第二十七話 ロゼとの会話 その二

「遅くなってしまったな。今日はもう寝る事にするよ」

「はい、エルレイ様おやすみなさいませ。

私は隣の部屋で待機しておりますので、何かございましたら遠慮なくお呼びください」

俺は寝室に向かおうと思ったが、ロゼは一晩中ここにいるんだと思い立ち止まった…。

それは少し可哀そうな気がするし、俺のメイドと言う事であれば自由にしていいはずだよな?

そうだな…断られた時は諦めれば良いだけだ。

俺は振り返って、ロゼを誘って見る事にした。


「ロゼ、良かったら寝室の方に来てくれないか?

その方が、万が一の時でも対処しやすいだろう?」

「エルレイ様が許可して下さるのであれば、私としてもそちらが望ましいです」

「では、寝室に行こう」

よし!ロゼを寝室に入れる事には成功した。

問題は次だな…。

俺は下心を出来る限り出さないように心がけながら、ロゼに話しかけた。

「ロゼ、出来れば一緒に眠って貰えないだろうか?」

「…エルレイ様がお望みとあれば、私は断る事が出来ません」

ロゼは少し考えた後、メイドとして冷静に答えてくれた。

まぁ、メイドと言う立場からすれば、俺の言葉は断れないよな…。

しかし、強制しては面白く無いし、ロゼの意思で一緒に眠って貰いたいんだよな。

「いや、命令しているのでは無いんだ。単に僕が一人で寝るのが寂しいから一緒に寝れくれないかと思っただけなんだけど…

嫌だと言うのであれば、強制はしないよ…」

俺は少し俯いて、寂しそうな感じの演技をした…。

少し姑息なやり方だが、十歳の男の子がやれば、年上の女性は悪く思わないだろう?

そう思って上目遣いでロゼをちらっと見たが、ロゼは無表情のままだった…。

駄目だったか…そう諦めたのだが、そうでは無かったみたいだ。

「承知しました。失礼ながら添い寝させて頂きます」

ロゼは躊躇なくメイド服を脱いで下着姿となった。

無駄のないすらりとした体つきは、とても美しくて魅力的だった。

とても、あの素早い動きが出来るような筋肉の付き方ではないな…。

筋力を使ってあの動きをしているのではないのだとしたら、魔力が関係していると考えた方が良さそうだ。

俺にも真似出来たりするのかも知れないな…。


「どこか変でございましょうか?」

俺がロゼの裸をずっと見ていたから、そんな質問をされてしまった。

「いや、美しい体をしていたから見惚れていたんだ…」

「そうでございましたか」

褒めて見たが、ロゼの無表情が変化する事は無かったな…。

この様な事には慣れているのだろうか?

恥ずかしいそぶりを見せる事も無いんだよな…。

まぁいいか、それより俺に教えて貰えないか聞いて見る事にしよう。


「ロゼ、先程の技を僕にも教えて貰えないだろうか?」

「いいえ、それは出来ません!」

今まで無表情だったロゼの表情が厳しいものへと変化し、明確に断られた。

特別な技だから教えられないのだろうか?

無理に聞き出す事は止めておいた方が良さそうだな…。

「そうか、それなら無理にとは言わない」

「申し訳ございません」

ロゼの表情は元の無表情へと戻り、深々と俺に頭を下げて謝罪してきた。


「ごめん、裸のままでは寒いよな。ベッドに入ろう」

「はい、畏まりました」

ロゼは素直に俺と一緒にベッドに入ってくれた。

女性と一緒にベッドに寝るのは初めての事でかなり緊張し、心臓の鼓動も早くなって来た。

俺の顔は恐らく真っ赤になっている事だろう…。

しかし、明かりを消しているから、俺の顔色までは分からないと思う。

ロゼは俺の横で、無表情のままじっと俺の顔を見てくれている。

少し恥じらいを見せてくれた方が俺としては嬉しいのだが、無理も無いか…。

お陰で俺だけが興奮していた事に気付き、少しだけ気持ちが落ち着いて来た…。

俺も自分のメイドと言う事で、嬉しさのあまり勢いで一緒に寝て貰ったのだが、特に何かするつもりもない。

いきなり体を触って嫌われたくはないしな…。

大人しく寝る無としよう。

そう思って目を瞑ろうとした時に、ロゼが話しかけて来た。


「エルレイ様、一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何かな?」

「エルレイ様は、私が襲うとは考えなかったのでしょうか?」

「いいや、それは全く考えなかったな…」

ロゼの質問に、俺は本音で答えた。

考えなかったと言うのは嘘だが、ちょっと魔法が使えるだけの俺を殺す利点は無いはずだ。

無いよな?

俺にロゼとリゼを与えてくれたラノフェリア公爵は当然ない!

これは断言できるな。

ロゼとリゼが居たラウニスカ王国としても、男爵三男の俺を殺す利点は皆無のはず。

他に俺の事を知っているのは、兄さん達の結婚式に来てくれた貴族達だけだが、その貴族がラノフェリア公爵家に雇われているロゼとリゼに命令できるとも思えないしな。

それに、ロゼとリゼに出会って数時間しか経っていないが、俺を殺したりするような人には思えなかった。

これでも俺は、勇者時代に多くの人達と出会って来ている。

笑顔を浮かべながら裏で悪事を企んでいる者達も大勢見て来た。

俺を裏切って、貶めようとした者もいたからな…。

俺の人を見る目が転生した事で鈍っていなければ、ロゼとリゼは悪事を企むような人では無いと言い切れる。

まぁ、ここでロゼに刺されて殺されたら、人を見る目が無かったと諦めるしか無いな…。


「私は先程、エルレイ様を倒せる技をお見せ致しましたし、ナイフも所持しております。

私がここでエルレイ様を襲えば、確実に仕留める事が可能です」

「そうだろうね。でも、僕はロゼとリゼの事を信用しているよ」

「今日会ったばかりの私達を信用していると言うのでしょうか?」

「うん、信用しているよ。理由はラノフェリア公爵様が与えてくれたメイドだからという事だね。

僕は今日、ラノフェリア公爵様に取っても有用な魔法を覚えた。

そのラノフェリア公爵様が、僕を襲う様なメイドを与える事は無いと思う。

それに、ロゼとリゼの目を見て、信用出来ると思ったのが一番かな」

俺はロゼの目を真っすぐ見て、笑顔を浮かべながら答えた。

ロゼは相変わらずの無表情だが、その目も俺の事を真っすぐ見ていた。

暫くロゼと見つめ合う形になってしまって、俺の方が少し恥ずかしくなって来た…。

ロゼは俺に初めて微笑んでくれると、布団の中の俺の手を優しく握ってくれた。

「信用して下さり、ありがとうございます。

エルレイ様、私はエルレイ様の信用にお応えできるよう、精一杯尽くさせて頂きます」

「うん、僕もロゼに主人として誇られるように頑張るよ」

俺とロゼは笑顔になり、ロゼの笑顔を見ながら、安心して眠りに着く事にした…。

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