第二十五話 ロゼとリゼ
暫く待たされた後、メイドが呼びに来てラノフェリア公爵と会う事となった。
ルリアと共に別の部屋に案内されて、ラノフェリア公爵を待つ…。
「エルレイ君、おめでとう!」
「ラノフェリア公爵様、ありがとうございます」
ラノフェリア公爵は部屋に入って来るなり、満面の笑みで俺を褒めてくれた。
「これでエルレイ君は、英雄と肩を並べた事になるのだからな!」
「いえ、その様な事は無いかと思います…」
「まぁ、エルレイ君の努力次第だろう。私も僅かながら協力させて貰うから頑張るのだぞ!」
「はい、これからも努力していく事をお約束致します!」
英雄に成りたいとはこれっぽっちも思わないが、家族を守るための努力はしていくつもりだ。
「うむ、座ってゆっくり話す事にしよう」
「はい、失礼します」
ラノフェリア公爵が正面のソファーに腰掛けた後、俺とルリアもソファーに座った。
メイドが紅茶を淹れてくれて、ラノフェリア公爵はゆっくりと紅茶を堪能してから話し始めた。
「ヴァイスから報告を受けたが、エルレイ君は魔力切れで倒れたそうだな?」
「はい、転移門を使うにはまだ魔力が足りませんでした。
明日、魔力が戻り次第、もう一度試して見ないと正確な事は言えませんが、収納魔法と空間転移魔法は問題無く使用する事が可能だと思います」
「そうか、それは良かった!」
ラノフェリア公爵は軽く頷き、とても満足そうな表情を浮かべていた。
恐らくだが、今度ラノフェリア公爵の移動手段として、俺は使われる事になるのだろう。
多少自由を奪われてしまうが、便利な空間魔法を覚えさせて貰ったお礼だと考えれば、それくらいは許容範囲だと思う。
それを行う為にも、俺は飛行魔法を使ってソートマス王国内を飛び回っておかないといけないな。
空間転移魔法は便利ではあるが、一度自分が訪れた場所でないと転移できないと魔法書には書かれていた。
転移する場所を頭の中に思い浮かべないといけないから、当然の事だな。
しかし、一度行ってしまえば、後は一瞬で移動できるのだから時間の節約になる。
ラノフェリア公爵も、貴重な時間を節約できる手段が手直にあるのであれば、使わないという選択肢は無いだろうからな。
ラノフェリア公爵は、テーブルの上に置かれているベルを持って軽く鳴らと、執事のヴァイスが奥の扉から中に入って来た。
「お呼びでしょうか?」
「うむ、例の魔法書とメイドの二人を連れて来てくれ」
「畏まりました」
例の魔法書?
まだ他にも、秘蔵の魔法書があるのだろうか?
ラノフェリア公爵はヴァイスを待つ間紅茶を楽しんでいるし、ルリアはお菓子を持って来て貰って美味しそうに食べていて、話しかけずらい…。
仕方ないので、俺もルリアと一緒にお菓子を食べながら待つ事にした。
「お待たせしました」
ヴァイスはトレーに一冊の魔法書を載せて戻って来た。
やはり、俺に魔法書を読ませてくれるみたいだが、ただとは言わないよな…。
俺は少し警戒しながら、ラノフェリア公爵の話を待つ事にした。
「エルレイ君、これは無属性の魔法書で、念話の魔法が記されている。
念話とは、魔法使い同士で遠距離通話を可能にする便利な物だ。
ヴァイスも魔法使いなので、いつでも連絡が取れる様にして置いて貰えると助かる」
「はい、分かりました」
無属性魔法にそんな便利な物があったなんて知らなかったな…。
未知の魔法は喜んで覚えたいが、これで俺はラノフェリア公爵からいつでも呼び出される事になると言う訳だ…。
素直には喜べないが断る事も出来ないので、魔法書を受け取った。
「それから、このメイドをエルレイ君の護衛として付けるから、自由に使ってくれたまえ」
メイド?
なぜか、ラノフェリア公爵から二人のメイドを与えられてしまった…。
しかも護衛?
意味が良く分からないが、空間属性魔法を覚えた俺は、色んな人達から狙われると脅されたので、護衛を付けて貰えるのは非常に嬉しい。
しかし、メイドに護衛が務まるのか疑問の残る所だ…。
「エルレイ様、ロゼと申します」
「エルレイ様、リゼと申します」
「「本日よりエルレイ様にお仕え致しますので、よろしくお願いします」」
「こちらこそよろしく…」
二人のメイドに挨拶され、俺は少し混乱していた…。
この二人のメイドは、見た目も声もそっくりで見分けがつかない。
身長も同じで百五十センチ位だろうか…俺より少し高いくらいだが、大人の女性としての落ち着きを感じさせられる。
肩の辺りで切りそろえられた茶色の髪も同じだし、無表情の整った顔も全く同じで、違いを見つける事が出来なかった…。
あっ、そう言えば、このメイド達の給料は俺が支払わないといけないのだろうか?
俺の稼ぎが無い事はラノフェリア公爵も知っているだろうけれど、確認しておいた方が良いのかな?
でも、ラノフェリア公爵にそんな事を聞くのは少しためらわれる…。
後で、二人のメイドに聞いて見る事にするか…。
「エルレイ君、また明日魔法が使えたなら知らせてくれたまえ」
「はい、分かりました」
ラノフェリア公爵は用事が済んだという事で、部屋から出て行ってしまった。
色々と忙しいのだろう。
俺は早速、ルリアと一緒に魔法書を読み、ヴァイスと念話で話せるか確認した。
「エルレイ、体調は戻ったみたいだし、私は部屋に戻るわね!」
「うん、ルリアありがとう」
ルリアとも念話で話が出来る様になったから、いつでも連絡は取れるな。
俺は与えられたメイド二人を連れて、俺が使っている部屋へと戻って行った…。
「改めてよろしく」
「「はい、よろしくお願いします」」
二人のメイドは、計ったように同じタイミングで俺にお辞儀をした。
ここまで来ると、見事としか言いようがない。
改めて二人のメイドを見ると、俺がラノフェリア公爵家にやって来てから、ずっとお世話をしてくれているメイドだと言うが分かった。
ラノフェリア公爵は、最初から俺にこのメイドを与えるつもりだったという事なのだろうか?
とは言え、本当に俺の護衛が務まるのだろうか?
少し試して見るのも良さそうだが、話をするのが先だろう。
「ロゼとリゼだったな。双子の姉妹だと思うが、僕にはどちらがロゼで、どちらがリゼなのか判断できない。
呼び間違えるかもしれないが、そこは理解してくれると助かる」
「「はい、問題ございません」」
これだけ似ていれば、名前を呼び間違えられるのには慣れているのだろう。
しかし、名前は大事だ。
出来る限り、呼び間違えないように努力しなければならないな…。
「さて、僕の事はラノフェリア公爵様から聞いていると思うが、一応説明しておく。
アリクレット男爵家の三男で歳は十歳。ルリアお嬢様の婚約者だ。
四属性全てを使える魔法使いで、呪文を唱えなくとも魔法が使える。
それで、出来れば僕が使っている魔法の事は、ラノフェリア公爵様に報告しないで欲しいのだけれど駄目だろうか?」
一応駄目元で頼んでみた。
ラノフェリア公爵が俺にメイドを付けた理由は、表向きは護衛だろうが、俺の事を近くで調べて貰うのが本当の理由だろう。
俺が使う魔法は、ルリアにも教えた通り、普通に呪文を使う魔法とは全く違う。
いずれはラノフェリア公爵が知る事になるだろうが、出来るだけ知られたくはなかった。
二人の前で魔法を使わないと言う事は出来ないだろうからな…。
二人のメイドは、少しの間お互いの目を見て意思疎通を行っているかのようだった。
そして俺を見て、片方のメイドが話し始めた。
「エルレイ様、私達の御主人様はエルレイ様でございます。
御主人様の秘密を私達が漏らす事は決して致しません」
「あっ、そうなんだ…。でも、見て分かる通り、まだ働いていないので君達の給料を払う事は出来ないんだけれど…」
「私達は既に十分な金銭を頂いておりますので、ご心配頂かなくても結構です」
「そ、そうか…」
二人の話を信じるなら、完全な俺のメイドと言う事になる。
給料も払わなくていいみたいだが…。
今は、二人の話を信じるしか無いか。
ラノフェリア公爵に魔法が知られる事になるのは、早いか遅いかの違いだろう。
ラノフェリア公爵の小間使いとして使われないように、早めに仕事を見つけた方が良さそうな気がして来た。
家に帰ったら、真剣に仕事を見つける事にしようと思う。
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