第2話 アイツとは違う彼
ちらと見えた人影は、曇りきった私の心を明るく照らした。まるで村に現れた勇者のように。
「大橋じゃん。今、帰り?」
影の主が話しかけてくる。ぎゅんと身が縮むのを感じながら、私はこくりと大げさに頷く。顔が赤くなっているのは夕日のせいだ、と必死に言い聞かせるが、頭は言うことを聞いてくれず、ただ鼓動ばかりを早めていった。
「ははっ。」
乾いた声で彼が笑う。馬鹿にした笑いではない、心地の良い笑い方。
「俺もだよ、駅まで一緒にいかないか。」
どくんっ。ひときわ音を立てて心臓が跳ねる。ありえないと言われればそれまでだが、その高さはイルカのジャンプにもひけをとらなかった。
桜太と違い、爽やかな笑顔が眩しい。練習着から伸びる腕は浅黒く逞しい。同級生の男の子の中でも大人っぽい彼の名は谷野光翼。1年生のときにクラスが一緒だっただけの私を覚えているほどの記憶力は学年でもトップレベル。「王子」なんてあだ名のつくモテ男な谷野くんは女子の憧れの的だった。
谷野くんと並んで帰っている事実だけでご飯3杯は余裕でいける。常に道路側を歩いてくれる紳士な立ち居振る舞いも陽に照らされて心なしか赤く見える整った横顔も今だけは私のもの。独り占めできる。
改札で別れを告げ、別々の方向へと各々帰る。少年のようにいつまでも手を振り続ける彼にキュンとする。嬉しくなって私も普段よりも大胆に手を振り返す。そんな私たちは背後からの黒く染まった視線には気づかなかった。
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