第十八話 ラノフェリア公爵家へ その四
「ここが私の家よ!」
「大きい…」
ルリアが上空で制止して指をさしている地点には、広大な平地の中に、綺麗に整えられた緑の絨毯が敷き詰められていて、その一番奥には、白い壁に青い屋根の
俺の家と比べるまでも無いな…。
あれが、ソートマス王国の王城だと言われても、俺は信じてしまうだろう。
「エルレイ、ぼーっとして無いで行くわよ!」
「えっ、ここで降りないの?」
俺達の真下には立派な門が見えている。
門から宮殿まではかなりの距離があるけれど、礼儀として門から入らないといけないだろう。
「歩きたくないわ!」
その気持ちは良く分かるが、魔法使いが玄関前にいきなり飛び降りて来れば、攻撃されても文句は言えないと思う…。
ルリアは構わず、宮殿の玄関前に降り立った。
俺はいつでも防御できるように準備しながら、ルリアの後ろに降り立ち、リリーを降ろした。
俺達が宮殿前に降り立った直後、玄関の扉が開き、中から執事とメイド数名が出て来て出迎えてくれた。
執事とメイドは、無駄の無い精錬された動きで一列に整列しルリアに一礼をしていた。
「ルリアお嬢様、お帰りなさいませ」
「知っているとは思うけれど、こっちは私の婚約者でエルレイよ!
お父様との面談前に、身支度を整えさせて頂戴!」
ルリアは当然と言った態度で執事達の挨拶を無視し、用件だけを伝えている。
「畏まりました。エルレイ様、ラノフェリア公爵家へようこそおいで下さいました。
お荷物を預からせて頂きます」
「は、はい」
執事達も気にしていない様子で、ルリアの要件を承服し、俺の方へとやって来た。
俺は、ルリアの態度に圧倒されてしまっていた。
俺の家にいた時には、ここまで傲慢な態度は見せていなかったが、これがルリアの公爵令嬢としての態度なのだろうと思った。
「エルレイ、また後でね」
「あ、うん…」
ルリアとリリーは、少し戸惑っている俺を置いて、二人で宮殿の中へと入って行ってしまった。
「エルレイ様、私がご案内させて頂きます」
「お、お願いします」
俺もメイドの案内で、宮殿の中に入って行く…。
「凄い…」
玄関の中は吹き抜けになっていて、天井から下がっているシャンデリアは豪奢でキラキラと輝いていた。
壁に掛けられた絵画や、置かれている調度品装飾品のどれ一つとっても、うちには無い高価な品物ばかりだ。
何よりふかふかの絨毯は、俺がそのまま土足で歩いて良い物か迷ってしまうものだ…。
こんな豪奢な建物や美術品を見た事が無い俺では、凄いとしか表現のしようがない…。
「エルレイ様、こちらでございます」
「は、はい」
立ち止まって見惚れていた俺は、メイドの冷静な声で現実に引き戻された。
きっと、田舎かから出て来た男爵家の子供が、珍しそうに見上げていたんだろうと思われてるんだろうな…。
実際その通りだから、メイドの事を怒ったりはしないが、少し恥ずかしく思いをしたので、今後は見惚れないように注意しながらメイドの後を着いて行く事にした。
案内された部屋は、昨夜泊まった宿屋の部屋より豪華で、俺は奥にある寝室の所まで連れて行かれた。
メイドはクローゼットを開き、中から数着服を取り出して俺に見せてくれた。
「エルレイ様、どのお召し物に致しますか?」
「良く分からないから、君に任せるよ」
「畏まりました。ではこちらのお召し物にさせて頂きます」
メイドは、数着あった服の中から、よりにもよって赤色の服を選んで来た…。
なぜ俺の服が用意されているのかはこの際置いとくとして、その色は無いだろう…。
しかし、メイドに任せた手前嫌とは言えず、俺は赤い服に着替えさせられる事となってしまった…。
「よくお似合いです!」
「あ、ありがとう…」
兄さん達の結婚式で着た服より高そうな赤い服に身を包んだ俺は、鏡の中で苦笑いをしていた…。
メイドは、非常に満足そうな表情をしながら、今は俺の髪を整えてくれている。
メイドが選んでくれて着せてくれた服だから、ラノフェリア公爵が派手だと怒ったりする事は無いと思いたい…。
髪もビシッと決まり、メイドの案内で部屋から出て、別の部屋へと連れて来られた。
恐らく、この部屋でラノフェリア公爵と面談するのだろう。
俺は大きなソファーへと座らされ、メイドが紅茶を用意してくれた。
子供の俺では、ソファーの背もたれまで届かないんだよな…。
深く座ってしまうと、対面に座る人に足の裏を見せてしまう事になる。
そんな失礼な事は出来ないので、手前にちょこんと腰掛ける感じだな…。
紅茶を飲もうと手を伸ばした所で、扉の開く音が聞こえた。
俺は慌ててソファーから立ち上がり、扉の方へと振り向いた。
「エルレイ、中々似合っているわよ…」
部屋の中に入って来たのはルリアとリリーで、ルリアは俺の服装を見て笑いを我慢しているみたいだ…。
「ありがとう。ルリアも青いドレスが良く似合っていて、いつもと違って落ち着いた感じがするよ」
「その言い方だと、私がいつも落ち着いて無いみたいじゃない!」
「あっ、今のは言い方が悪かった、ごめん…」
少し嫌味な感じになってしまったので、素直に謝った。
「ふんっ!」
ルリアは少し怒った感じになってしまい、俺の隣にきて勢い良くソファーに座った。
「ルリア、せっかく綺麗にまとまった髪が台無しじゃないか…。
リリー、すまないが、ルリアの髪を手直ししてやってくれないか?」
「畏まりました」
「ルリア、ドレスも髪型も、良く似合っていて可愛いよ」
「お世辞は結構よ!」
お世辞では無かったのだが、最初の余計な一言で怒らせてしまい、暫くは機嫌を直して貰えないことは理解できた。
しかし、これからラノフェリア公爵と会談するのに、ルリアの機嫌が良くないのは、俺にとって致命的では無いだろうか…。
今更後悔してもルリアの機嫌が直るわけではない…。
ラノフェリア公爵に怒られる事を、覚悟しておいた方が良さそうだな。
リリーがルリアの髪を整えた頃、ラノフェリア公爵が部屋に入って来た。
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