第二十六話 ロゼとの会話 その一

二人のメイドとの話も終わり、俺は少し休息しようと思って部屋を出て行って貰った。

魔力は少し回復してきていて、また倒れる様な事にはならないと思うが、念の為夕食まで寝る事にした。

そして、緊張を強いられる夕食を頂いた後、部屋に戻って来て風呂に入る事になった。

「ロゼ、一人で出来るから手伝わなくてもいいよ」

今までは、ラノフェリア公爵家のメイドだと思って手伝わせていたが、俺のメイドになったのだから気遣う必要は無い。

そう思って断ったのだけれど…。

「いいえ、その様な訳には参りません。手伝わせて頂きます」

多少強引にロゼから服を脱がされて、風呂に入れられて体を洗われた…。

まぁ、既に裸は昨日見られたのだから恥ずかしくは無いのだが、体を洗われるのは気持ちいい様なくすぐったい様な何とも言えない感じだな…。

俺の体はまだ子供だから、ロゼの服が濡れて透けているのにも反応はしないが、後数年すれば立派に反応を示すようになるだろう。

そうなる前に、何とか入浴は一人で入れる様に説得するしか無いな。

風呂を出て着替えさせて貰った俺は、寝る前に少しロゼと話す事にした。

内容は護衛についてだな。

正直な話、俺自身は不意を突かれない限り、命を狙われたとしても自衛出来ると思っている。

寝込みを襲われれば対応出来ないが、それ以外の状況は多分大丈夫のはずだ。

だから、ロゼとリゼが俺を護衛する必要は無いと思っているし、そもそも、二人が戦えるとは思えなかった。


「ロゼ、君の護衛としての腕をこの場で見せてはくれないかな?」

「よろしいのでしょうか?」

「うん、僕を倒して見てくれ。もちろん僕も反撃させて貰うけれどね」

「承知しました」

ロゼは、迷う事無く俺から数歩離れた位置に立ったが、全く構えを取ってはいなかった。

「では参らせて頂きます」

「うん、いつでもいいよ」

俺は、ロゼの攻撃を躱せるように、左足を前に少し出して構えを取った。

室内なので剣は持っていないが、無手での戦い方もアンジェリカから教わっているので問題無いだろう。

ロゼは一向に構える姿を見せないが、相当に自信がありそうな感じで、ロゼが少し笑った様に思えた。

「えっ!?」

俺が気が付いた時には、床に倒されてしまっていた…。

ロゼが背中に手を回していてくれたため、全く痛みは無い。

「これでよろしいでしょうか?」

「うん、降参だ。何をしたのか聞いても良いだろうか?」

ロゼは俺を起こし、服が汚れていないか確認した後、話し始めてくれた。


「エルレイ様は、ラウニスカ王国をご存知でしょうか?」

「うん、名前だけは知っている」

ラウニスカ王国は、俺が住んでいるソートマス王国から東北のアイロス王国の更に北に位置する国だと、アンジェリカから教わっていた。

教わったのは本当に名前だけで、何をしている国なのかは全く知らない。

「私達姉妹は、ラウニスカ王国でこの技を教わりました。

そしてこの技は、ラウニスカ王国では主に暗殺に使われており、お金を支払えば誰でも暗殺者を雇う事が可能です。

私達姉妹は、エルレイ様を暗殺者からお守りするのが役目ですのでご安心ください」

「なるほど…それは魔法なのかい?」

「いいえ違います。私達は魔法が使えません。

この技は、何とご説明したらよろしいのか分かりませんが、今見て頂いた通り高速で動く事が可能です。

ですが、高速で動ける時間はとても短く、連続で使用する事は出来ませんし、一日の使用回数も三回までとなっております。

それ以上使うと、私達の命の保証はありません」

「そうか、分かった。必要以上に使う必要は無いし、そんな技がある事が分かったので対策も出来るだろう」

高速で動くために、体に相当な負担を掛けるのだろう。

ロゼとリゼには、命の危険がある技を使って欲しくは無いな。

その為には、俺が自衛出来る事を教えておかなくてはならない。

「ロゼ、今ナイフを持っていたりしないだろうか?」

「はい、自衛のための物を所持しております」

「それを取り出してくれないか」

「承知しました」

ロゼは突然スカートをまくり上げ、太ももに装備しているナイフを取り出して見せてくれた。

ちょっとパンツが見えそうで見えなかったのが残念だったな…。

「ごほんっ、今から僕が自身に障壁を張るから、ロゼはそのナイフで僕を突き刺して見てくれ」

「…大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫、万が一怪我をしたとしても魔法で治癒出来るから問題無いよ」

俺が障壁を張ると、ロゼは少し迷いながら、俺の太もも目がけてナイフを突き刺して来た。

キンッ!

ナイフが障壁に当たった際の高い音が響き、ロゼがナイフを落とした。

手がしびれているのだろう、俺はロゼの痺れた手を握って治癒の魔法を掛けた。

「まだ痛かったりするかな?」

「大丈夫でございます。エルレイ様、ありがとうございます」

ロゼは落ちたナイフを拾い上げて、再びスカートをまくり上げて太ももに戻していた。

やはりパンツは見えなかった…。

そんな事は置いといて、説得しなくてはならないな。

「ロゼ、今の様に僕は自分で守る事が出来る。だから、出来るだけその技は使わない様にしてくれ」

「…私達の事を気遣って下さり、誠にありがとうございます。

しかし、いざと言う時には使用させて頂きます。

私達は、エルレイ様をお守りするのが役割ですので、どうかご理解ください」

「そうか、僕は君達が技を使わないで済むように努力する事にしよう」

ロゼが折れてくれる事は無さそうなので、俺の方で何とかするしかなさそうだ…。

「所で、ロゼも暗殺者だったのだろうか?」

「いいえ、私達は最初からメイドです」

「そうか、失礼な事を聞いてしまった。すまない」

「いいえ、私達に答えられる事であれば、エルレイ様に隠し立てする事はございませんので、遠慮なく聞いてくださいませ」

ロゼは真っすぐ俺の目を見て発言してきた。

本当に隠す気が無いのかもしれない。

二人がどの様にして、ラウニスカ王国からソートマス王国のラノフェリア公爵家で働く事になったのかは、ある程度想像できる。

ロゼとリゼは、特殊な能力を持っているメイドと言う事なので、相当なお金が動いたのだろう。

そのメイドを、俺の護衛として付けてくれたと言う事は…ラノフェリア公爵に大きな借りを作ってしまう事になったな。

いや、ラノフェリア公爵は俺の護衛と言いつつ、実質ルリアの護衛としてロゼとリゼを与えてくれたのだろう。

そう考えると、特殊な能力を持つロゼとリゼを与えてくれた事には納得が出来る。

気にしなくても良さそうかな?

そろそろ寝ないと、ロゼの負担になってしまうな。

ロゼに就寝の挨拶をして寝室に向かう事にした…。

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