救われる景色、去る景色
「ふわぁぁ~~~…」
「寝不足かい?」
「やけに大きな欠伸だが…」
「やっぱり…多少無理をしてでも…頑張らないと授業に追いつけないので…」
「大変そうだな…道理で俺と初めて会った時人にもたれかかって寝るわけだ」
「その説は…すいませんでした…」
「なに、それでこうして話あっているわけだろ?」
「そんなことより…そんなに難しいのか?」
「少し見てみます?私としても…教えてほしいので…」
「俺に聞いても仕方ないだろう?」
「そんなことないですよ、だってとっくにこの範囲をおわらせているのでしょう?」
「は?、俺一年だぜ?」
「え?」
「一年」
「そうだったんですか!?やけに…大人びていたもので…」
(私より…年下…!?)
「だが…少し見ていたらなんとなくわかったさ」
「・・・え?」
「まず一問目は…」
(すごい…ちょっと見ただけで…私が考えあぐねて居たものを…一瞬で…)
(年下で…偏差値も全然低いのに…)
(やっぱリ…すごいな…)
「あの!」
「ん?」
「今日…よかったらなんですけど…」
「帰りも…お話させてもらっても…よろしいですか?」
「いいぜ?いつの電車に乗るんだ?」
「失礼します…」
「おう、まあ掛けろ…」
「はい…」
あまり来たことのない生徒指導室に休み時間に呼ばれ、長い間生徒の成長を見てきたことを物語る軋みを立てる扉を閉め
先生の指示に従い腰を落とす。
「最近…ずいぶんと授業に集中して眠るようだな?」
「・・・はい…すいません」
「どうした?いつも生真面目なお前が…珍しいじゃないか」
「最近…睡眠不足でして…」
「何か用事でも?」
「勉強に…集中して望めないというか…」
「それと…もしかしたら授業中に寝てはいけないという気持ちが薄まっているのかもしれません…」
(彼を…見てると…馬鹿らしくなっちゃうな・・・勉強ってのは…)
(それに…彼のことで頭がいっぱいになって…とても勉強どころじゃ…)
(でも…こんな気持ちは今日で決別しよう…)
(この思いを…)
(この思いを…あの人に…)
(あの人に伝えるんだ…)
「初めてだな…君と帰り道で会うのは…」
「そう…ですね…」
「何か話したいことがあったのかい?」
「はい…ですが…まだ準備が…」
「そうか、まあ話してもいいって思ったら言ってくれ…」
「はい…ありがとう…ございます…」
「こうやって…年上の君が敬語で年下の俺がため口で偉そうにするのはいささか筋が通らないか?」
「いいえ…!あなたのほうが…人生の正しい歩み方を知っています…」
「私の…最高の先生であり…私の…」
「君の…なんだよ?」
「いいえ…なんでもありません」
まだ…言えない…
でも…今日いうんだ…
それで…今日で…もやもやとはおさらばだ…
彼女がなかなか言い出せず彼女と対比するように無情にも走り続ける電車は刻一刻と次の駅次の駅とカウントダウンを始めた。
「あなたと話していると…時間があっという間です…」
「もうここまで帰ってきたか…」
「それじゃ…俺はこの駅で降りるから…」
「また明日な」
「結局…言いたいことは今日は無理か?」
「・・・」
「まあ、言ってもいいと思ってくれるまで気長に待つよ」
彼が電車を降りると十秒くらい間を置いて彼のあとを追いかける。
言おう!ここで!あの人を…!呼び止めて…
彼に向けて踏み出す一歩一歩がぬかるみのように重く感じたが、そんなもので彼女の生真面目さが生んだ決心は負けない。
彼を呼び止めるために大きく吸った息が肺を突き刺す。
すると彼は誰かと待ち合わせをしていたようで親しげに話す。
「おかえり♪」
「今日は…ずいぶんと寒いな…」
「そうだねー…だから手をつないで帰ろうよー」
「今俺手が冷たいぜ?」
「いいの♪心があったいでしょー♪」
「そんなもんか?」
「そうだよー!幼馴染の私が言うんだから間違いないって!」
「そうかい、それで…今日の晩御飯は――」
立ち尽くす彼女を呼び止めるように電車のドアが閉まるというアナウンスが流れると急いで彼女は電車の中に戻った。
彼女は彼と出会う前のように教科書を開き勉強をするわけでも、彼に教えてもらったように眠って休むわけでもなく
いままで気にしたことのない電車の高速で流れていく窓からの景色をただ眺めていた。
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