第十四話 エルレイの魔法授業 その三

リリーはあの後すぐに目を覚まし、体にも特に異常は見られなかったみたいで、ルリアから俺が殴られる事は無かった。

単なる魔力切れで倒れただけなのだが、問題は俺が魔力を渡して無理やり魔法を使わせた事による物だったから、本当に異常がなくて良かったと安堵した。

リリーに万が一何かあったのなら、俺はルリアに殺されていたのだろう。

いいや、俺自身としても責任を感じ、自ら罰を受け入れただろう。

そして翌日には、俺が魔力を与え無くとも、リリーは初級魔法を使う事が出来る様になった。

リリーは魔力切れで倒れる事は無かったが、二回目を唱えるだけの魔力は無かったみたいだ。

魔力は急激に増える物では無いからな、焦らず増やして行ければと思う。


一方ルリアはと言うと、あっという間に使える魔法全てを無詠唱で行えるようになっていた。

天才と言うのは、ルリアみたいな人を指す言葉なのだろう…。

俺が教えなくとも、ルリアは一流の魔法使いに成ったに違いない。

だからと言って、これ以上ルリアに教えないという事にはならない。

しっかりと教え込まないと、ラノフェリア公爵家秘蔵の魔法書を読ませて貰えないからな。

ルリアには、次の段階に進んで貰おうと思う。


「ルリアは、無詠唱が問題無く出来る様になったみたいだし、次の段階を教えようと思う」

「次の段階って何よ?呪文を唱えなくなるだけじゃないの?」

ルリアは不思議そうな表情でに首を傾げていた。

ちょっとその仕草が珍しくて、可愛いと思ってしまったのは内緒だ…。

「魔法の威力の増大と圧縮なんだけれど、説明するより先に見て貰おうと思う」

俺は、ルリアが得意な火の玉を目の前に作り出した。

「この状態から、普通なら的に向けて飛ばすのだけれど、変化を付けるから見ていて」

俺は作り出した火の玉を、大きくしたり小さくしたりして見せた。

「そんなことも出来るのね。私もやって見ていいかしら?」

「うん、危険だから、俺も傍に居て見守っている」

「分かったわ」

ルリアは俺と同じように火の玉を作り出し、大きさを変えようと必死に努力していたが上手く行かず、俺に文句を言って来た。

「エルレイ、もっと詳しく説明しなさい!」

ルリアは、見ただけで出来るんじゃないか?と思ってやらせて見たのだが、やはり無理があった様だ。

「大きくする方は簡単だから、そっちからやって見よう。

作り出した火の玉を、頭の中で大きくするようなイメージを浮かべながら、火の玉に魔力を注いでいくだけだ」

「やって見るわ」

ルリアは眉間にしわを寄せながら、作り出した火の玉に魔力を注ぎ込んで行き、直径一メートルほどの火の玉を作り出した。

「こんなものね!」

「うん、上出来だ!」

ルリアは自慢げに俺を見て来た。

明らかに大きくし過ぎだが、俺が作った火の玉より大きくしたかったんだろうと言う意図は推察できる。

負けず嫌いのルリアらしいが、この火の玉を撃ち出せば大爆発を起こしそうな気がする…。

危険なので、ルリアに作り出した火の玉を上空に撃ち出して貰い、俺がルリアの火の玉に魔力を当てて霧散させた。

ルリアは、自分の火の玉が消された事に不満気な表情を見せていたが、あのまま上空で爆発させたら、巨大な爆発音で村人が驚くのは間違いないからな…。


「次は小さくする方法だけれど、これはルリアが苦手な無属性の障壁魔法を使う」

「そうなのね…」

ルリアは、苦手な障壁魔法だと聞き、表情を歪めていた。

障壁魔法は、魔力その物で自分の体を中心として丸く包み込み、衝撃から守る魔法だ。

無属性魔法は、魔法使いなら誰にでも使える魔法だけれど、ルリアは苦手としていた。

何故だか分からないが、ルリアが障壁魔法を使うと、綺麗な球体では無く少し歪な形になる。

形が悪いから、当然防御力も下がる結果となっている。

身を守る魔法だから、ルリアには頑張って練習して貰わなくてはならないな。

逆に得意なのは火属性魔法で、俺とルリアが同じ魔法を使った場合、ルリアの方が威力が高くなっている事が分かっている。

ルリアの魔力がこのまま順調に増えて行けば、火力と言う面では、俺はルリアに敵わなくなってしまうだろう…。

「火の玉を障壁魔法で包み込み、それをギュッと小さくして行けば完成だ」

「それって何か意味があるのかしら?」

ルリアはやりたく無いのか、俺が小さくした火の玉を見ながら文句を言って来た。

「では、この小さな火の玉を的に当てるからよく見ていて」

小さな火の玉を的に飛ばして、破裂させた!

バーン!

通常の火の玉より大きな爆発音を発しながら、的を木っ端みじんに吹き飛ばしていた。

「どうなっているの?」

ルリアは、信じられない物を見たかのような表情で驚いていた。

「火の玉を小さく閉じ込める事によって、爆発する威力が上がるんだよ」

「良く分からないけれど、試して見るわ…」

ルリアは悪戦苦闘しながら、何とか火の玉を障壁で包み込み、形は歪だが小さくする事には成功していた。

そして、実際に威力が上がった事に驚いていた。

俺の事を信じていなかったという事だが、結果的に信じて貰えたのだから良しとしよう。

今回はこの二つにして、残りは後日という事にしよう。


数日後、ルリアが、魔法の威力の増大と圧縮が完璧に出来る様になったので、別の事を教えて行く事にした。

「今日は、魔法の効果範囲を広げる方法を教えようと思う」

「まだあるのね?」

「うん、後は魔法の複数同時展開、発射した魔法の制御、異なる魔法の合成だな」

「先は長そうね…でも頑張るから、しっかり教えなさい!」

「もちろんだよ」

ここまで来たら、最後までルリアに叩きこもうと思う。

最初は、ラノフェリア公爵家秘蔵の魔法書の為だったが、今ではルリアの成長していく姿を見るのが楽しくてたまらなかった。

もちろん、秘蔵の魔法書にも興味はあるのは間違い無いんだがな。


教えているのはルリアだけでは無く、リリーにも教えているから、そちらの面倒も見なくてはならない。

リリーの魔力も、順調に増えて来ていて、今では中級魔法を使えるまでになっていた。

しかし、一つだけ問題があった。

リリーは、どういう理由でかは分からないが、水属性魔法以外を使う事が出来なかった。

ルリアの話によれば、ごく稀に、一つの属性しか使えない魔法使いがいると言うのだ。

たまたまそれが、リリーになったという事だが、悪い事ばかりでも無いらしい。

一つの属性しか使えない魔法使いは、その属性に特化しているという事で、他の人と同じ魔法を使っても数倍の威力の差が生まれるそうだ。

実際に、俺とリリーの魔法を比べて見たが、リリーの魔法は俺の三倍の威力があった。

メイドのリリーが、攻撃魔法を使う様な場面は訪れないと思うが、水属性魔法には回復魔法がある。

リリーとしては、回復魔法を使える事が非常に嬉しかったみたいで、とても喜んでくれている。

もちろん、回復魔法の効果も優れているので、リリーが傍に居てくれれば、怪我や病気になったとしてもすぐに回復して貰えるだろう。

しかし、当たり前の事だが、死んでしまっては回復魔法であったとしても生き返らせる事は出来ない。

死ぬような危険がある場所には行く様な事は無いと思うが、戦争が迫って来ていて、敵がこの地に侵攻して来ないとも限らない。

俺はこんな若さで死ぬために転生して来た訳では無いので、最善の注意を払って行きたいと思う…。

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