終 章

終 話 俺の正義

~ 2011年10月10日、月曜日 ~


 俺はFRC、藤宮の両親が所有する様々な音楽催し物を公開している建物の屋上でその場から見える東京の景色を眺めていた。

 今、俺が着手している調べごとは藤宮詩織が涼崎春香を殺害するときに入手した道具一式を渡した男を追って、大都会まで足を運んでいた。

 地元だった三戸の大学時代の友達を捕まえて、情報を集めまくった。

 社会人になってみんな随分経つ、だから、当時の事を覚えている連中は少なかった。しかし、それでも成果があって、医学部の旧友が漏らした言葉。

 大学内の厳重に管理されている研究試料保管庫から、用途不明のままになっている物品がいくつかあったらしく、どんな物だったのか、思い出してくれと頼み大学まで付き合ってくれて、紛失物品が判明した。

 それらは藤宮が犯行に使った物と、一致。

 持ち出した人物は三津ノ杜諒。

 聖稜高校時代は水泳で有名だった先輩だ。

 容姿も頭もいいけど自分の才能を鼻に掛ける奴で俺は嫌いだったけどな。

 そんな野郎がどうして、藤宮にそんなものを渡したのか、理由は分からない。だが、会って吐かせれば全部分かることさ。

 現在、医者である三津ノ杜。

 愁先生や内の家族に聞けば医師連盟会名簿から直ぐに分かっただろうけど、それはしなかった。

 今俺がしている行動を知られたくなかったからな。

「さてと、警察病院へといきますかね」

と言葉を漏らして、屋上から地上へ向かい。千代田区富士見に向かった。

 所定の場所に到着する。

 どれだけの日本人が知っているか分からないが、警察病院は一般の患者にも解放されているから、特別な手続きをしなければ入れないって事はない。

 受付で三津ノ杜がいるか、どうか確認を取った。

 非番でない事を知ると自分の身分と、適当な用件を告げて、面会承諾をお願いした。

 それから、三十分くらい待たされて、そいつが俺の前に遣ってきた。

 その医者、俺がどういった理由でこの場所に訪れたのか分かっていない三津ノ杜は自分が善人ですよって言う表情を前面に押し出した風な顔で俺に応対してきた。

「八神慎治さん、でよろしいですか?」

 その見せ掛けって分かっちまう、三津ノ杜の顔が俺の精神を苛々させてくれやがる。

 だが、今は己の感情を抑えた。

 更に学生時代、交流はまったくなかったから先輩なんて敬称を付けたくなかった、かといって呼び捨てもまずいだろう。

 そう感じた俺は、

「ええ、三津ノ杜さんとは高校、大学は一緒で一つ下の後輩でした。先輩と違って名声はないので知らない人は多かったと思いますが」

「そうでしたかね?高校の頃はそうだったでしょうけど、大学時代、君の名を知らない人の方が少なかったと思いますよ、色々な意味でね。で、僕に用って何なのでしょうか、忙しいんですよ、診察をしなければならない患者さんが無駄に多くてね」

 うぅ、なんだ?言い方が鼻に掛っていて、人を見下すように・・・。

 てめぇに診て貰うくらいなら死んだ方がましだと思いつつ、

「もう、七年も前のことで覚えていないかとも、思いますがっ!三津ノ杜さん、聖稜大学の管理物を無断借用しましたよね?」

「さて、何のことでしょう、僕には覚えがないですよ」

 一見動揺していないように思う受け答え、だが、俺にはどんなに小さな動きだろうと見逃してやる気はなかった。

「劇物と医療器具が持ち出された時に使われた入出用のID番号は不正な物だったらしいな。個人に与えられている物を通して、勝手に物を持っていけば疑われて当然だからよ」

「不正に使われたものなら、僕だと特定できないじゃないか。それに君が何を言っているのか僕には話しが見えないのですけどね」

「そうだったな、あれの方を先に教えてやるべきだった。これは失敬しました。あんたがっ!藤宮詩織に渡した物。それがいったい何に使われたか、三津ノ杜さんは知らないだろうけど、彼女はそれを使ったことを苦に自殺したんだよっ!」

「なんで、そんなヤバいもんを藤宮に、はい、それと渡しやがったんだっ!えぇえ、三津ノ杜さんよ。学校の所有物を勝手に持ち出したら、どんなお咎めを食らうか知らないアンタジャナイダロウ。いったい、藤宮はあんたとどんな取引をした?」

 宏之や貴斗の様に本気で凄んで相手を萎縮させるなんて真似は出来ない。

 でも、今はそれを精一杯表現にだして、三津ノ杜に迫った。

 彼の表情がさっきの平然としていた物とは変わりつつある。

「そんな、ばかな?藤宮が。彼女、アメリカに留学したんじゃなかったのか?」

「表向きの話しだ、それはな。だが、そんな事はどうでもいい。どうして、あんたは藤宮の願いをすんなり受け入れた?言い逃れはさせないぜ。ちゃんと目撃者は居るんだ。三津ノ杜さんが管理庫から藤宮が指定したものを持ち出したのを。嘘の証言じゃない。証拠だってちゃんとある」

「なっ、なら、そっ、その証拠を見せてみろよ。有りもしないことをでっち上げて、僕の地位を汚そうなんてして、君にどんな得があるのか知らないけど、僕は関係ない、名誉毀損で訴えても構わないんだよ」

 目撃証言は多数に有れど物証的な証拠は一つもない。

 不正IDはこの男の友人が作ったものだ。だが、関わりがないと返答されればそれまでだ。俺が今からするような方法は正当じゃない。だけど、別にこいつを逮捕したい訳じゃないし、裁判に掛けたい訳じゃないから形振り構う必要なし。

 証拠の捏造ってあれだよ。

「証拠はいくつも挙がっているぜ。藤宮に渡す前、注意深くやるべきだったな。医者の癖に素手で取り扱いか?棚に付着したケラチンの経年劣化をしらべれば、時間だって特定できるんだな、現代技術じゃ。三津ノ杜さんの指紋と照合させれば直ぐさ。あとはあんたも不運だったな、携帯の写メを取ろうとしていた奴が、間違って、自分じゃなくて、カメラ向こうを写しちまったって事。その先に居るのは三津ノ杜さん、あんただよ」

 俺は心で笑う。三津ノ杜は動揺が表面化してきたぞ。

「って、そんな昔のデータを今まで持っている奴なんていないから、写真に関しては嘘。初めに言ったことは本当だけどな」

「ぼっ、僕を強請ってどうしてよって言うんだっ!」

「強請る?ただ、本当のことが知りたいだけだ。さあ、答えろ、藤宮とどんな取引をした。ただ、それだけが知りたいんだ」

 三津ノ杜は下唇を噛み締め、悔しそうに俺から視線をずらして言う。

「ふっ、藤宮がそれを用意してくれたら・・・、やっ、やらせてくれるっていったから・・・」

 俺はその言いに耳を疑った?

 あの藤宮がそんな事を口にしたのか?

 貴斗以外の男に抱かれても涼崎を殺すための道具を手に入れたかったのか?

 それ程、彼女が憎かったのか、藤宮は。

 彼女の極度の依存を知っていたから、否定は出来ないけど、それでも、藤宮がそこまで思いつめるほどの事じゃない。

 俺に相談してくれれば、貴斗と涼崎春香の仲を裂くくらい、いくらでも知恵を振り絞ってやれたのに、そうしてくれなかったのが非常に残念に思えてしまう。

 三津ノ杜の方だって、確かに藤宮ほどの女の子が条件付で自分を好きにしていい、っていったら是が否にでも答えるだろう。

 俺だって、隼瀬や貴斗なんかと縁の無い男で、藤宮の内面を知らない男だったら、彼女に憧れ、抱きたいと願ったかもしれない。だけど、実際、足がつくと後処理が難しく下手をすると警察の厄介になるかもしれない物品と交換してまで、藤宮の一回の願いのために本当に実行するだろうか?とても、そうは思えない。

 ここからはあくまでも俺の推測で、九十九%くらい外れているとしての事だぞ。

 例えば、三津ノ杜は藤宮がそういった頼み事を彼にしてくるのを既に知っていた。

 但し、どんな交換条件を持ち掛けてくるのかまでは分からない。

 彼には彼女の呉れる条件よりもさらに高位の取引があった。

 なぜ、そう思うのかって?

 こんないかにも小心者風に見える男がProject ADAMって言う今の所まだ、その全容がはっきりと見えていない壮大な計画と関係しているとはとても思えない。

 なら、裏で糸を引いている存在がいるのではと勘ぐっているんだよ。

「本当にそれだけか?誰かに命令されたんとちゃうのっ!」

「どっ、どうして、それをっ!!」

 出任せで、吐いた言葉で大物が釣れたようだな、俺、運がいい。

「正直に答えろっ!誰なんだ、そいつはっ!コタエネェなら、それでも、かまわねぇけど、三津ノ杜さんよ、あんたの将来が不安になるだけだぜ、フン」

 俺のとった態度に怯えたのか、その男は口を割ってくれた。

「わかった、わかったよ。答えるからさ、君の知っていること、調べたことを内密にしてくれ。僕は、僕の名誉を守りたいんだ」

 この三津ノ杜が関わっているのは藤宮に大学の管理物を持ち出して渡したという事で、在学中だったら、かなり厳しい罰が在っただろうけど、卒業した今となっては何の効力も無いのに、それを知らないのかまるで藁にもすがる形相で、言い寄ってくる。そして、男は語り始めた。

 当時、この先輩の両親は歯科整形医をやっていて、息子はそのあとを継ぐために医者の道を進んでいた。だけど、ちょうどその頃は歯科医の供給高の所為で仕事溢れる者達も少なくなかった時代、必死にその業界で生き残ろうとしていた三津ノ杜の両親。

 腕は勿論の事だけど歯医者さんって所は見た目の清潔さって言うのが重要でぼろい所は印象を悪く捉えられがちで、診療所の内装一新は最長でも五年くらいの周期で行っていないと固定客は不安を感じるらしい。だから、無理をしてでも、景気の悪かったあの頃、時期的に補修を行わなければならなかった。

 全額自腹で出せればよかったんだろうけど、そうは行かず、全うな金融業から少しばかり融資を受けたそうだ。

 だが、しかし、そこには大きな罠が仕掛けられていたとは三津ノ杜の両親も考えていなかったのだろう。

 借用手続きは正規の場所で行われていたのだが、担当が偽者だったのだ。

 金を借りることは出来ても、契約した相手が病み・・・、闇金だったんだとよ。

 更に、この時、三津ノ杜家には更なる間の手が迫っていた。

 被害がまったく収まっていない成りすまし詐欺。

 彼の祖母が、それに引っかかり、おおよそ五千万近くの金が騙し取られたようだ。

 家計は火を浴びるが如く、焼けていくご様子だったようだな。

 藤宮に危険物を渡しやがった憎い野郎だが、それを聞いたら、眉間に皺を寄せて、同情してしまっていた。

 更に彼の話は続き、そんな状況の三津ノ杜の長男、直接に電話があった。

『ここ、数日の内に、貴方の大学に所属している藤宮詩織という学生が、貴方にあるものを用意してくださいと、言い寄って来るでしょう。その要求を答えることは校則違反になりますが、見事成し遂げたのなら、貴方のお家で抱えています負債を私どもが、全て肩代わりします。彼女の提示するものが、貴方の両親の経営する所からも手に入るかも、しれません。ですが、学内の保管庫から持ち出すことが絶対条件です』

 相手は名前も告げずに、一方的に話しを進めた後、回線を切ってしまったようだ。

 三津ノ杜諒の方から、掛けなおそうにも非通知だったので連絡先が分からない。

 その電話があった約一週間後に、藤宮が本当に彼の前に姿を見せた時には相当動揺したそうだ。だが、彼女の登場は謎の人物の言葉を真に受けてしまうくらいに追い詰められていた。だから、藤宮の要求に答えたのだという。

 更に話してくれなくともよかった、藤宮を陵辱したことまで語ってくれやがった。下種な笑みを零しながら。

 最後に2004年12月25日の土曜日に、三津ノ杜家に現金で負債額の一・二倍と更に成りすまし詐欺の被害にあった金額の同等の分が段ボールに詰められて宅配業者から送られてきたと言う。

 それに付け加え、闇金側が警察の摘発に遭い、送検されていた為に借金を返す必要がなくなっていた。

 そんな訳で、送金されたお金は丸々、三津ノ杜家に納まったんだとよ。

 両親も、かなり困惑していたらしいが、背に腹は変えられない、と言うやつでその金を罪悪感に似たような物に苛ませられつつも、使用したとの事。

「おいっ、その送り主はっ住所はっ!思い出せ」

 俺は三津ノ杜の白衣を脅す様な感じに握りながら、そう言っていた。

「まままままあっまあぁ、まって、まって、今思い出すからさ・・・、・・・・、・・・、ええぇ、っとえええぇっと・・・、やま、ちがう・・・、かわ、ちがうああ、ああうんと・・・、そっ、そうだ。クラママイト、そうだよ、鞍馬昇斗って名前で、住所は栃木県の烏山市・・・、番地は」

「それだけ、分かれば十分だ」

 栃木那須烏山の鞍馬昇斗、追い詰めてやるからな首を洗って待って居ろ、と心の中で凄み、ある意味被害者なのかもしれない三津ノ杜諒を睨む。

「うわああぁぁあぁああああっ!」

 叫びながら、たいした威力の無い拳を三津ノ杜諒に浴びせていた。

 どうしてかて?貴斗のヤツ以外が藤宮を抱いたからだ。

 それが無性に許せなかった。

 くそっ、また、俺ははずれを引かされた。

 三津ノ杜諒は嘘を言っていなかった。しかし、神無月先輩の持つ情報網で鞍馬昇斗なる人物を探ってもらった。

 同姓同名は数人いたが栃木県那須烏山市に在住する人物は一人。

 泉渓寺の住職だった・・・、のは1999年まで。

 以降は失踪扱いになっているとの事。またか・・・、また失踪者の名を語っているのか・・・。

 くそぉーーーーーっ!次は何を調べればいい?

 どこを攻めれば俺が求める策某する者に近づけるのだっ!

 貴斗の交通事故は三友って所で藤原家の取引先の貿易商の令嬢が乗っていた車が撥ねたと分かっているし、

 あの視界の悪い豪雨だから、計画的じゃない不注意の事故だろうし、涼崎春香の方は麻薬がらみの運搬がどうとかで、

 無関係で、彼女が怪我をしてからの状況を利用したんだと思う。

 うぅうん、あれ?そういえば宏之の死には麻薬が絡んでいたからもしかすると、若しかしてなんだけど。

 俺の手じゃ終えそうに無い、だから、神無月先輩に任せてしまえ。

 なら、俺に調べられることは、その前の不幸といえば?

 貴斗の両親のあれか・・・。

 うっし、こうなったらアメリカでも、どこにでも飛んで一縷の望みでも縋るしかない。

 そして、俺は空の向こうに旅立つ・・・。


 2011年11月4日、金曜日 ~

「って、おいっ、お前ら、これは遊びじゃないんだ」

 隣に座っていて、いつ離陸するのか楽しみに待っている風な結城兄妹と涼崎翠ちゃんを見てそう言っていた。だが、俺の言葉など意味を成していないご様子だ。

 少しばかり苦悩した俺は眉間に寄せた皺に右手中指を当てて、揉んでいた。どうして、この三人が居るのかって?それは俺の失態だ。

 一週間ほど前に神無月先輩と情報交換しているときの事だったんだけどな。

 アメリカに情報収集に行くと言うことを伝えたんだけど、その話しを結城将臣君に聞かれてしまって・・・。

 一緒に行くと言い出したんだ。

 無論、断固拒否する俺だったが、彼も押しの強い後輩で、話しが平行線になってしまう。

 神無月先輩に説得応援を頼もうとしたけど、先輩は他に仕事があるということで、俺達を爽やかな笑みで残し去っていってしまった。

 お互いが引かないまま、結構な時間が経ってしまうと、今度は彼の妹、弥生ちゃんとその親友の翠ちゃんまでがお目見えにななってくれて、かなり俺の立場が不利に追い込まれていった。

 何とか俺が勝利するために頭をひねり、一つの条件を付けて、それが達成できたら連れて行っても良いと言う事にした。

 その条件とは彼、彼女らの親から俺の出立前までにアダム計画について、聞きだす事。

 いまだ、その情報が俺に知らされていないから、三人の親はかなり頑なになって、話さないで居るのだろうと思っての考えだった。

 だぁ~~~が、しかし・・・、俺の条件は蜂蜜のように、ねっとり甘かった。

 将臣君が俺に用事があって現れたのだと考えれば、何らかの情報を持って来たのだと考えるべきだった。

 なんか、最近以前のように広い視野で物事を見られなくなったような気がする・・・。

 記憶喪失になる前だったら、簡単に予測できた事だろうに・・・。

 結城兄妹も、翠ちゃんもやっと親を説得して、Project ADAMにどの様に関係していたのか聞き出せたようだ。

 え?何、どんな事を教えてもらったのかだと?

 なら、直接、こいつらに聞くことだな?

 え、意味が分からないって?

 頼むから、知りたかったら、こいつらが個々に登場する編を見ろって事。

 まあ、そういう訳で、俺と一緒にアメリカに行くことになったのさ。

 パスポートとかの容易に関しては将臣君は海外にボクシングでなんども遠征していたから既に所持していて、弥生ちゃんと、翠ちゃんに関しては、車の免許を持っていないから、学生証以外の身分証の為に作っていたそうだよ。

「慎治さん、楽しく行きましょうよ。それに慎治さん、一人だけでアメリカに行くなんて無謀ですよ。俺達、誰かに狙われてるんでしょう?」

「だから、連れて行きたくねぇだよ。向こうは、拳銃大国だからな」

「大丈夫っすよ。弾が飛んできても俺の鋼のこの拳で打ち落として見せますから」

「将臣、馬鹿なこと言ってんじゃないの。そんなの無理に決まってるでしょう?一度、頭打ち抜かれて、銃の怖さ味わったほうが身のためだよ」

「そうだよ、お兄ちゃん、そんな馬鹿なこと出来るわけないじゃない」

「なんで、こんな冗談も分からないかねぇ、君たちは・・・って、おい、翠、頭撃たれたら死んじまうだろうが」

 三人のやり取りに、溜息をしつつも、腕時計を眺め、出立時刻の秒読みを開始していた。

 定刻どおりに、旅客機は滑走路を走り出し、その巨体を徐々に空中へと浮き上がらせていった。

「八神さん、怖くないんですか?」

「うん?ああ、飛行機事故にあったから、心配してくれているんだな、翠ちゃん?大丈夫さ、普段はすっとぼけているが、家の母さんはどうやら、本当に精神科医として、名医みたいだ。ご覧の通り、その母親の治療で、なんともないよ」

 俺の答えを聞くと、彼女は安堵の表情を俺に呉れてから、弥生ちゃんとおしゃべりを始めていた。

 将臣君は音楽を聴きながら、読書に入っていた。さてと、俺は何をするかな・・・。

 何も思いつかなかったので飯の時間まで寝ちまう事にしよう・・・、しかし、それは間違いだったよ・・・、はぁ、久しぶりに思い出したくないことを、また夢に見ちまった。

 叫びはしなかったけど、相当魘されていた様で、弥生ちゃん達が何度も、俺の目を覚まさせようと、手を尽くしてくれたみたいだが、夢を見終わるまで、起きる事が出来なかったみたいだ。

 真っ青の顔のまま、俺は口に手を宛がえ、Lavatory(洗面所)へと駆け込んでいた。

 俺は胃にあるもの全部を吐き出しながら、

『くそっ、飛行機が飛ぶことに恐怖なんか感じなかったけど、こんな落ちかよ』と心の中で苦笑していた。

「八神さん、本当に大丈夫ですか?これ、さっき添乗員さんに用意もらったお絞りとお水です」

 気を利かせてくれた弥生ちゃんが、そう言いながら、俺に言葉に出した物と、更に胸焼けを軽減させてくれるトローチを呉れた。

「飛んだ、失態を見せちまったな、悪い。んで、ありがとう、弥生ちゃん」

 俺の言葉を聴いてにっこりと笑う彼女。

 そんな彼女の笑い方が・・・、藤宮にそっくりで・・・、故人の事を思い切なさを感じてしまった。

 表情に出てしまいそうにも成った。だから、そっぽを向いてから、水を飲み干し、トローチを口の中に放り込むと、お絞りを目の上に乗せて、天井を向いていた。

 二回の機内での食事、大凡、十一時間の飛行にて、USA LAXへ午前十一時一〇分頃に到着していた。

 入管管理局の手続きを終えて、空港出口へと四人で向かった。

こういう時に英語が話せるとまごまごしないですむので非常に楽だった。

 あの男に感謝しないとな・・・。

 到着した旅客待合の広場に続く、緩やかな坂を上ってゆくと、徐々に待ち人はまだかと探している地元の連中や、旅行会社の担当が目に入ってきた。

 そして、俺も探す。

 俺や貴斗にとっても親友だったあの男を。

 彼奴の方が俺よりも先に、俺達を見つけてくれたようで、大手を振って、駆け寄ってきてはFriendly Americanな態度のあの男だった。

「おぉ~~、ヤガぁ~ミ、おひさしぶりでぇ~~~すぅ」

 親友、クライフ・フォードは日本語で、しゃべりながら、俺に抱きついて、回した腕の掌で俺の背中をばんばんと力強く叩いてくれやがった。

「Nice to see you have a long time, Clife」

「ノン、ノン。ヤガミ、別に無理して米語はなさなくていいです」

「When in Roma, do as the Romans do, Right?(郷に入れば郷に従えだろう?)」

「たしかに、そうですけど・・・」

「慎治さん、なに一人で英語しゃべっているんですか。その人が日本語で言ってくれているんすから、見栄を張らなくてもいいとおもうぜ」

「そうです、それよりも紹介してくださいよ、私たちを」

「みえじゃねぇ~~~っつうの・・・、て事でクライフ、自己紹介だとよ」

「はじめまして、クライフ・フォードと申します。ヤガミとは大学来のフレンドです」

 クライフの後に続くように、他三人が自己紹介を始めた。

 将臣君が名前を告げようとした時にクライフは拳を手に当て、何かを思い出したように発言し、それは彼の事をTVで見たって話しだ。

「ですが、本当にあのニュースを見たときはびっくりしましたよ。何度も、貴方に連絡をしたのに返事は戻ってきませんし、バット、こうして、ヤガミにあて、今は安心しました」

「心配掛けさせたな、クライフ。しかし、今回は面倒なことをお願いして、悪かった」

「いえいえ、ミスター・フジワラや藤宮レディーに関する事だと聞いて、断るわけが無いでしょう、ヤガミ」

 こいつは既に貴斗達が亡くなっている事を知っている。

 四年前に日本へ仕事で来た時にアイツに会いたいと言われたその時に隠さないで教えていたんだ。

 クライフがそれを知ったとき、俺同様に相当悲しんでくれていたのを思い出す。

「おおしかし、なんとプリティーアンドキュート、お名前も愛らしい、ヤヨォ~イ。素晴らしい・・・。どうですか、この私とお付き合いし見てはいかがでしょうか」

「女の子の名前を軽々しく、口にしないでください」

「これは失敬。日本人の女性の方々はどうして、その様なことを気にするのでしょうか・・・、レディー、ユウゥキ」

「いやです。お断りさせていただきます」

「つれないですねぇ」

 弥生ちゃんとクライフのやり取りに兄である結城将臣君は面白そうに眺めていた。

「クライフ、からかうなって」

「いいえぇ、私は本気ですよ、ヤガミ。ですが、嫌がる女性をむりやりどうこう、するのは紳士ではありませんので、今は諦めましょう・・・。ヤガミ、君の頼みのあの話は、明日にして、今日は観光を楽しんでください」

「そんなひまはねぇ~~~だっつぅ~~~の」と言い返すが、他三人は観光気分満々のようだった。

 何にも分からない土地で俺一人が動くのは無謀極まりない。

 俺は頭を掻きながら、嫌々そうに三人の意見を尊重してやる事にしたさ・・・、俺って大人だな、フゥッ。

「これだけは言っておくぞ、Las Vegasには絶対に行かないからな」

「ええぇぇええ、いきましょうよぉ、せっかくアメリカに着たんですから、カジノ、カジノッ~~~」

「弥生、ラスベガスのマジックショー見たかったのに」

「賭けは、男のロマンですよ、慎治さん。逃げるんですかっ!」

「ヤガミ、私思うのですが、ずっと貴方、色々なことで張り詰めていませんでした?人間、息抜きは必要ですよ・・・。レディー・ユウキ、貴女の為に私が、取って置きのマジックショーのチケットの特別席をご用意いたしましょう」

 絶対、こいつら、目的忘れているっつぅ~~~か、マジで協力してくれているのか?

 空港の外に出ると、出迎えのため何台も止まっているTaxiや送迎車の中にやけに目立つ車両が止まっていた。

 クライフは何の躊躇いも無く、その方向へ俺達を導いていた。

 LincolnのLimousineで色は最近の流行なのか、Pearl-silver、真珠銀色のその車に案内された。

 車の前に立っていた使用人らしい男が車のdoorを開け、中に入るように促していた。

 弥生ちゃんも、翠ちゃんも、表情豊かに驚き喜んでいやがるりますよ、まったくな。

 俺は驚きもしないで、乗り込み、最後にクライフが続いた。

 驚かない理由はこの男が今の米国のBig threeと呼ばれる車会社、Fordの首脳陣の一人だと知っているからなんだな。

 それにこの男は彼のリーマンショックの時にFord社を盛り返しさせた立役者。

 其の当時、本当に会社を立て直したいなら、個人の保身やプライドなど切り捨て、自動車最先端の技術を得る為に日本の自動車各社に頭を下げるべきだと豪語した男だった。

 俺達が乗り込んだガソリン車じゃないLincolnはAnaheim方面へと向かっていた。

 女の子二人がDisneylandに行きたいとか言い出すから、クライフが俺や将臣君の意見も聞かずに、運転手にそこへ向かう様に命令していた。

 俺はネズミを捕まえに態々、アメリカに来た訳じゃない。

「はぁ・・・」と開けた窓の外に溜息をついていた。

 Disneylandに到着すると、日本で言うSea別区画のようなDisney Adventureって名前で呼ばれている方をクライフに紹介され、そこを周ることになった。

 女の子二人は本心から楽しんでいるように見える。

 将臣君のほうは合わせているのか、それとも実際にそうなのか知らないけど、顔と行動は率先しているようだった。

 だけど、俺の方は・・・学生時代だったらTheme-parkとかに友達と一緒に来れば、一緒に楽しめたはずなのに、今の俺はどうも、その雰囲気に馴染めない様だった。

「なに、八神さん、そんな所にぼぉ~~~っと突っ立っているんですか?みんなで、あれに乗りましょうよ」

「あわわわわわぁっ、翠ちゃん、急に手を引っ張るなよ」

 そのままの勢いで、将臣君たちが並んでいる場所まで連行された。

「いいのか、将臣君、君という彼氏が居る前で、こんなに簡単に男の手なんか握らせたりして」

「別にいっすよ、相手は慎治さんだし。それに、翠は昔っからこんなんだから、今更」

「みぃ~~~ちゃんたら、ぜんぜん成長していませんからねぇ」

 結城妹は胸の辺りをさして、精神が成長していないと示しているんだろう。

「なにさ、弥生ちゃんだって、いまだに、私の事、みぃ~~~ちゃんなんて呼んで」

「はい、はい、わかったよ。俺も乗るからけんかすんなつぅ~~~の」

 それから、閉園まで周れる所全部、周らされた。

 遅い夕食を有名らしいRestaurant Cha-Yaとか言う場所で取ってから、その近くのホテルへとクライフに案内された。

 年下三人ははしゃぎ疲れたのか、用意された部屋のシャワーを浴びると直ぐに眠りについてしまったようだ。

 俺はそんな三人を見下ろしながら、小さく鼻で溜息をしていた。だが、それはやれやれとかいう気分じゃなく、嬉しい気持ちのほうでだ。

 この三人を見ていると心が前向きになってくれるような気がする。

 俺はそんな三人へ小さく笑ってから、部屋を出ていた。

「どうした、クライフまだ、帰っていなかったのか?」

「私が帰る?馬鹿を言わないでください、ヤガミ。私が、帰るといったら、ステーツオブミシガンですよ。また、貴方と一緒に行動しなければいけませんのに戻れるわけ無いですよ」

「え、なに、こっちに仮住まいとか、そういった場所は無いのか?」

「あれば、ホテルではなく、そちらに案内していますよ。ふぅむ、しかし、貴方の後輩の三人、今のヤガミにはとっても大事なお友達だと思いますよ。彼女達のおかげで、此方に到着したときよりも、だいぶ、昔の貴方に戻ったような気がします」

「ミスター・フジワラやフジミヤ・レディーがお亡くなりしたと聞いた時に、私もとても心が痛かったです。ですが、ヤガミは私などよりも酷かったのでしょう?今まで、何かを自分だけでしてこようとしたのでしょう?無理をしないでください。貴方は沢山友達が居ます、もちろん、私もですが。一人では出来なくとも、フレンズで手を取り合えば、何とか成るでしょう。だから、もう、張り詰めないでください・・・。貴方に頼られるのは悪くない」

「Clife, your Japanese speaking is extremely well, Yes I can say really you are progressive man!(クライフ、お前本当に日本語上手だな、マジですげぇ~上達だよ)」

「Japanese, it’s truly necessary for my work especially negotiating to Japanese companies.(日本語は私の仕事上必要ですからね。特に日本の企業と交渉するときは)And your speaking well too except pronunciations.(同様にヤガミも上手ですよ、発音を除けばですがね)。Well, I said you, you don’t have to talk with me in English.(ああ、それと私言いましたよね、米語で話す必要ありませんと)」

「Okey, ok・・・、わかったよ、日本語に戻す。お前も強情なヤツだな・・・」

 俺の皮肉な言い方に健やかに笑うクライフだった。

「明日は、San Diegoに向かいます。そこに貴方が探して欲しいと依頼しました施設があります。九時にはここをでますのでもう私たちも寝ましょう・・・」

 翌日、五人でSan Diegoへ車で移動していた。

 到着したのは午後十一時少し前。

 この町には国際空港があり、なぜ、昨日の内に、此方へと移動しなかったのかとクライフに聞くと、『乗り換え、面倒でしょう』だとよ。

 こっちは時間に余裕がないって言うのに・・・、そういう事か・・・、クライフにまで気を遣わせちまった様だ。

 昔の俺はこんなにせかせかな性格していなかったよな、多分。

 もっと、精神にゆとりを持たなくちゃ、焦りは禁物。

「到着しましたよ。ここです・・・」

 俺は言われて、既に開けられている扉の外へと出た。

 対岸には米国海兵の寄宿舎と、San Diego国際空港が見えるとクライフは北の方を指で示しながら教えてくれた。

「ここから、先は私有地です。所有者から許可をもらっています、中に入りましょう」

 現在は閉鎖されている私設動力研究所。

 貴斗の両親が亡くなった場所。

 その時に施設の研究員も何人か、この場所で射殺されたそうだ。

 遺体の処理は当時に済まされているが、この場所の取り壊しは行われていなくて、その頃の惨状のままだそうだ。

「よく、所有者の許可が下りたな、クライフ。流石、Big three(三巨頭)Ford Groupの若き首脳」

「冗談はよしてください、ヤガミ。この共同研究施設の出資者の一人は、貴方も知っていなくては可笑しい人でしたし、別の方は、別の方で貴方が面会したいから、探してくれといわれた人物です」

 崩れた研究所内の道路を歩きながら、遠方の親友は俺にそう語りかけてくれていた。

 周りの建物を見ると酷く崩れていた。

 年月による風化なのか、それとも、実際に十年前に壊されたものなのか、俺には分からないけどな。

 荒れ放題の道路のアスファルトがまだしっかりとしている部分に大きなしみがあった。

 色がかなり褪せていて、それが血であるか、機械油なのか遠目では分からないけど、銃撃戦が有ったというなら、人の血かもしれない・・・。

 昔はちゃんとした管理された出入り口だった場所から、中に入って大凡、十五分あるくと、周りの中で一番大きな建物前に到着していた。

「さてと、この建物の中に何か手がかりがあるといいだがな・・・。時間が惜しい、ここは手分けして探そう。俺達以外誰も居ないから、狙われるということは無いだろうけど、妹さんと、翠ちゃんの三人で行動してくれ。俺とクライフは単独でいこう・・・、そうだな、時間は三時間、またこの場所に集合」

「危険を察知したら、退避する事。離れているときの連絡手段は携帯電話だと直ぐに繋がらないから、このクライフが用意してくれていRadio-phoneをつかおう。遊びじゃなんだからな、ちゃんとやってくれよ。それじゃ、かいさんっ」

 俺は現時刻を時計の針を見ながら確認して、みんなにそう告げた。

 俺は誰よりも先に動き出し、玄関左の通路側にある部屋から探索を始めた。

 どの部屋も荒れ放題。

 いろんな書類が散らばっていたざっと確認しても、文字が摺れていて、はっきりとは読めなかったし、専門用語が使われているようだったから断片的な分では俺に到底理解できなかった。

 どこかにADAMに関する計画書見たいのが無いのかねぇ・・・。

 それから、順繰りに建物内を見回り、藤原龍貴と美鈴って貴斗の両親の名前がぶら下げてある部屋を探していた。

 そこが見つかれば、手がかりが得られるだろうと、安易な考えだがよ。

「はぁ、やっぱ、研究所ってでけぇなぁ・・・」

 独り言を呟きつつも、必死に手がかりを探すが、一向に見つからん。もうとっくの昔に、俺が捕まえようとしている相手が証拠隠滅を図っちまったのだろうか。

「どうせ、この部屋にもなんもないだろうぜ・・・」

 話しかける相手が隣に居るわけじゃないがそう声に出して、扉が開きっぱなしの部屋に入って中を眺める。

 机の上に乱雑に重ねられた書物。

 書棚にはぎっしりと専門書やなんやらが、分類されて収まっていた。

 他の部屋に比べると非常に保存状態がよかった。

 俺はもしやと思って、この部屋を徹底的に探すことに決めた。

 それから必死に探したのに、みんなとの待ち合わせまで、あと10分も無い時間になっていた。

「はぁ、これだけ時間をかけて、探したのに何も無いってのは、どういうこと?そもそも、この場所にそんなものあるのか?」

 手掛かりが見つからないからといって苛立っていた訳じゃないが、持っていた本を机の上に投げ捨てちまった。

 その本の角が、回線線の切れているが通電はされている電話に当たって、本体が床に落ちてしまった。

「やっちまった。いくら、荒れ放題だからって、俺も荒らして良いって訳じゃない」

 そう自分に誤魔化しの言葉を投げながら、落ちてしまった電話機を掴み上げ、元の場所に戻そうとした。

 何も気にせずに掴んだから、電話のどこかのButtonを押していたようだ。

『SOS, Lui visse. Lui visita una volta o l'altra questo luogo e si rivarra per noi. Io annullato un piano prima che lui venne a qui ed ebbe trasporta meglio di nuovo un studio agli altri luoghi.(SOS、彼は生きていた。彼はここの場所を知れば復讐に来るだろう。だから、彼が来る前に計画を中止して、別の場所へ研究所を移した方がいいです。)』

 どうも、俺は留守録の再生を押していたようだ。でも、よく今まで、消えずに残っていたもんだ。

 どこの誰で、なんて言っているのかさっぱりだがな。クライフだったら分かるだろうか?

 もう一度、再生出来るから試してみたが、何にも聞こえなかった。よくButtonの配置を見てみるとPlayの隣にCheck&Delってのがあった。

どうも、俺はそれを押してしまったらしい。・・・、こうなったら、さっき聞いたことはすっぱりと忘れよう。

 ADAMとは関係ないことだろうと自分に苦笑しながら、言い聞かせていた。

 最後に、頭を壁に垂らし、落ち込みの溜息を吐いていた。

 時計を見て、もう時間が無いことを知ると、走って、出口に向かった。

 建物が広いから、やや時間を過ぎた頃、俺が最後に到着していた。

 息を整えてから、みんなに、収穫があったのかを確認すると、口々に『全然やまったく』という返事が戻ってきた。

「そういう、ヤガミ。貴方はどうでしたか?」

 隠してもしょうがないから、一通り、俺のことを言う。

「えぇぇぇぇっ、それがとっても重要な手がかりだったら、どうするんですか、八神さん」

「そうですよぉ、みぃ~~~ちゃんの言うとおりです。それはとんだ失態ですよ」

「過ぎちまったことはしょうがねぇだろう。つぎだ、次に行こうっ!」

「なんとなく、慎治さんらしい発言ですね、それ」

 将臣君の言葉に、クライフが嬉しそうに笑う。

「なにが、おかしいんだ、クライフっ!」

「いえいえ、何でもありません、フフフ。用事は済んだようですので、Las Vegasにでも参りましょう」

 クライフの言い出しに、弥生ちゃんと翠ちゃんは手を取り合って、嬉々な表情を作って、それを声にも出していた。

「クライフ、俺の目的、やっぱり、勘違いしてんじゃねぇのか?」

「No, no no、そんなことありません。先方とは、当初よりLas Vegasで面会することになっていましたので。言ったでしょう、ヤガミ。君には少し、心の休息がひつよではないのかと」

「気の回しすぎだ、クライフ」

「大学時代の貴方の面倒見のよさに比べたら私など・・・」

「ああ、わかった。もういいよ、昔の事を持ち出すな、恥ずかしい・・・」

 クライフの奴、準備が良いって言うのか、計画通り事を運ぶのが上手いって言うのか、俺たちはSan Diegoの空港からLas Vegasへと飛んだのだった。

 夕食を摂り終えた後、弥生ちゃんが見たいといっていたMagic showにクライフが予約を入れていたようだ。

 大喜びする、弥生ちゃんに表情を綻ばせるクライフ。

 本当は俺もDavid Copperfield(デヴィッド・カッパーフィールド)っていうMagicianのそれを見たかったけど、クライフに頼んで三人の後輩がそれを楽しんでいる隙に先方と面会して情報を聞き出したかった。

 やっぱり、彼、彼女らには深く関わって欲しくないって俺の親心?

「Nice to meet you Mr. Leopardi Oder hatte besser, ich rede in Deutsch?(始めましてレオパルディさん・・・、えっとドイツ語で話したほうが良いですか?)」

 何て、本当はドイツ語なんてちゃんと出来ないくせに意味の無い虚勢を張ってしまった。

「Huhha, Don’t worry. You don’t need to talk with German, ok?(ははは、心配ない。ドイツ語で会話をする必要なんどないさ)」

 先方、は気さくに笑いながらそう言ってくれた。George Leopardi(ゲオルグ・レオパルディ)の返答に心中で胸を撫で下ろす俺だった。

「ヤガミ、もし、分からない英単語や会話があったら聞いてくださいね」

「そのときは頼むよ、クライフ」

 親友の心遣いに感謝し、紳士に返事を口にし、ゲオルグのほうに向かって今一度、挨拶をちゃんとすると、Project ADAMのthink tankの一人だった彼に、その計画の詳細について教えて欲しいとお願いした。

「So, you are one of her children…The first, if project ADAM succeeded, field of medical science might have evolved drastically…That was the magnificent project. but…(そうか、君は彼女の子供の一人だったのか・・・、そうだな・・・、もしもアダム計画が成功していたなら医学会は飛躍的に発展していただろう。それほど、大きなプロジェクトだった。しかし・・・)」

 レオパルディ氏はそう切り出して、Project ADAMの全容を語り始めてくれた。

 医者じゃない俺だから、話の内容をちゃんと理解できなかったし、分からない所はちゃんとクライフにも翻訳してもらった。

 だが、その話を聞いているうちに人間クローンよりも、遥かに倫理からずれているんじゃないのかと思うほど、途方も無い計画のようだった。

 ちゃんと内容を理解しているのだろう、クライフの顔も相当渋かった。

 どんな内容か俺は語ってやれない。他の編を読む楽しみがなくなっちまうからな。

 狂っている、狂っているそんな計画に家の皇女母さんが参加していたなんて・・・、

 だよな、知られたくないよな、そんな非道な研究に手を貸していたなどと、息子の俺に知られたくなかっただろう。

 泰聖父さんを説得して、母さんの口を割らせようとお願いしたけど、即断で却下されたのはその内容について父さんも知っていたからに違いない。だが、その研究の本質をおれがちゃんと分かってあげられたのなら、非道だとは思わなかったんだろう。

 更に言うなら、その計画の産物でもう居ない俺の親友達が助けられていたことなど知る由もなかった。そして、最後にレオパルディ氏から、俺の求めていた一つの答えが語られようとした。

「It will be him if somebody had a deep grudge to this project...,His name is Taiyo Minamoto but,…….,but, He is already dead twenty years ago.(もしも、この計画に怨恨を持つものが居るとすれば、彼でしょう。ミナモト・タイヨウ・・・、しかし・・・、・・・、・・・、しかし、かれはもう二十年も前に亡くなっています)」

 よしっ、やっと黒幕に近づけそうだっ!・・・???えぇ?

「まっ、まじっすかぁぁーーーっ」と日本語になってしまった。

「Mr. Leopardi, it is really sure?(レオパルディさん、本当ですか?)」

 レオパルディ氏は頷いて俺の問いを肯定し、言葉を続けた。

「It will be the spell of the death person if the death of children of researchers of headquarters have reason.(もし、研究者首脳の子供達の死に理由があるとするなら、それは彼の呪いでしょうね・・・)」

 死者の呪いだと?いったい、そんな相手をどうしろって言うんだ・・・。

 そんな訳がない。そんな事は無いはず、そのミナモト・タイヨウという人物は今もどこかで生きていて虎視眈々と俺達の命を狙っているに違いないんだ。

 これからはミナモト・タイヨウって男について調べれば、必ず辿り着けるはずだ。

 それに、レオパルディ氏の話を聞いて、その男の標的は研究に携わっていた者達の子供だと、確信を持てただけでも、成果の一つといってもいい。

 それを利用すれば、あいてを誘き寄せる事だって出来るかもしれない。

「It’s my last question. May I ask you about your daughter?(最後の質問になるけど、もしよかったら貴方の娘について、聞いても良いですか?)」

 壮年紳士は懐中時計を取り出し、それに内蓋に収めている写真を眺めてから・・・。

「Yes…」

「I...,I had...,....,….,….,I had the friend who really resembled your daughter well. Her name is」

 俺は藤宮詩織の事をレオパルディ氏に聞こうと彼女の名前を挙げようとするよりも早く、彼の方が割って入り、

「Mrs. Fujimiya’s twins right?」

「Yes, yes!! Why do you know?(そうですけど、なぜ、知っているんですか)」

 そう尋ね返すと、氏は俺に彼の家族三人が写っているさっき眺めていた写真を見せてくれてから語り始めた。しかし、ゲオルグさんの奥さん・・・、むちゃくちゃ美人だし、貴斗に見せたもらった写真のシフォニーさんより、こっちの方があの時、屋上で藤宮がヴァイオリンを引いていたときの姿にすごく似ていた。

 はぁっ、隼瀬以外の女の子に気を取られてしまった・・・、隼瀬すまん。

 だが、変だよな、女の子なんだから、母親に似ると思うのに・・・で、真相はゲオルグさん本人から語られると・・・。

 ゲオルグさんの奥さんだったSerenadi(セレナーディ)さんはProject ADAMの核となる研究献体の一人だった。

 科学者じゃない俺にとって、ゲオルグさんの言っている事の多くは珍紛漢紛だったが、断片的に言えば、研究中に培養液に浸っていた献体全員のDNAが複合化してしまうという事態が発生したらしい。

 DNAの複合化って何?・・・、俺に聞かれても答えられん、だって、分からないんだもん・・・。

 ふぅ、ちょっとまて、今、クライフに聞くから・・・、・・・・、・・・、クライフの野郎もちゃんと理解できていなかったらしいが、俺よりも少しはましなようだな。

 培養液は個人個人に用意されていたが、溶媒を供給する配管の最後は繋がっている。

 大きく見ればみんな同じ場所に居ると考えていい。

 日々の変化を観察していたのだが、ある日突然、その献体は全員、同じ人間になっていたらしい。

 DAN情報を溜め込んでいたDatabaseには面白い結果が出ていたらしくて、どの個体も見た目の姿、形が一緒なのに、DAN自身は献体だった全員のものが混ざっているらしかった。

 研究班は直ちに、培養液から献体をだして、元に戻す方法を考えたらしいが、まだ、研究当初のために対策など、立てられるはずが無かった。

 しかし、研究素体を液槽からだして、一時間もしないうちに、献体は元の姿に戻っていたという。

 研究再開の前に今一度、素体の検査をした時に、セレナーディさんは妊娠していることが判明して、研究素体からはおろされた。

 それとこの研究には藤宮詩音、藤宮詩織の母親が参加していたって事。

 彼女はまだ結婚もしていなくて、妊娠なんかしていなかった。

 しかし、再度の検査結果で素体として不適合とされ、やはり、セレナーディさんと同様にADAM計画からはずされたのだとよ。

 後に生まれてくる子供に影響があったとするなら、それが原因だろうとの推測で、実は本当のことは分かってない。

 生まれてきたばかりの子供を研究材料にするほど悪魔じゃなかったらしい・・・。

 数年後、藤宮詩音にも子供が生まれたことを知ったゲオルグさん。

 詩音さんから手紙と一緒に添えられた写真を目にした時はたいそう驚いたそうで、お互いの子供のDNAが安定した年頃に、その塩基配列がどうなっているかだけ、調べようとなり、約束どおり、一人歩きが出来る年頃になってからそれを調べたらしい。

 で、その結果、双方の子供のDNAはまったく一致しなかったとの事。

 互いの両親のDNAを引き継いでいて、余計なものは混ざっていなかったらしい。

 ただ、当時の検査では正確に解析できたとは考えにくいらしいから、調べられない要素があっても可笑しくないとのこと。

 これで、全部聞けることは聞けたような気がする。

「Thank you so much Mr. George!!」

 感謝を述べながら頭をゲオルグさんに下げ、元の姿勢に戻すと、手を出して握手の意をした。

 快く両手で握り返してくれた彼と別れ、まだ、終わっていないMagic showにこっそりと戻っていた。

 翌日、三人に思う存分、Casinoを楽しませ、翌々日には翠ちゃんちに観光しようと嘘を吐いてSan Franciscoに移動していた。

 それから、USAを立つ、二時間くらい前に貴斗の代わりに、彼奴のThe first girlだったシフォニー・レオパルディの墓参りに向かった。

 丘陵から、海辺が見えるそんな共同墓地に生前、彼女が好きだったという大輪のLilyの花束を抱え、訪れて、墓石の前に立っていた。

「八神さん、いったい誰のお墓参りなんですか?」

「みぃ~~~ちゃん、名前ならちゃんと刻まれていますよ・・・、えぇっと」

「シンフォニー・レパード?」

「惜しいな・・・、シフォニー・レオパルディ・・・、・・・、・・・、貴斗の最初の彼女さ・・・、ADAMによる怨恨の最初の犠牲者かもしれなかった女の子だ」

 まだ、裏づけが取れていないからはっきりとしないけど、最初の犠牲者は藤宮の双子の姉の方だろう、宏之の妹だった雪菜ちゃんもそうなのだろうけど・・・。

 俺の言葉に一番驚いたのは結城弥生ちゃんのほうで、

「貴斗さん、詩織大先輩よりも、さきにお付き合いしていた彼女がいたなんて・・・、しかも異邦の女性だ何て・・・」

「結城の妹君、何か引っかかる偏見的な言い方に聞こえるのは気のせいですかねぇ~~~、でも、彼女の写真を見たら全員度肝を抜くぜ。まっ、その前に挨拶させて呉れよ」

 この場所へ来る前にクライフから参拝の作法は聞いていた。だから、それに倣って献花の後に胸の前で十字を切り、最後に左胸よりやや上に右手を沿え、祈る。

 何を祈ったのか、それだけは教えられない。だから、聞かないで呉れよ・・・。

 クライフから作法を聞いた他三人も同じように俺に続いて、死者に祈りを捧げていた。

 最初に始めたのは俺だが、祈りが終わり目を開けたのは俺が最後だった。

 それから、三人の方を向いて、ゲオルグさんからもらった娘さんの貴斗と二人だけの写真を見せてやった。

 笑顔満点の彼女で貴斗に抱きついているシフォニー・レオパルディと顔を真っ赤にして狼狽しているヤツの姿が納められているそれを見て、一堂、声を上げる。

「これって、詩織先輩ですよね、絶対に?どうして、プラチナ色のかつらなんかをかぶってるんですか?しかも、カラコンなんかしちゃって」

「先輩って、どんな格好しても、似合っちゃいますよね・・・。うらやましい。それと貴斗さんもこんな表情するんですね・・・」

「慎治さん、その写真俺に・・・、ぼっ僕にくださいっ!!!」

「やっぱり、勘違いしたな、お前ら。これが今俺たちの下で眠っている人。シフォニー・レオパルディさんだよ。詳しいことは、飛行機に乗ったときにでもゆっくり話してやるさ」

 俺の言いに再び、驚き返す三人だった。

 こうして、俺のアメリカでの情報収集は終わった。

 神無月先輩に会って、今後の予定を立てよう・・・。

 日本に帰ってからそれは直ぐの事だった。

 愁先生に事の次第がばれ、帰宅早々、初めて、先生から張り手をもらってしまったよ、まったく。

「約束してくださいましたよね、慎治君。アダムに関わらないと」

「そうでしたっけ?おぼえちゃいないなぁ~~~、って先生が俺の性格を把握していなかった所に落ち度があるんじゃないですか?」

 俺は開き直って、そう言う。

「あなたっ!」

 今まだ、穏やかな表情しか見た事の無かった愁先生のそれが非常に怒っているそれを見せてくれている。

 これだけ、俺の行動を叱ってくれているのは、本当に心配してくれているからなんだろう。だが、ここで引く事はできない。

「母さんは取り合ってくれないから先生っ、知っていたら教えてほしいんだ。タイヨウ・ミナモト?ミナモト・タイヨウ、って誰だか知っています?」

 俺の告げた人物名を耳にした愁先生の表情が一転する。動揺しているのが分かるくらい。

「どうして、貴方がその男の名前を・・・」

「プロジェクト・アダムで一番その計画に恨みを持っていそうな人物だって情報を手に入れたんっすよ・・・」

「みなもと・たいよう・・・、源の太陽・・・、彼は・・・、彼は・・・、二十年前に死んでいる筈です」

「へぇ~~~、先生もしっているんですねぇ、その人物を。まあ、名前からすると男でしょうけど・・・。ああ、それとその話しは俺も聞きましたよ、亡くなっているって。で、俺らを取り巻いている不幸はそいつの呪とか・・・、そんな呪いだなんて事を信じちゃ居ませんけどね」

 左拳を口元に当て、俯いていた愁先生が再び、俺の方を向くと、耳を疑う様なことを小さく言葉にしていた。

「源太陽を殺したのは私ですから・・・」

「えっぇええと、今のはそらみみかなぁ~~~、なはははは・・・」

 受け答えの仕方が分からなくて、とりあえず空笑いを浮かべていた。

「皇女だい・・・、お母様はずいぶん前から、私の家庭について知っているようでしたから・・・、慎治君に知られても問題はないでしょう・・・。以前、一度だけ貴方にも零したと思いますが私の家は神主という神に使える立場でありながら、天皇直属の要人暗殺の家系である事を・・・。歴史に不都合を起こしそうな人物を天皇が見極め、その者がいるならば、我が家系の者が、その相手を闇に葬るのが本職なのです、信じては頂けないと思いますがね・・・。そして、源太陽の暗殺は私にとって最後の仕事でもあり、私自身の死を悟ったときでもありました」

「そのミナモトノタイヨウって人物は天皇の命令で殺さなくちゃならないほどの男だったのか?もしかして、実はアダム計画と関係していたからとか?」

「源太陽の暗殺勅命とアダムは無関係です。もう父親だとは思いたくありませんが、その親より下された執行理由は世間に知られたくない、平安-鎌倉初期の逸史を継承しているからだと、貴方も学校でまじめに授業を受けていたのならば、一度は耳にしている歴史上の人物の事実子孫であるが故。源義経・・・。当時、私は暗殺が極当たり前のように執行できるように育てられていたために、その勅命をどんな疑問も抱かずに遂行しようとしました」

「昔のことが今更、明るみになったって現状が変化することなんて無いだろう?なんで、それなのに殺さなくちゃいけないのか、理解に苦しむな」

「皇族は世間にそれが知れた時に一般市民の向ける感情を恐れていたのでしょう。真実の流布は時に、民衆を狂わせ、どの様な惨事を引き起こさせるのかを彼等は知っていましたからね・・・。歴史がそれを示しています・・・」

「それで、勅命を受けた私は直ぐに任務に就きました・・・。その頃の私は誰よりも、強いのだという自惚れがありまして・・・、源太陽はただの戦いに関して、現代人同様素人だと高を括っていたのです・・・。しかし、彼は強かった。彼も相当鍛錬をつんだ男だったのです。勝つも負けるも五分五分の相手でした。まだ、あの頃の私は十六歳でしたが、勅命に殉ずる事を普通に思っていましたので」

「もしかして、相内でも狙ったってやつですか?」

「はい、慎治君の言うとおり、お互い、私も、太陽も重症な程、痛手を負いながらも、戦いは平行線でしたので、刺し違える事を覚悟で最後の力を振り絞りました。結果、私も太陽もお互いの短刀を刺しあった状態で、崖から海に落ちたのです。互いに泳いで、生き延びるなど出来る状態ではなかったはず・・・。ですから・・・」

「でも、先生は生きているじゃないか」

「ええ、本当に偶然なのでしょう、三途の川の船に乗りかけの所で、皇女お母様に助けていただいたのです。そして、その時に、私の看病をしてくださったのが、貴方の姉上、である佐京です・・・。初めて、人の温かみと、自分という存在を省みることが出来た時間でもありました・・・」

「先生が、そうやって助かったんだから、相手の源太陽って男が生きていても不思議じゃないでしょう?・・・、・・・・、・・・、・・・、ミナモトノタイヨウ・・・、SOS・・・、・・・、・・・、Sun of Origin?それじゃ、SOO、Sun of SourceもしくはSource of SunでSOSっ!あれは緊急Callじゃなかったんだな・・・。やっぱり、そいつ生きているんだよっ!少なくとも、貴斗の両親が殺される十年前まではっ」

 今の俺のひらめきが正しいか、どうか、はっきり言ってあてずっぽうだから、あたっていない可能性が非常に高い。でも、先生は目を丸くして驚いていた。

 よしっ、神無月先輩に協力してもらって、その源太陽って野郎を追い詰めてやるぜっ、待っていやがれ!

 そう思った時に俺の頭の中に男を捕らえるための策がいくつも浮かび始めた。

 そして、正義は我にありっ!どんな事故が降りかかっても、如何に命に関わる様な無謀な行動に出たとしても俺がこうして、生きていられるのはあいつ等が見守ってくれているからと信じたい。だから、俺が示すあの男への答えは・・・、あいつらが納得してくれそうな方法で完遂して見せるぜ。

 俺はそう思うと、直ぐにその場を飛び出て、神無月先輩に連絡を取りに行った。

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