第8話 ローブの少年

 白いローブをまとった少年があたりを見渡している。


「ここは…。どこだ?まだ思ったより、自由には扱えないようだ。イメージがはっきりしないところは難しいということか」  


 少年は1人でしゃべっていたが、いきなり振り返りかえった。ローブの少年と目があう。綺麗な男の子だなと思った。自分よりは年上だろう。兄と近い年齢かもしれない。


「子どもがこんな時間に、1人で何をしている」

 自分も子どもだろうに、ずいぶんえらそうな態度だった。まるで兄のようだ。

 

 何か言おうとするが、言葉にならない。見ず知らずの彼に話す事は何もない。リーディアは俯く。


「なんだ?しゃべれないのか?それとも話すつもりがないのか?」


 少年はリーディアに対して、淡々と話しかけてくる。


「話すつもりがないなら、早く帰るんだな。直に暗くなるぞ」


 リーディアははっとする。帰らなければ。何も言わずに飛び出してしまった。みんなは探しているかもしれない。

 でも、なかなか足は動こうとはしない。帰りたくない。

まだここにいたいと思ってしまう。楽しかった、母との思い出がある場所に。


 少年は俯いて動かない自分を、不審に思ったのか声をかけてきた。

「どこか、怪我でもしているのか?」

 

 急に優しくなった言葉にリーディアは、顔をあげる。

少年はリーディアの顔をみて、しまったという表情をした。


「つけあがるなよ。気になっただけだ。送るなんてしないからな」

 少年は視線を一瞬逸らしたが、またじっとリーディアの顔を見て言った。


「泣いていないんだな。」

 

 リーディアは首をかしげる。


「1人でこんな所にいるんだ。何かあったのかと思うのが普通だろ。」

 少年は素っ気なく言う。


「でも、泣いてはないわ。泣いても、どうにかなるわけじゃないし、悲しませるだけだから泣けない。みんなを元気にしないといけないから泣かないの。」

 リーディアは笑った。


「・・・そうか。・・・女なのに泣かないなんて、変わってるな。女は泣けば気をひけると思ってる節がある。優しくすればつけあがる。だから、泣く女は嫌いだ。でもお前は泣かなかったから、特別にいいものをみせてやるよ」

 少年は呪文を唱え、片手を空に向けた


 空には小さな氷が砕け、宙をまった。さまざまな光が周りにちらばり、氷と反射しあう。小さな氷の粒が一箇所にあつまり花のつぼみの形になった。そして、つぼみが開き大輪の氷の花が咲き、煌めいた。


「すごい!綺麗…」

 リーディアは空を見上げ、笑顔になった。


「妹に見せようとして、練習したんだ。特別にみせてやるんだから感謝するんだな。1人で泣くならいつでも泣けばいい。泣いて辛いことを乗り越えろ。そういう泣き方は嫌いじゃない」

 

後ろから馬の蹄の音が聞こえてくる。

「どうやら、迎えが来たようだな」


 少年は来た時と同じように消えてしまった。また、私が1人にならないでいいように、帰らないでいてくれたみたいだ。


 

 少年が消え、父と兄が馬で駆けてきた。父は、いなくなった私に気づいて必死に探してくれていたそうだ。兄が私がいなくなったことを伝え、母から預かっていた手紙を渡したらしい。


 母からの手紙には、残した大切な宝物。子供たちをよろしくと、幸せな時間が過ごせて、本当に幸せだったのだと。みんなの思い出の中で、ずっとこれからも生きていくから、いつものみんなでいてほしいと書いてあった。

 

 父は母の手紙を読んで、我に返ったようだと兄が言っていた。迎えにきた父は、強く私を抱きしめてくれた。

 

 私は父を抱きしめかえして、父の泣きだしそうな顔をみて、笑った。


 

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