第二十二話 ルリアの魔法披露

「お風呂の用意が出来ております」

「ありがとう」

部屋に戻ると、メイドからお風呂に入る様にと言われ、寝室の横にある風呂場にやって来た。

この屋敷では、各部屋に風呂が用意されていたりするのだろうか?

大きな浴場を想像したが、完全な個室となっている。

個室と言っても俺の自宅の部屋よりかは広いし、この小さな体だと泳ぐ事も可能だな…。

メイドの手によって俺の服は脱がされ、生まれたままの姿となった。

家ではもうメイドに手伝って貰う事は無かったが、ここでは大人しく手伝わせた方が良いと判断した。

彼女はこれが仕事なのだから、それを奪う訳にはいかないし、断れば彼女が怒られたりするのだからな。

俺はメイドと一緒に風呂に入り、背中を流して貰う…。

当然メイドは、濡れてもいい服を着ているので問題は無い。

全裸じゃ無いからと残念がってはいないぞ…。

俺は十歳の子供だし、女性を嫌らしい目で見ていては怪しまれる。

それにもし、そんな目で女性を見ていた事がルリアの耳に届いたら、殴られるのは間違い無いからな…。

メイドから体を洗って貰い、湯船に浸かって疲れを癒す…。

今日は精神的にかなり疲れたからな…。

魔法書を読む覚悟は出来たから、明日ラノフェリア公爵に言って読ませて貰う事にしないとな。

よし!

明日の為に早く寝た方が良いだろう。

湯船から上がり、濡れた体をメイドに拭いて貰って寝具を着せて貰い、寝室のベッドに横になって眠った…。


翌朝、いつもの様に夜明けに目が覚めた。

ベッドから抜け出して、台の上に置いてあるベルを手にとって軽く鳴らす。

リンッと気持ちい音が鳴った後、寝室の扉が開かれてメイドが入室してきた。

「お呼びでしょうか」

「うん、朝早くからすまないけど、着替えを手伝って貰えないかな?」

「畏まりました」

メイドに朝食の時間を聞くと、まだかなりの余裕があったので、動きやすい服装に着替えさせて貰い外に案内して貰った。

剣を他のメイドに持って来て貰い、朝の訓練を始める。

綺麗に整えられた庭園を前にしての訓練は、気持ちいいものがあるな…。

ラノフェリア家の方々はまだ眠っているみたいだが、宮殿の中では使用人達が忙しそうに働いているな。

庭園の手入れをしている庭師達の姿も確認できる。

昨日訪れた際は気付かなかったが、多くの使用人達が働いているのが良く分かる。

そんな使用人達の働く姿を眺めながら、剣を振り続けて行く…。

「そろそろ、お戻りになった方がよろしいかと」

「分かった」

待機していたメイドに声を掛けられたので、部屋に戻って流した汗を拭って貰い、用意されていた服を着せて貰った。

今日は綺麗な青色の服だな。

銀色の刺繍が施されていて、清潔感が感じられるし、赤よりは恥ずかしくは無いな。

着替え終えた俺は、食堂へと向かって行った。

食堂に入ったのは俺が一番最初のようで安堵した。

暫く待った後、ルリアが入って来て俺の隣に座った。

「ルリア、おはよう」

「エルレイ、おはよう」

ルリアは挨拶をしただけで口を閉じた。

家では、父が入って来るまでは賑やかに話をしているが、ラノフェリア家ではそうでは無いみたいだ。

俺もルリアに倣って、朝食が始まるまでの間沈黙を続けた。


「おはよう」

「「「「「おはようございます」」」」」

ラノフェリア公爵が席に着き、朝食が始まった。

今朝は特に話す事が無いのか、黙々と食事が進んで行く。

食後の紅茶が用意された時、ラノフェリア公爵が話し始めた。

「この後、ルリアとエルレイ君に魔法を見せて貰おうと思っている。

興味がある者は、遠慮なく見学に来てくれたまえ」

そう言えば、昨日もそんな事を言っていたな…。

魔法を見せるのは構わないが、無詠唱を知られたくはない。

移動する際に、ルリアに話しておかないといけないな…。


朝食が終わり、ラノフェリア家全員で移動する事になった。

ラノフェリア公爵は興味がある者はとか言ってたが、当主が見に来いと言ったのを断れる者なんていないだろう。

宮殿の裏庭へと出ると、ラノフェリア公爵は立ち止まった。

「ルリア、ここで構わないか?」

「はい、お父様」

「エルレイ君、魔法を見せてくれないか」

「分かりました…」

裏庭と言えど、綺麗に刈り取られた芝生や木々が植わっていて、ここで魔法を使っていいのかと迷ってしまう。

上空に撃ち出せば問題無いか…。

俺とルリアは、ラノフェリア一家から少し離れた場所に移動し、ルリアに小声で話しかけた。


「ルリア、普通の魔法を使ってくれ」

「分かっているわ!上級は使っていいのよね?」

「うん、上に向けて使ってくれ。こちらに被害が出ない様に守っているから遠慮しなくていい」

「分かったわ!」

ルリアは、家族の前という事で少し緊張しているみたいだったが、今日まで真面目に訓練して来たのだから失敗する事は無いだろう。

俺はルリアから離れて、ラノフェリア公爵の所へと戻って行った。


「今からルリアお嬢様が魔法を使います。

念の為に、私が皆様をお守りしていますので、ご安心ください」

「うむ」

「ルリア、頑張りなさい!」

アベルティアがルリアに声を掛けていたが、集中しているみたいで、こちらを振り向いたりはしなかった。

大丈夫そうだな。

ルリアは顔を上に向けて右手を上げ、魔法を発動させた。

「フレイムピラー!」

ルリアの美しい声とは裏腹に、上空に激しく燃え盛る火の柱が出現した!

「おぉ、素晴らしい!」

「ルリア、凄いわ!」

家族から歓声が上がる中、ルリアは他の魔法を次々と使って行き、激しい音と光が響いて来る。

俺が障壁で守っているから熱は通してはいないけれど、障壁の範囲外の芝生は、ルリアの魔法の余波で少し茶色に変色している…。

ルリアは、十分に魔法を撃てて、上機嫌でこちらに戻って来た。

「お父様、お母様、いかがでしたでしょうか?」

「うむ、とても素晴らしい魔法であったぞ!」

「ルリア、とても立派な魔法使いに成りましたね!お見事でしたよ!」

ルリアは両親に褒められてとても喜び、母親に抱き付いてい甘えていた。

俺が褒めた時とは大違いだな…。

俺の前では、大人びた感じを装うっているが、こうして見るとルリアも十歳の女の子なのだと思えるな。


さて、次は俺の番だが…。

チラリとラノフェリア公爵を見る。

母親に甘えているルリアの方を見て微笑んでいるな。

今日は主役はルリアで、俺はそのおまけ程度だから、ルリアより派手にならない様にしなくてはいけないな。

少し離れた位置に立ち、上空に向けて、初級の火、水、地、風の四属性魔法を連続で撃ち出して行った。

派手さは無いが、呪文を唱えない利点としての、手数の多さは見せられたと思う。

「エルレイ君も、相変わらず見事だ!」

「ありがとうございます」

ラノフェリア公爵も、満足してくれたみたいだ。

しかし、長男のネレイトが不満気な表情を見せながら俺の前に出て来て、質問してきた。

「エルレイは、ルリアより凄い魔法が使えるのでは無いのか?」

「いいえ、ルリアお嬢様と同じ魔法は使えますが、威力はルリアお嬢様の方が上なのです」

「そうなのか?」

「はい、私は全ての属性魔法を使えるのですが、得意と言うものはありません」

ネレイトに、得意属性の威力が上がる事を説明する事となった…。

「魔法にはそんな特性があったのだな。しかし、全部使えるほうが凄いでは無いか!」

「そうですね…」

そこは俺も認める他無いな…。

ルリアからも、散々ずるいと言われ続けて来たからな。

ともあれ魔法の披露も終わり、宮殿の中に戻って行く事になり、そこでラノフェリア公爵から声を掛けられた。


「例の件は、結論は出たのかね?」

「はい!」

俺はラノフェリア公爵の問いに力強く答えると、ラノフェリア公爵も満足そうにうなずいていた。

「そうか、では部屋に戻って話を聞かせて貰おう」

ラノフェリア公爵は執事に声を掛け、俺とルリアを連れて昨日会談した部屋へと向かって行った。

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