健全

第二十四の論争 ラブレター

「いよいよ高校生だねー」

「一か月も行ってるんだからもう慣れただろ」

「なに言ってるの全然慣れないよー」

堅苦しい入学式を終え新しい環境になっても彼はいつもと変わらずどっしりと構えていた。

現在ほど大きくはないが中学時代と比べはるかに大きく育った彼女の胸は彼女の可憐さをさらに引き立てていた。

「ん?下駄箱の中に…何か入ってる…手紙?」

「なんだこれ…ラブレター?」

「え?・・・・・・・」

「よ…よかった…ね?」

「私…ちょっとせんせ…いに呼ばれてたから…行くね」

「…なんだあいつ」

その場にいられなくなった彼女が立ち去るときに大粒の涙をその場に落としていった。


自分の影に追いつかれないようにか彼女は泣きながら学校を走り回る。

幸い走っているからかそこまで大きな鳴き声が漏れることもなかった。


(私が…彼のやさしさに付け込んで…何時までももたもたしてるから…だよね)

(でも…そんな権利無くても…筋違いでも…恩を仇で返してでも…)

(私の…)

(私の…!)

(・・・・やっぱり…こんな重い女は…彼に捨てられるよね…)


「さて…重要な内容だよな~」

重厚な壁にも感じた手紙のノリを優しく破いてしまわないように丁寧に開ける。


「いきなりこんな手紙渡してゴメンね、でもどうしても言いたいことがあって…いつも君が部活の練習をしているときに

何をするにも全力でとっても輝いて見えてね、君が試合に備えて人一倍素振りをしてる姿も、君が隠れて練習する姿も、何事にも全力で取り組んでる

君の姿に…私好きになっちゃった…こんな勝手なことばかり言ってゴメン…でも…よかったら…

私と付き合ってください。」


「…絶対俺宛てじゃねえだろこれ」



彼と同じ中学校から同じ高校に進学した坊主頭の見るからに野球少年のAが彼に遅れて下駄箱にやってきた。

「ん?なんか落ちたな…って封筒?」

「これって!!!まさかラブレター!」

(ああ…苦節15年…ようやくこの俺にも…彼女ができるのか…!思い返せば…女に恵まれなかったが…ここでようやく!)

彼は丁寧にゆっくりと封筒を開き手紙の内容を確認する。



「・-・・・ -・・- -・--- ・--- ---- ・-・- ---・-」

「な、…何ィィー!??」


彼女は彼と顔を合わせるなり彼に詰め寄ってきた。

「それで…もう返事はしたの?」

「ああさっきのか…って目どうした?ずいぶん赤いが」

「…君はいつも…私のことをちゃんと見てくれてるね…」

(そんな君を…渡したくない…でも…そんな愛の重たい女よりも…手紙の子を取る…よね…)

「そうそう、さっきの手紙絶対宛先が違う人だと思うぜ?野球なんてやったことねえし」

「・・・・・・・え?」

「ほら、見てみろって」

「・・・・ほんとだ」

「だべ?」

「というか…これってA君宛てじゃない?」

「…たしかにそうかもな」

「これは強請りに使えそうなネタが転がり込んできたぜ…」

「まったく君は…でもよかった♪」

「なにがだよ、俺はだいぶ悔しいぜ?」

「・・・彼女ができると思って舞い上がったの?」

(そんなに彼女が欲しいなら…なんで私に見向きしないんだろう…)

(やっぱり…私に魅力が…)

「うーん、まあ断ろうとしてたからなー」

「…え!?」

一瞬で土色だった彼女の顔が喜びと疑問の色になった。

「好きな人がいるんでな」

と思ったら今度は冷徹な顔で彼にドスの効いた声で尋ねる。

「・・・・だれ?」

「…わかって言ってるだろ?」



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