第36話 2月中旬

「新井くん、他に受けているところはありますか?」


 俺は地元の国立大学で午前中に小論文、そして今、面接を受けている。結局親と相談し、前期後期、C判定だった横の水は諦め、前期C判定、後期B判定だったここを受けることにした。横の水を諦めた時、竜二には言えなかった。俺の変なプライドが邪魔したのもあったし、パタリと連絡がつかなくなった。


「はい。水城大学文学部心理学科を受けました」

「ほお、なぜ心理学部なのか教えてくれないかな?」

 面接官は無表情で机に肘をつき、手を組んだ。

「はい。心理学を選んだ理由は心の怪我をした人たちを治せるからです。確かに、身体的ではないですが怪我をしてる人を支えるということは看護師に通ずるとこがあると思っています」

 この質問は練習していたが、やはり面接官を前にすると緊張し、練習通りにいかず回答が短くなってしまった。

「わかりました。では面接はこれで終わりです。何か質問はありますか?」

「貴校では看護学部開設後、看護師の国家試験の合格率が百パーセントと伺っておりますが、その百パーセントを維持する秘訣を教えていただけないしょうか?」

「勉強に対する熱意ですね」

「熱意ですか、ありがとうございます」

「他にありますか?」

「大丈夫です」

「それではこれで本日の試験は終了です」

 

 手応えがなかった。一礼をし、面接室を出た。次の学生が緊張な面持ちで待っている姿を横目に、俺は竜二からクリスマスプレゼントとしてもらったピンクのスヌードをして、正門を目指した。

【どうだった?】向井からTWINが来た。

【たぶん、ダメだと思う】

【これから木崎とカラオケ行くけど来る?】

【やめとく】

 疲れていて、歌を歌える状態じゃなかった。俺は携帯をポケットにしまった。向井は絶対無理強いをしないので助かる。竜二だったら……今は考えるのはやめよう。

「大地」

 後ろからお姉ちゃんの声が聞こえてきた。

「どうだった?」

 向井と同じ質問をされた。

「ダメダメだった」

「まあ、いいんじゃん? 水城は大丈夫っぽいんでしょ?」

 俺はお姉ちゃんとキャンパス内を歩いた。

「水城は手応えはあるけどさ、あーでもお母さん悲しむかな?」

「いやお母さんの心配するより、自分の行きたいとこに行けば?」

「いや、でも…」

「『でも』何?」

「いいじゃん、東京。私は泊まる場所出来てラッキーだけどね」

「いや、まだ合格してないし」

「発表までもう少しでしょ?」


 3日後、俺はお母さんとお父さんに国立の後期は受けないと伝えた。

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