好きになったのは大嫌いなアイツ
紀伊航大
第1話 いつまで続くんだ、くされ縁
期待感に胸を膨らませた私は今、その思いを打ち砕かれ、風船のようにしぼんでいく。嬉々とした表情は憂いに満ち、肩はがくりと落ちる。高校3年、最後のクラス替えだった。神様は私の唯一の願いを見捨てるどころか、無情にも“逆の願い”を叶えた。
「よぉ、。まただな。」
色濃く焼けた肌が特徴の天敵、清水桜太が手をあげて近づいてくる。
・・・・・・・・・・
正確には私にとっての天敵であり、桜太は何かと私に話しかけてくるが・・・。
賢い読者諸君ならばお気づきだと思うが、私の“願い”とは、この清水桜太とクラスが離れることである。小学校から続く、くされ縁はいよいよ私の青春を丸呑みにした。
瞬時に表情を暗くした私を憐れむかのように、親友の友美がアイコンタクトを送ってくる。そう思っていた。が、現実は甘くなかった。友美が目で訴えていたものを私が知るのは、もう少し後のハナシ。
桜太のいる教室の空気から逃げるように屋上へと駆け上がった。灰色のコンクリートに背中を包まれて見上げる空は格別だった。一面青空で雲ひとつだってない。私の心内とは真逆の空模様。春風にあてられて、私はとろりと夢の住人になった。
遠くでカラスの合唱が聞こえてくる。なんだかやけに耳に残るな、とぼんやりした頭で思う。窓の外の燃え上がるような空を見て、急に思考がしゃんとする。頭を抱え、広々とした屋上であちらこちらへうろつく。
「ったく。ここにいたのかよ。」
滝のような汗で肌を濡らし、練習着姿の桜太が現れた。部活終わりだろうか。
突然現れた桜太に驚きを隠せないものの、私は天敵の肩を借りるほど弱ってはいなかった。いつものように軽口で返す。
「なんでいるの。もう帰るけど。」
踵を返し、桜太の横をすり抜けていく。無人の校舎はなんだか物寂し気に上靴と床の擦れるキュッキュッという音を響かせる。
そのとき、昇降口の向こうに人影が見えた。
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