主作用、副作用


水面のような静かな教室には先生の説明を必死にノートに書いて覚えるために筆を取る音のみが響いていた。

何も変わらないいつもの光景、厳しい入試をくぐってきた者達でも必死にならないとついていけないのだ。

ただ…いつもと違うのは…


「はあ…足立…どうしたんだ…体調でも悪いのか?授業中に寝るなんて…」

「す…いません先生・・・」

「はぁ……つづけるぞ・・・」


初めて…授業中に寝ちゃったな…私・・・こんなダメな子だっけ…

これも…相談しよう・・・ 


「ったく…あいつのせいで授業のテンポ悪くなったよな…」

「ホントだぜ…」


会いたいな…


翌日

「よお、またあんたか、あれから何か変わりないか?」

「…実は、初めて授業中に寝てしまいまして…」

「初めてって…今まで一度もなかったのか?」

「は、はい…」

「すげえな…俺は初めて寝なかったのほうが現実味があるが…」

「・・・流石に授業をちゃんと聞いたほうがいいですよ…」

「でも…今日の私はそんなこといえる立場じゃありません…」

「まあまあ、そう気に病むなって…どうして寝たとか何か心当たりがあるか?」

「・・・いつもと違ったことは…やはり電車で寝たことですかね…」

「なるほどな…でもそうやって寝ないように心がけても眠っちまうってのはやっぱり睡眠時間が足りてないんじゃないのか?」

「そう思って今日は早めに床に就いたのですが…」

「どうせなかなか寝付けないってんだろ?」

「…はい。」

「それじゃあ…今こうやって話しているが少しでも寝たらどうだ?」

「そ、それは…」

「何か不満かい?」

「いろいろと…相談もしていたいですし…」

「あなたと話していると…悩みが軽くなります…」

「それは男冥利に尽きるってもんだ」

「だがな?今あんたに必要なことは寝るってことだぜ?」

「ほら、目を閉じて!」

「はい…」


私は…もっとあなたとしゃべっていたい…眠ってしまうことであなたとしゃべる時間を失いたくない…


でも…なんだろう…すごく…落ち着く…



はっ!


とうに目的地を過ぎた駅名のアナウンスで目を覚ます。


すると眠っているうちに最初に彼と会った時のように彼にもたれかかって寝ていた。


ち、近いー!!

でも…ドキドキするけど…なんだか落ち着く…


っは!

また寝てしまうところだった。

「す、すいません!またもたれかかって…」

「ああ、それより寝過ごしちゃった!どうしよう…」

「この電車が最終便か?」

「まだ乗り換えれば…間に合いますが…」

「それじゃあ早く行こう、逆に考えれば君と話せる時間が増えたってことだ」

「そ、…そう…ですね…」


やっぱり…スキだなぁ…私…


「俺はいくら遅れてもいいが…君の遅刻は致命的だろう?」

「ほら、急ごう」


彼女は途中まで伸ばしていた手を急いでひっこめる。

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