第二十四話 ラノフェリア家秘蔵の魔法書 その四

ルリアと顔を寄せ合って、魔法書を食い入る様に読んで行く。

「凄い、凄いわ!」

「そうだね!」

二人で興奮しつつ、魔法書を読み進めて行く。

ラノフェリア家秘蔵の魔法書は、英雄クロームウェルが残した物で間違いなかった。

そして肝心の魔法書に書かれていた内容は、空間属性魔法と呼ばれる物で、三つの魔法が記されてあった。

その三つの魔法は、収納魔法、空間転移魔法、転移門だ。


収納魔法は、異空間に魔力を用いて倉庫のような空間を作り出し、そこに生物以外の物を出し入れを可能とする魔法だ。

空間転移魔法は、現地点から術者が思い描いた地点に転移する魔法で、術者と接触している者も一緒に転移する事が出来る。

転移門は、空間転移魔法が門の状態で現れる魔法で、より多くの人を転移させる事が可能だ。


「エルレイ!早速試しに行きましょう!」

「うん、そうしよう!」

魔法書を読み終え、執事のヴァイスに魔法書を返還して、地下の部屋から出て行く。

ヴァイスが扉に鍵をかける時間がもどかしい…。

ヴァイスも俺とルリアが魔法を使う所を確認するみたいなので、置いて行く訳にはいかない。

「お待たせしました」

「ヴァイス、早く裏庭に行くわよ!」

「承知しました」

ルリアに急かされて、ヴァイスの歩く速度が速くなった。

地下から一階に上がり、長い廊下を歩いて裏庭へとやって来た。

「私からやるわよ!」

「うん、頑張って」

ルリアが、我慢できないといった感じで、覚えたての呪文を唱えて行った。


「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし、我の求めに応じ空間を作り賜え、クリエイトスペース!」


…。

「駄目だったわ…」

ルリアは、がっくりと肩を落として落ち込んでしまっていた…。

空間属性魔法も一つの属性とみなされていて、使える事は出来ないみたいだな。

もしかすると、リリーの様に一つの属性しか使えない人は、空間属性魔法の適性があったりするのかも知れない。

でもそれは、秘密にしておかなくてはならないな。

空間属性魔法は、ラノフェリア家の秘蔵の物だし、俺が自由にして良い物では無いだろうからな。

「ルリア、僕が唱えて見るけどいいよね?」

「いいわよ…」

落ち込んでいるルリアに許可を貰い、俺は少し離れた場所で呪文を唱える事にした。


「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし、我の求めに応じ空間を作り賜え、クリエイトスペース」


どの上級魔法より多い魔力が消費されていき、目の前に十センチほどの白く輝く正方形の箱が浮かんでいた。

俺にも空間属性魔法が使えたみたいで、非常に嬉しく思う。

そして、女神クローリスに感謝しなくてはならないが、それは一人になった時に行う事にしよう。

俺はその白い箱に手を伸ばして見ると、手の先がスッとはこの中に吸い込まれて行く様な感じで消えて行った。

なるほど、ここに物を入れられるという事は頭で理解できた。

「エルレイ、大丈夫なの?」

「うん、問題無いよ」

ルリアにも俺の手が消えて行ったのが見えたみたいで、心配そうに聞いて来てくれた。

俺は白い箱から手を引き抜き、手の平をルリアに見せてあげると、安心してくれたみたいだ。

「エルレイだけ使えるのはズルいけれど、一応祝福してあげるわ。おめでとう」

「うん、ルリアありがとう」

ルリアに笑顔で祝福されて、とても嬉しく思う。

「さぁ、次の魔法も使って見せなさい!」

「分かった、やって見るよ」

次は転移魔法だな。

転移する場所は、少し離れた位置で良いだろう。

俺は目の前の転移先の位置を頭の中に思い浮かべながら、呪文を唱えて行った。


「偉大なる空間の支配者よ、我が偉大なる魔力を糧とし、彼の地とこの地を結び我を運び給え、テレポート」


一瞬、目の前が真っ暗になったけれど、次の瞬間にはラノフェリア家の整えられた裏庭の景色が目の前に広がっていた。

「エルレイ、今のが空間転移魔法なの?」

少し離れた後ろから、ルリアの声が聞こえて来る。

俺は振り向き、自分の今の位置とルリア達が居る位置を確認した。

「うん、その通り、上手く行ったみたい!」

「流石ね!最後は転移門ね!」

「うん、今から使って見るよ!」

ここまで来たら、最後の転移門も上手く使えるだろう!

ルリアの少し手前の位置を頭の中に思い浮かべながら、転移門の呪文を唱えた。


「偉大なる空間の支配者よ、我が絶大なる魔力を糧とし、彼の地とこの地を結ぶ門を開き給え、ゲート」


「あ…れっ…」

俺の体の中から、急激に魔力が減って行くのを感じられたが魔法が発動する事は無く、俺の意識はそこで途絶えてしまった…。


………。

……。

…。

とても温かくて柔らかい物に包まれていて気持ちが良い…。

ゆっくり目を開けると、見知らぬ真っ白で綺麗な天井が見えた…。

どうやら俺は、ベッドで眠っていた様だ。

確か俺は、空間魔法を使うためにルリア達と外に出ていたはずだったが…。

まさか、空間魔法が使えたのは夢落ちだったとか言わないよな?


「エルレイ様、大丈夫ですか!?」

ベッドの横から声がしたので顔を向けて見ると、目に涙を浮かべたリリーが、今にも泣きだしそうな表情で俺の事を見ていた。

「リリー、僕は大丈夫だから泣かないでくれ…」

俺はリリーの顔に手を伸ばしてそっと涙を拭ってあげると、リリーの表情は笑顔に変わっていった。

「ありがとうございます」

リリーが俺の手を両手で優しく包み込んでくれた。

リリーの手の柔らかさと温かさが伝わって来て、なんだか幸せな気持ちになって来る。

俺が微笑んでリリーを目を見つめると、リリーは少し恥ずかしそうにしながらも俺の目を見つめてくれた。

リリーの可愛い顔をずっと見つめていたい…そんな気分になって来る。

リリーも同じ気持ちなのか、俺の手を握ったまま幸せそうな表情で見つめて来てくれている…。

「リリー、エルレイが目を覚ましたの?」

そんな幸せな時間が、少し離れた所から聞こえて来たルリアの声で終わってしまった。

「はい、ルリアお嬢様!」

リリーは慌てて俺の手を離し、ルリアの方に振り向いて答えていた。

仕方が無い、俺は体を起こしてベッドから抜け出た。

「エルレイ様、起きても大丈夫なのですか?」

「大丈夫、一応理解しているけれど、僕は魔力切れで倒れたのかな?」

「はい、エルレイ様が呪文を唱えた後倒れました。

その後、ヴァイスさんがエルレイ様をここまで運んできて寝かせてくださいました。

治癒魔法は掛けたのですが、何処か痛い所はございませんでしょうか?」

「うん、大丈夫。リリーありがとう!」

「いえ、当然の事をしたまでです…」

俺は治療してくれたリリーに感謝を言った後、ソファーに座っているルリアの所に歩いて行って隣に腰掛けた。

「ルリアには、心配かけたみたいだね」

「ふんっ、別にエルレイの心配なんかしてないわ!」

ルリアは横を向いてしまって表情を見る事は出来ないけれど、倒れた俺を心配してくれていたのは間違い無いだろう。

心配していなければ、自分の部屋に戻っていただろうからな。

だから俺は、心を込めて感謝の気持ちを伝える事にした。

「ルリア、ありがとう」

「心配して無かったから感謝は要らないわ!

それより、転移門は使えないって事なのかしら?」

「そうだね。僕の今の魔力量では、門が出る前に魔力切れになったからね。

当分使えないと思っていて間違いないと思うよ」

「そう…でも、空間転移魔法は使えたのよね?」

「うん、明日魔力が戻ったらもう一度試して確認しないといけないけれど、多分大丈夫だと思うよ」

「それならよかったわ!お父様に報告しに行かないといけないのだけれど、もう大丈夫なのかしら?」

「うん、大丈夫」

ルリアが他のメイドを呼びつけ、ラノフェリア公爵との面談をお願いしていた。

俺が空間属性魔法を使えた事で、ラノフェリア公爵から何を言われるか少し怖い所があるが、会わない訳にはいかない。

メイドが呼びに来るまでの間に、覚悟を決めておく事にした…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る