

「ルリアにはリリーの髪の色…銀色は無かったから白にした。リリーにはルリアの髪の赤にしたけど、二人とも良く似合っていて可愛いよ」

「そう…ありがとう…」

「エルレイ様、このリボン大事にします!」

ルリアが怒った時以外で顔を赤くしているのは初めて見た。

こんな可愛いルリアが見られたのだから、リゼの言う通り贈り物をして正解だったな。

リリーはルリアとお揃いだったのがよほどうれしかったのか、何度も何度も鏡に映る姿を見ていた。


「「エルレイ様、私達にまでこの様な物を頂き、ありがとうございます」」

「ロゼとリゼも良く似合っているよ」

ロゼとリゼには、花の髪留めを贈った。

ロゼにはピンク、リゼには黄色の髪留めを贈ったので、これを見れば二人を見間違えなくて済むからな。

二人が毎日着けてくれればだが…。


「それで、何処でこれを買って来たのかしら?」

ルリアの表情はまだ少し赤みが残っていたけれど、冷静に俺に尋ねて来た。

ここで受け答えを間違うと、殴られるかもしれない。

ルリアの機嫌を損なわない様に気を付けなければならないな。

「あぁ、エールトリーの街だよ。大きな街はあそこしか知らなかったからね」

「誰にも見られなかったでしょうね?」

ルリアは目を細めて、鋭い瞳で睨んで来た。

「うん、そこは一番気を付けたから大丈夫。リゼにも確認して貰ったしね」

「分かったわ…あの街まで行けたのであれば、空間転移魔法は全く問題無く使えると言う事よね」

「うん、連れて行く人数が増えれば使用する魔力も増えて行くみたいだけれど、ここにいる全員なら問題無く一緒に転移できると思うよ」

「それならいいわね。お父様に報告しなくてはね」

「うん、連絡を頼むよ」

ふぅ、ルリアの機嫌が悪くなる事は無く、俺が殴られるという事態は回避できた。

公爵令嬢のルリアでも、贈り物を喜んでくれる事が分かった事は大きかったな…。

これからも、ルリアに怒られそうな事態が予測できる時には、贈り物を用意するのは良いのかもしれないと心の中にメモしておいた。

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