第十九の論争 あどけない彼女

彼らは受験が終わり思い出程度の意味しかなさない残すところわずかとなった学校生活を存分に味わっていた。

「受験の時結構治ってたから右手で書いてたぜ」

「そうだったの?よかったね…治って」

「なんでちょっと悲しそうなんだよ」

「別に…なんでもない!」

「なんだかんだで一週間くらいで骨折が治ったな」

「もっと…かかればよかったのに…」

「まあ…これでメシをいちいちオメーに食わせてもらわなくてもよくなったな」

「いやなの?」

「給食のたびにやられちゃ恥ずかしくてかなわん」

「・・・・・いいじゃん、そしたら君に誰もよりつかないんだし…ハエどもが…」

「ん?なんかいったか?」

「早く良くなってよかったっていったんだよー」

「まあ…これもオメーの手厚い介護のおかげかな?」

「珍しく素直に言ってくれるねー」

「まあな…骨折したばかりの頃はずいぶんと気に病んでたようだったからな」

「そりゃあ気にするよー…私のせいで落ちたらどうしようって…」

「そんなので落ちるような奴はどっちみち落ちるさ」

彼女は彼の腕のシップを張り替える。

一時期は固定をしていなければならないほどにいろいろなものを捲いていたがシップを肩に貼るだけでよくなった彼の腕をまじまじと見る。

しばらくはろくすっぽ動かしていないにしても鍛えられいたるところに筋肉の段差ができていた。

「・・・・・・」

「おい?なにぼーっとしてんだ?」

彼の見慣れたはずの肉体に見ほれよだれを流しそうになっていた彼女が正気に戻る。


「だけどまだ背中を洗えないからまた流してくれよ」

「うん。…それはしばらくできなさそう?」

「どうだろうなー…もしかしたらよくなるかもな…すまないな面倒かけて」

面倒などではない。

面倒で都合の悪いから聞いたのではなく、彼女はまだ彼の背中を流したかったのだ。



考え事をしているとあっという間に時間が飛ぶ。

(どうして…こんなに治るのが早いの…?)

(馬鹿だから?あいつが馬鹿だからかな?)

(まだまだ…私は彼に必要とされ足りてないのに…)

(私を…捨てるかもしれないのに…)

(・・・・・・こんなことを考える重い女は…嫌いかな…自由な人だし…)

(でも…そんな…そんな自由な彼でも…私だけを…)

(私だけを見ていてほしい…)

(もしも…もしも彼に好きな人がいると思ったら…胸が張り裂けそう…)

(苦しい…苦しいよう…)



風呂場にいる彼に呼ばれる。

「おーい、背中流してくれえーぃ」

風呂場の前に立ち彼女は今までは腕まくりだけだったのだが服を脱ぎ捨てる。

「はいるよー」

「たのむよキャアアアアアアァァ!!!!」

唐突な彼女の全裸に驚き情けない悲鳴を上げる。

(そんなに…悲鳴を上げるほど…ダメだったの?)と思い涙があふれたが問題なく予定通りに進める。

「わ、わたしも…お風呂に入っちゃおうかなー…って」

「馬鹿野郎が!全裸できやがって!」

彼はいきなり前傾姿勢になり何かを隠しているようだった。


「そ、そんなことよりも…背中だったね…今ながすよ…」

「クソ!コイツそのまま続ける気だ!!今回はなにをこじらせたんだ!?」

彼女は精一杯発展途上の貧相な胸を彼の背中に押し付ける。

しかし彼女の思っていた反応とは違い彼はいたって冷静だった。

「?」

「なにやってんの?」

彼が違和感に気づき鏡をみてなにがおきているのかを確認する。

「ああ!胸を押し当ててたのか!手かと思った!アハハハハハ!!!!ごめん」

彼女は必死に意を決して無理決行した色仕掛け(笑)が空回りし恥ずかしさと怒りと悲しみが入り交ざりひとまず彼を殺すことにした。



モブA「あれ?庭先でなにを燃やしてるの?」

「クズ」

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