第二十四の論争 彼の情緒
図書館というのはある程度顔ぶれが固定されるものだがその日は見慣れぬ客顔があった。
放課後になってモブAは初めて学校の図書館に訪れた。
今まで一度も手に取られてこなかったであろうことを物語る埃を手で軽く払い『モールス信号』という本を手に取る。
「もしかしたら照れてモールス信号で告白の文を書いたのかもしれないもんな、そうだ、そうに違いない」
どこまでも諦めが悪く幸せな妄想を巡らせ解読を試みる。
「えーっと…最初の字がこれだから…」
『・-・・・ -・・- -・--- ・--- ---- ・-・- ---・-』
『オ マ エ ヲ コ ロ ス』
「—————」
(なんでだよ…なんで俺こんな殺害予告されてんだよ…)
(こんな憐れな俺に救いを差し伸べてくれてもいいじゃないか…憐れだから救いがないのか?救いがないから憐れなのか?)
悲しみに打ちひしがれた彼は肩に乗った手の感覚で後ろを振り向く。
「なんでこんなとこにいんだよ探したぞ?」
「なんの用だゴラ…」
幼馴染という大義名分を振りかざすこのリア充に腹が立ち思わず敵意を向けてしまう。
「ああやっぱり手紙があったか…」
「・・・・・オメエが入れたんだな?」
「いいや、背面を見てみろ」
「・・・オメーの名前が書いてある…ってことは?」
「多分俺のとお前のでスワップされたんだろうよ…ほらこっちがオメーのだ」
「本当にこれは俺宛てか?」
「内容的にもたぶんそうだぜ?」
「どうやら直接言葉にして伝えたいそうだから読み終わったら行ってやれよ?」
「…待てなんで俺がこの手紙を持っていると知ってる?」
「リョナ公が吐いたぜ?いたずら程度に書いたらしいが…」
「なるほどな…ネタバレするとそれ『オマエヲコロス』って書いてあんぞ」
「いい趣味してやがるぜ」
「ほら!早く行ってやれ!オメーの雪解けになるか氷漬けになるか…だ」
「ッケ…弱みにしようってか?」
「心外だな、俺が人の恋路にそんな無粋なことをすると思われてたのか?」
「まあするけど」
「…ック…このクズ野郎が…」
「…だが感謝はしておくぞ…探し回ったんだろ?」
「・・・・・オメーは本人が隠そうとしていた努力まで読み取ってしまう…いいとこでもあり悪いところだぜ?」
「そのズボンの裾にはねた泥を見たら一目瞭然だ…こんな雨の中走ったんだろ…?ありがとよ…」
「いいから行け…!」
Aは手紙の内容を確認すると時間がないのか少し涙を流したように見せ走り去っていった。
「すまないな?雨の中俺に付き合わせてよ」
「ううん…私が勝手についてきただけだよー…」
(本当は…その手紙の相手と隠れて会いに行くかと…)
「それにしても…やっぱり君はいい人だねー」
「あいつにクズ野郎って呼ばれた直後だからか正面からは受け取りづらいな…」
(やっぱり…私が惚れるだけあるよー…)
「なんか言ったか?」
「君は人と違うものが見えてるねー」
「…?」
(自分の声に本当に忠実に…良くも悪くも…自分を抑えるってフィルターが取れた世界…)
(そんな世界に…私も入れてほしいな…)
「あー…らしくないことをしたってか?」
「俺は自分の世界の声に耳を傾けただけだ」
「どうにも…こんな風情溢れることができるやつがまだいたもんだな…」
「確かにラブレターなんて
彼は彼女を目の切れ目からじーっと透かすように見る。
「…まだ雨はやまなそうだ」
「…?そうだねー?」
彼女はどうにも天気のことについていったのではなく自分に言ったように思えた。
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