第33話 1月中旬
センター試験が終わり、俺は次の日、自分の部屋で新聞に載っている答えを見ながら、自己採点をしていた。初めてこんなに早起きして、新聞が配達されるのを複雑な気持ちで待ったことはない。
配達された新聞を横に答え合わせしていく。国語、世界史は八十パーセント以上、英語は九十パーセント以上取れていた。ただ、数学と生物を採点していると、一気に気持ちが落ちてきた。竜二からTWINで電話がきた。
「どうだったよ?」
「う〜ん、可もなく不可もなくって感じ」
「結局どうすんだよ、国立? 私立は水城だろ?」
「わかんない。今日ハリマーと相談する。うん。私立は水城だけど」
自分でもわかるぐらい、声が暗くなっていた。
「そっか。自信持てって。お前ならどこでも大丈夫だ」
俺は竜二にクリスマスイブの夜、あんなひどい事を言ったのに竜二はその話題には一切触れず、まだ俺を励ましてくれる。もう今後、会えるのかも分からないのに。
「竜二はどうだった?」
「全然ダメだった。それに俺、もともとセンター捨ててるしよ」
「そっか」
「あのさ、俺、あの夜、あんなこと言って、ごめん」
竜二が少し黙った。
「……気にすんなって。別れて正解だったのかもよ、俺たち」
「正解?」
「正解ってのはちょっと違うか。でもさ大地は、きっと俺のことをずっと考えてくれてたんだよな。引っ越すって伝えてから、おまえ、ちょっと変だったもん。感情を出さないっていうかさ」
「変だったかな?」
俺は竜二に見透かされたのかと思うと、恥ずかしくなってとぼけた。
「変だった。俺、絶対、引っ越さないでって泣かれるのかと思ったもん」
「竜二は俺のこと、なんでも知ってるね」
俺は竜二に引っ越すって告白された夜、家でずっと泣いていた。
「あぁ、おまえのこと大好きだったからな」
大好きだった、だったか。過去形か。
「ありがとう、あっ学校行かなきゃ。ハリマーが待ってる」
俺はセンター試験の自己採点の結果を学校で伝えなきゃいけないことを理由に電話を切った。本当はこれ以上竜二と喋ってしまうと、自分が壊れそうで泣いてしまいそうだったから。
「おう。俺は大輝と勉強してくるわ」
大好きな人の声がこんなにも苦しいと思ったことはない。
学校に行くと玲花と向井もいた。
「大地、どうだった?」
玲花が俺に聞いてきた。
「数学と生物やっちゃったかも」
「あたしもなんだけど。あれはないわ〜」
「そんなに難しかったのか?」
「あんたは良いわよー」
玲花の喋り方がお母さんそっくりになってて笑えた。
「いや、一応、俺も受けたんだぜ。ハリマーにも受けれって言われてたし」
「新井、ちょっといいか」
ハリマーが教室に来て、呼び出された。
進路指導室に着いて、センター試験の自己採点表を渡した。ハリマーは少し残念そうだ。
「う〜ん。国語、世界史、英語はいいんだが、特に英語は。ただやっぱ数学と生物が足引っ張ってるな。まあ、今年は全体的に生物は難しかったらしいが。第一志望の国立横の水、やっぱ厳しそうだぞ。第二志望の地元の国立なら、過去の例からして、可能性もないわけじゃないが。まあ、どうだろう。新井、どうする?」
ハリマーは時にはアドバイスをくれるが、生徒の気持ちを第一優先してくれる。
「うーん」俺は返事に迷った。
「じゃあ取り敢えず、二つとも二次は小論文と面接だから、それに備えて準備しような。あ、あと、私立の第一志望の水城の文学部はセンター利用で大丈夫そうだぞ。受験科目が国語、世界史、英語だけだからな。でも一応、一般も受験しといたほうがいいかもな。まあ、親と相談しろよ」
俺は進路指導室を出た。
【たぶん、地元の国立、受けると思う。でも、まだ分かんない】竜二にTWINした。
【そっか。頑張れよ】ってすぐに返事がきた。正直、もう横の水に受かる気はしなかった。ハリマーの残念そうな顔見て、余計虚しくなった。ただ、それと同時に、もしかしたら国立落ちて、水城受かって、東京で大学生活を送れるんじゃないか、上京したらまた竜二に会えるんじゃないかという、淡い期待も出てきた。来週には水城の地方試験が待ち構えている。俺は俄然やる気が出てきて駆け足で教室に戻った。だが、教室のドアを開けようとした瞬間、俺と竜二はもう別れてるんだったと再確認した。
「ハリマーなんてった?」
向井が心配そうに聞いていきた。俺は国立は厳しく、水城なら大丈夫そうと告げた。
「じゃあ、俺たちまたみんなで東京で遊べるじゃん」
「別れたから」俺は向井と玲花にそう告げた。二人はお互いを見ている。
「大地、トイレ行こうぜ」
「俺、大丈夫だけど」
「いいから、いいから」向井が俺の肩を押しながら、トイレへと誘導してきた。
とりあえず俺は用をたし、手を洗った。
そしたら後ろから向井が肩から包むように抱いてきた。
「大地、俺らがいるからな」俺はとりあえず、ズボンで手を拭いた。
「ありがとう」鏡に映る俺たちの姿を見て、向井と付き合っている後輩の木崎に申し訳なくなった。
「俺が、いるからな」向井が頬をくっつけてきた。向井の頬は少し、温かかった。
俺はこれが竜二だったらと考えながら答えた。
「うん。ありがとう」
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