第二十八話 リゼとデート その一

翌朝目を覚ますと、隣にロゼの姿は無かった…。

少し残念に思ったが、ロゼはメイドだし早起きして仕事をしているのだろう。

俺はベッドを抜け出し、ベッドの横のテーブルに置かれているベルを鳴らしてロゼを呼ぶ事にした。

「エルレイ様、おはようございます」

寝室の扉が開き、メイド姿のロゼが入室してきた。

「ロゼ、おはよう」

俺が朝の挨拶をすると、ロゼの表情が微かに曇った…。

「リゼでございます」

「あっごめん、リゼ、おはよう」

「はい、おはようございます」

俺が言いなおすと、リゼは笑顔で挨拶をしてくれた。

そうだよな。

昨日は俺の隣で眠って貰ったが、ロゼは恐らく一晩中起きていたに違いない。

そのロゼは休んで、代わりにリゼが俺の身の回りの世話をしてくれるのだろう。

名前を間違えたのは申し訳なく思うが、双子を見分けるには時間が必要だと思うので、もうしばらくは我慢して貰いたいところだ…。

「リゼ、服を選んで貰えないだろうか?」

「畏まりました」

俺が頼むと、リゼは楽しそうにクローゼットを開いて服を選び始めた…。

「エルレイ様、今日は紫の服でよろしいでしょうか?」

「あーうん、それでいいよ」

俺としては、黒か紺辺りが良いのだが、リゼに選ばせたのだから着ない訳にはいかないな…。

それにしても紫か…。

鏡に映る俺の姿は、貴族と言うより不良少年と言った感じだ…。

サングラスをかけて、髪をオールバックにすれば完璧だ!

じゃなくて…こんな服装でラノフェリア公爵の前に出て行って構わないのだろうか?

でも、ここに用意されている服は、ラノフェリア家の使用人が選んだ服だろうから大丈夫なはずだ…。

髪も横に流す様な感じでセットされ、微不良少年姿の俺が完成した。

「エルレイ様、よくお似合いです!」

「そ、そう、ありがとう…」

リゼが満足そうな表情で俺の姿を見ていたから、問題無いと言う事にしておこう…。


未だに慣れないラノフェリア一家との朝食を終え、俺はリゼと共に裏庭へとやって来ていた。

今日の目的は、収納魔法と空間転移魔法を正しく使えるかの確認だ。

先ずは収納魔法を使って見る。

昨日と同じように、白く輝く正方形の箱が俺の目の前に現れた。

「リゼ、僕の目の前にある白い箱が見えるだろうか?」

「いいえ、何も見えません」

「そうか」

やはり、白い箱自体は他人に見え無いみたいだ。

昨日もルリアが、俺の手が消えたのを心配そうに見ていたからな。

「手が消えたように見えると思うけど、心配しないでくれ」

「承知しました」

俺は事前に用意していたハンカチを白い箱の中に収め、それを何度か出し入れして見た。

「収納魔法は問題無く使えるみたいだ」

「おめでとうございます」

リゼはどんな魔法か理解していないみたいだが、ここで説明する必要も無いだろう。

次は空間転移魔法だが、ここで使うと他の使用人に見られる可能性があるな。

昨日は近くに転移するだけだったからこの場で使ったが、今日は少し遠くに行こうと思っている。

突然俺が消える事になるから、見られるのは不味いだろうからな。

「リゼ、少し特殊な魔法を使いたいのだが、ここでは使えないので空を飛んで場所を変えようと思っている。

すまないが、リゼは宮殿内に戻っていてくれないか?」

「いいえ、私はエルレイ様をお守りしなくてはなりません。

ですので、私もご一緒させては頂けないでしょうか?」

まぁそう言うよな…。

昨日ロゼと話した感じ、俺を守ると言う事は本当見たいなので、俺を一人にする事は無いだろうと予想していた。

しかし、空間転移魔法が必ず成功するとは限らないし、失敗した場合何処に転移してしまうか分からない怖さがある…。

そんな危険な魔法の訓練にリゼを巻き込みたくは無かったのだが、仕方が無いか…。

「分かった。連れて行くが、これから行使する魔法はまだ慣れていなくて自信がない。

しかし、どんな事態に見舞われたとしても、リゼの事は全力で守ると約束する!」

俺の言葉にリゼは少し困惑の表情を見せていた。

まぁ、使う魔法に自信が無いと言われれば、怖いと思うのは仕方が無いよな…。

だけど、困惑したのは恐怖からでは無かったみたいだ。

「先程も申した通り、私がエルレイ様を守る立場にあります。

もし危険な事が御座いましたら、エルレイ様自身の身の安全を優先して、私の事は捨て置いて構いません」

「そうか…しかし…」

「しかしもありません!」

「わ、分かった…」

これ以上言っても、リゼは納得してくれないみたいだな…。

まぁ、俺がリゼを守るだけの話だから、納得して貰う必要は無いか。


「さて、空を飛んで移動するから、リゼを抱きかかえるが構わないか?

あっ、鍛えているから落としたりはしないし、リリーをここまで抱きかかえて運んで来た実績があるから大丈夫だぞ!」

「…そうですか、よろしくお願いします」

リゼは少し考えるそぶりを見せていたが、俺の事を信じてくれたのか、俺が抱きかかえやすい様に後ろを向いてくれた。

リゼを優しく抱き上げる。

リゼは大人の女性にしては小柄な方だったから、問題無く抱きかかえられたな。

「リゼ、今から飛びあがるからしっかり掴まっていてくれ」

「はい、よろしくお願いします」

リゼは少し緊張しているみたいだが、俺の首にしっかりと腕を回して来てくれたので、俺は空へと飛び立った。

上空に上がり、ラノフェリア公爵家の敷地内を見回し、姿を隠せそうな場所を探す。

宮殿から少し離れた所に小川が流れていて、その先に小さな森があったのでそこに向かって飛んで行く。


「エルレイ様、景色がとても綺麗です!」

「そうだね」

リゼは初めて見る上空からの景色を、首を忙しそうに動かしながら眺めていた。

気持ちは良く分かるから、十分楽しませてあげたいが、残念ながら今日はそんな暇は無い。

俺は森の中に降りられる場所を見つけて、そこに降り立った。

リゼを地面にゆっくり降ろしてやると、少し残念そうな表情を見せていた…。

今度余裕がある時にでも、ゆっくりと空の旅を楽しませてやる事にしようと思う。

俺は周囲を見回して誰も居ないことを確認する。

誰も居なさそうなので、ここで空間転移魔法を試す事にした。

さて、何処に転移して見よう。

普通に自宅の部屋に転移するのが一番いいのだが、それでは面白みが無いよな…。

折角だから、この前ルリアと一泊したエールトリーの街に行って見よう。


「リゼ、確認しておくが、今から僕が使う魔法は決して他の人に話してはいけないよ!」

「はい、承知しております。私とロゼはエルレイ様の秘密を他の人に話す事はございません」

「うん、信用している。今から使う魔法は空間転移魔法と言って、離れた場所に一瞬で移動する事が出来る。

リゼも僕の手を握っていれば一緒に行けるから、決して離さないようにしてくれ」

「はい」

俺がリゼに手を差し出すと、リゼの柔らかい手でしっかりと握ってくれた。

「使うからね」

俺もリゼの手を離さないようにしっかり握りしめながら、エールトリーの街で宿泊した宿屋の裏路地の場所を頭の中に思い浮かべながら空間転移魔法を使用した。

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