3話
??「やめて!母さんを返してよぉ!!」
少女は泣き叫ぶ。しかし、その異形に少女の声が届く筈もない。
??「お前たちだけは……お前たちだけは……!!」
少女の中に憎悪が渦巻く。復讐と破壊の衝動に染まったその黒い欲望を、
大型怪物「ゴゴゴゴァァ」
足元に生まれた巨大な欲望の塊を目掛け、巨大な怪物は、その腕を振り上げ――
先輩「……はっ!?」
先輩「……はぁ……夢……か」
先輩「(最近よくあの夢を見る……今でも思い出すな……あの時あいつを仕留めていれば……)」
ガチャ
猫耳「おはようございます……うぷ」
先輩「ああ、おはよう。どうした?顔色が悪いぞ」
猫耳「ええ……ちょっと二日酔いを……」
先輩「ふふ、魔法少女にあるまじき発言だな。お前の体調が悪かろうと、怪物はやってくる。気をつけることだ」
猫耳「はい、分かっています……うぷ」
猫耳「……あ、そうだ先輩、一つ聞きたいことがあるんですけど」
先輩「ん?何だ?」
猫耳「ボクと先輩以外に、魔法少女っているんですか?」
先輩「どうした、藪から棒に」
猫耳「あ、いえ、何となく気になって……」
先輩「まぁ、研究員曰く、強い気持ちがあれば誰でも魔法少女になれるそうだ。私達以外にいてもおかしくあるまい。かつてこの街に他の魔法少女もいたからな」
猫耳「そうなんですか……その人はどうなったんですか?」
先輩「ある日を境に、めっきり見なくなってな……噂では、怪物にやられたそうだ」
猫耳「怪物に……!」
先輩「……あれは、怪物がこの街に初めて現れた日だったな……彼女が目撃されたのは、その日、怪物と戦っている姿が最後だったそうだ」
猫耳「……」
先輩「(そしてあの日、私も……)」
猫耳「先輩?」
先輩「ああ、いや、何でもない。ああ、そうだ、お前に頼みごと……というか、任務がある」
猫耳「え、なんですか?」
先輩「研究員が、お前と会って話してみたいそうだ」
猫耳「えっ、研究員さんですか?」
先輩「ああ。私から引き継いで、単独で怪物討伐を行っているお前に興味があるそうだ。どんな戦略で戦っているのか、どうやって怪物を倒しているのか……と」
猫耳「それはなんだか嬉しいなぁ……わかりました!どこに行けばいいですか?」
先輩「ああ、詳しい場所は携帯に転送しておく。話が終わったら、報告を忘れずにな」
猫耳「了解!」
・・・
1時間後
猫耳「うひゃー……ここか……」
猫耳「お金持ちとは聞いてたけど……絵に描いたような大豪邸だなぁ……警備員さんとかもいるし……」
猫耳「緊張するなぁ……と、あそこの警備員さんに話せばいいのかな」
猫耳「すみませーん」
警備員「……はい、どちら様でしょうか」
猫耳「あの……研究員さんに呼ばれて来ました、猫耳です」
警備員「お嬢様の……ああ、猫耳様ですね。お待ちしておりました」
猫耳「(お嬢様……)」
警備員「どうぞ、こちらへ」
猫耳「は、はい」
猫耳「(なんだか凄い事になってるんじゃないか……?大丈夫なのかな……)」
警備員「お嬢様、お客様をお連れしました」
猫耳「し、失礼します……」
研究員「あら……いらっしゃい、わざわざ呼び出してごめんなさいね、猫耳さん」
猫耳「いえっ、だ、大丈夫ですっ」
研究員「警備員さん、ご苦労様」
警備員「は、失礼致します」
研究員「じゃ、そこの椅子にどうぞ」
猫耳「はい、失礼します(女の人だったんだ……意外だな……)」
研究員「……私が女なのが、意外だって顔してるわね」
猫耳「(ぎくぅ)……は、はい……てっきり男の人かと……」
研究員「ふふ、魔法少女の研究よ?女の子がしてもおかしくないでしょ?」
猫耳「はぁ……まぁ」
研究員「さておき……早速、本題に移りましょ」
猫耳「はい」
研究員「あなたを呼んだのは他でもない、あなたのことを聞きたいの。話してくれるかしら?」
猫耳「はい、ボクが答えられるものなら……」
研究員「ふふ、ありがと。じゃあ……そうね……
研究員「魔法少女になったのは、どうして?」
猫耳「え?(キョトン)」
研究員「魔法少女は、なりたいからってなれる訳じゃない……極めて強い意思を持った人間が、クリスタルの力を借りて、はじめて変身することができるのよ」
猫耳「はぁ」
研究員「難しかったかしら。なら、質問を変えましょ。初めて魔法少女になったきっかけは?」
猫耳「あぁ、えーっと……」
猫耳「ボク、先輩に憧れてたんですよ。先輩は、強くてカッコ良くて、怪物から皆を守るヒーローでした」
猫耳「ある日、ボクは街の人が怪物に襲われているのを見たんです。でも、先輩はその場にはまだ来てなくて……ボクもヒーローになりたいって思って、怪物に戦いを挑んだんです」
研究員「魔法の力も無しに?」
猫耳「はい。もうがむしゃらで、棒切れや石を投げて戦いました。どうしてそんな危ない事ができたのか分かりませんが……その人、ボクの好きなタレントに似てたから、思わずカッコ付けたくなっちゃって……」
研究員「……呆れたわね。それで、変身は?」
猫耳「はい。当たり前ですけど怪物に歯が立たなくて、吹っ飛ばされちゃったんです。それで、気付いたらこの姿に……」
研究員「じゃあその、怪物との戦いが、あなたを魔法少女にさせたってことね」
猫耳「はい。そうだと思います」
研究員「ふぅん……ありがと。じゃあ次の質問よ。あなたの得意技は?」
猫耳「(なんか面接みたいになってるな……)はい。飛び蹴りが得意技だと思います」
研究員「データにも上がってるわ。なんでも、一撃必殺の大技だそうね」
猫耳「あ、ご存知なんですね」
研究員「あなたの先輩から色々と聞いてるわ。徒手空拳だけで怪物を叩きのめす武闘派だって」
猫耳「(武闘派……嬉しいのやら悲しいのやら)」
研究員「パンチ一発で怪物を消滅させたって噂話も出てるわ」
猫耳「えっ……そんな事……無い……ことはないですけど……」
猫耳「(こないだの公園での戦いかな……?誰かに見られてたのかな……)」
研究員「他にも、救助活動や慈善活動もやってるんですって?」
猫耳「あ、はい。改めてそう言われると小っ恥ずかしいですが……まぁ、ゴミ拾いとか、酔っ払いの介抱とかですけど……」
研究員「なるほどね……でも、そうやって、小さな人助けでも、周りはきっと、高く評価してるわ」
猫耳「へ?そうなんですか?」
研究員「何も、人の命を助けるような大仕事じゃなくてもいいの。何かを助けてくれる魔法少女が身近にいる、っていう事実が大事なの。何も怪物を倒すのだけが役割なんじゃないわ。頼れる市民の味方として存在することで、人々に希望を与えるのが真の役割なのよ」
猫耳「希望……」
研究員「話は逸れるけど……"猟犬"の話を聞いたことはある?」
猫耳「猟犬……もしかして」
研究員「そう。あなたの先輩……犬耳魔法少女に付けられた通り名よ」
猫耳「……どうしてそんな怖い通り名なんですか?」
研究員「彼女は……希望の象徴ではなかった」
研究員「人助けは二の次で、怪物を倒すことのみを優先した魔法少女だったの」
猫耳「……」
研究員「ただ怪物を殺戮する力を持った……人助けでなく、己が本能のために怪物を狩る狂戦士……人々はその姿を見て、彼女を猟犬と呼んだわ」
猫耳「そうだったんですか……先輩が、そんな……」
研究員「猟犬は孤独に戦い続けた。そして、あなたも知っての通り、戦いに敗れて引退したのよ」
研究員「だから、あなたには、期待してるの。人々の希望の星になれるのは、あなたしかいない」
猫耳「――!」
研究員「……さ、続きを話しましょ。次は魔物の倒し方について……」
猫耳「ふぅ。たくさん話を聞けたな」
猫耳「(それにしても……先輩があんな風に言われてただなんて、知らなかった)」
猫耳「一度先輩に話を聞いた方がいいのかな……いやでも……」
猫耳「聞き辛いよなぁ……あんまり楽しい話じゃないしなぁ……」
猫耳「うん?あれは……」
猫耳「……黒髪女さんっ……なんか、キョロキョロ周りを気にしてるぞ」
猫耳「何だろう、何かから隠れてるみたいな……」
猫耳「……さりげなく後をつけてみよう。……ストーカーじゃない、ストーカーじゃないんだからな?……変身解除……っと」
素猫耳「よし、これで……」
黒髪女「(キョロキョロ)」
素猫耳「……あ、そこの店に入ったな」
素猫耳「……なになに?フェアリーハウス……わっ、コスプレの専門店じゃないか」
素猫耳「そういえばコスプレが趣味だとかなんとか……あんな美人さんが内緒でするコスプレか……」
素猫耳「……」
素猫耳「はっ、だめだだめだ。やましいことを考えるなボク」
素猫耳「ここは……うん、何となく見に来たフリをして、ばったり会ったみたいなシチュエーションになれば美味しいな……」
素猫耳「「あ、黒髪女さん!」「わぁ素猫耳くん、奇遇ね!あなたもこういうの好きなの?」「詳しくないけど、黒髪女さんが好きみたいだから見てみようかなーって」……とか」
素猫耳「昼前だし、ついでに食事なんかも誘っちゃったりなんかして……ふふふ」
素猫耳「……よし」
素猫耳「なんとなく、なんとなく……素知らぬふりをして……」
素猫耳「~♪」
ガチャ
???「はぁぁぁん!このスリットからちら見えするであろうキュートなフ・ト・モ・モ!!舐め繰り愛でたいっ!すぐにでもっ!!」
素猫耳「」
???「このフレアスカートの中に隠されるプリティーなヒップが――
素猫耳「……ど、どうも……」
黒髪女「す……素猫耳くん!?!?」
店員「おーい黒髪女さん、言ってた猫耳ちゃんの写真、見つかったよ」
黒髪女「!!」
素猫耳「!?」
素猫耳「あの……猫耳ちゃんの写真って……」
黒髪女「わああぁぁあぁ!!やめて!やめて今その話題はまずいから!!」
店員「あれ?黒髪女ちゃんのお友達かい?」
素猫耳「ど、どうも」
店員「いやー、どうやら見られたら恥ずかしいみたいだね……彼女、あの猫耳魔法少女の熱心なファンで」
素猫耳「へ?」
店員「しょっちう変装して追いかけ回しては、きわどい写真を集めてるんだy
黒髪女「だめだめだめだめ!やめて!違う!違うから素猫耳くん!ワタシは……ワタシはそんなじゃないから!!」
素猫耳「……へ?あ、あの……もしかして……」
黒髪女「(サァァ)」
素猫耳「……変態さん?」
・・・
キモオタ「(終わった……何もかも……ああ、短かったワタシの青春よさらば……)」
キモオタ「……ばれちゃったね……」
素猫耳「え?嘘?全然違う人じゃないですか?」
キモオタ「いつも髪隠してマスクしてたからね……」
店員「あれ?なんか言っちゃまずかったかな?」
店員「黒髪女ちゃん、おじさんちょっと裏で在庫整理してるから、何かあったら呼んでね」
キモオタ「……はい」
素猫耳「あ、あの……」
キモオタ「軽蔑したよね、ワタシの正体がこんなキモオタだなんて……」
素猫耳「軽蔑というかなんと言うか……まだ頭の整理が付かなくて……」
素猫耳「えっと……黒髪女さん、ですよね」
キモオタ「はい……」
素猫耳「……ボクの正体、知ってたんですか?」
キモオタ「……一度見てるからね」
素猫耳「……何で、パンツの写真とか撮ってたんですか?」
キモオタ「……ワタシ、可愛い女の子が大好きなんだ……ワタシが可愛いくない分、可愛い女の子が可愛い恰好してるのを見て、すごく幸せな気分になれるんだ。可愛いパンツとか照れてる顔とか……そういうの見て喜ぶ変態なんだ……」
素猫耳「……なんであんな恰好を?」
キモオタ「うん……あえて変な恰好することで、自分の変態行動を正当化してみてるというか……あれを着てると、猫耳ちゃんにストーキングしてても、あんまり恥ずかしくないんだ。まるで自分じゃないみたいで……」
キモオタ「ごめんね、迷惑だっただろうね……」
素猫耳「……黒髪女さん……」
黒髪女「……ワタシをまだ黒髪女と呼んでくれるのかい?変身した君のパンツを盗み撮りする変態だよ?」
素猫耳「あの……パンツを撮られるのは恥ずかしいからやめて頂きたいんですけど……」
素猫耳「……こう言うの、自分でもなんかよく分からないんですけど、黒髪女さんの話も、何となく理解できるんです」
黒髪女「……ワタシの話が?」
素猫耳「ボクも、素はこんな冴えない男子学生ですけど……変身して猫耳魔法少女になると、自分を捨てられるというか……もう一人の自分になれる気がするんです」
素猫耳「ボクは小さい頃から、みんなを助けるヒーローに憧れていました。でも、普段のボクにはそんな力も、勇気も無いんです。けど、猫耳魔法少女になれば、ボクだって、みんなのアイドルに、そしてヒーローにもなれるんです」
素猫耳「だから、黒髪女さんも、変態さんの恰好をしてる時は、自分の中にいつも隠してるものを出してるんだなって」
黒髪女「……素猫耳くん、ワタシを責めないの?」
素猫耳「責められるわけ、ないですよ。だって、ボクと同じなんですもん。……まぁ、今度からは、できれば盗み撮りはやめて欲しいなーって……」
黒髪女「ええ!?そんなぁ!?」
素猫耳「あっ、でもっ、ボクでよければ、呼んでくれれば変身して会いに行きますよっ、く、黒髪女さんさえよければですけどっ」
黒髪女「……素猫耳くん……」
素猫耳「(うわぁー、なんかすっごい恥ずかしい事言っちゃった気がするぞ!?何か他の話題……他の話題……」
黒髪女「約束……だからね?」
素猫耳「っ!?」
素猫耳「(そんなトーンで言うの……ずるいっ……すっごいドキドキしてる……)」
素猫耳「じ、じゃあボクの連絡先を……(うおおおぉ……電話番号……ゲットするチャンス……!)」
黒髪女「……はい、ありがとう」
素猫耳「……こ、こちらこそ……」
黒髪女「……ふふふ」
素猫耳「え?」
黒髪女「ふふふははははー!これで猫耳ちゃんにいつでも会えるッ!猫耳ちゃんにワタシの欲望の全部をぶつけられるぞー!!」
素猫耳「は、ひ!?」
黒髪女「うふふふふふ……覚悟してね素猫耳くん、いや猫耳ちゃん……おねーさん家にあるコスプレ衣装66着ぜーんぶ試させてもらうからね……!!」
素猫耳「えぇ!?」
黒髪女「うふふふ……楽しみが増えたぞぉ……」
素猫耳「(こ……怖ぇ……これが人間の二面性……)」
黒髪女「……さて、そろそろお腹空いたなー」
素猫耳「!そ、そうですね、お昼時ですし」
黒髪女「……ここに、今日完成した新しいドレスがあるんだけど」
素猫耳「え」
黒髪女「ねぇ、素猫耳くん、もちろん今変身できるよね?」
素猫耳「え」
黒髪女「ねぇ、お昼ご飯奢ってあげるからさ」
素猫耳「も、もしかして……」
・・・
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