第32話 一月初旬

 あんな別れ方したけど、大地怒ってないかな。流石に怒ってるか。でも、大地が先に言い出したことだしな。TWINすべきかな。いや、やめとこう。俺は毎日こうやって携帯と睨めっこしていた。東京で友達もいないし、とりあえず、図書館で勉強するか。俺は近所の都立図書館を目指した。


 東京って公立の図書館なのにすげぇモダンで綺麗で毎回感動させられる。モダンって、モダンとか分かってんのかよって自分にツッコミを入れる。東京に来て二週間もしない内に、俺ってもう東京に被れたのかな。


 今日は結構人、多いな。俺は空いている席に座り水城大学の赤本を二冊出した。

「へー水城の経営と心理学部、受けるんだ」

 小声で隣の奴から話しかけられた。俺は返事をするべきか悩んだが「はい」と応えた。

「俺も経営受けるよ」

「そうなんですか」髪が茶髪だから、年上に見えるが同じ受験生か。

「君さ、ここ最近、急に毎日来てるよね?」

「いや、こないだ引っ越してきたんで、家以外、ここしか勉強するとこ知らなくて」

「え。どっから来たの?」

「広島です」

「広島? 修学旅行で行った! 原爆ドームでしょ? あと、じゃけんとか?」

「いや、はぁ、まぁ」なんだこいつ、グイグイくるな。東京こえ〜。

「俺、すぐそこの都立明記高校の三年、荒井大輝。よろしく」名前を聞いてドキッとした。

「あ、ら、い……だい、き?」

「そう。荒井大輝」

 なんという偶然なんだ。大地と一文字違いだ。

「伊吹竜二です。よろしくお願いします」

「竜二って名前、なんだか強そうで、かっこいいね」

「はぁ、ありがとうございます」

「携帯番号交換しない? 東京紹介するよ」

「はぁ、ありがとうございます」

 俺たちはTWINを交換した。

「すみません、静かにしてもらっても良いですか?」

 目の前で勉強している女性から注意を受けた。

「すみません」俺はすぐさま謝り、勉強を始めた。荒井大輝と名乗る隣のやつは会釈だけしていた。


 ある程度のとこまで進んで、集中が途切れたので俺はカバンを置いて、席をたった。引っ越す前は図書館の自習室が狭くて、カバンを置かないと誰かに席を取られるからついつい癖で。


 外にある自販機で何を飲もうか選んでいる最中に、後ろから話しかけられた。

「いたいた! 竜二くん、カバン置いて、どっかいっちゃうんだもん」

 さっき話しかけてきた荒井大輝だった。俺のカバンを持ってる。

「え、俺のカバン」

「カバン忘れて帰ったのかと思った」

 笑われながらカバンを渡された。

「え、いや、席取ってただけです」

「危ないよ、盗られたらどうするの?」

「え、誰かとるんすか?」

「まあ、盗られてる人は見たことないけど、人の出入りも激しいし、東京ではあんまりお勧めしないかな」

「ありがとうございます」

 俺はあったかい紅茶秘伝のボタンを押した。

「敬語やめない? 同じ学年だし」

「わかりました」

「敬語じゃん」

 俺は笑われた。

「お、おう」

 急に敬語からタメ語になったら変に感じた。

「紅茶秘伝美味しいよね、俺も買おっと」

 荒井も俺と同じあったかい紅茶秘伝を買った。こんな時、大地だったら絶対、お汁粉を選ぶだろうな。

「竜二くんがよかったらさ、このままお昼食べに行かない?」

「いいよ」

 俺は別に予定もなかったし、行くことにした。

「この近くにさ、美味しいイタリアンがあるんだよね」

 東京のやつは、やっぱ違うな。


 それから俺は荒井と一緒にイタリアンを食べ、図書館に戻り、勉強を再開した。荒井が東京でどんな高校生活を送ってたのか、なんで水城に行きたいのかなど、語ってくれた。俺は初めて東京で友達が出来て嬉しかったのか、久しぶりにTWINのあのグループにメッセージを送る勇気が持てた。


【よ、竜二様の登場だぜ( ͡° ͜ʖ ͡°) みんな元気か? 俺は今日、図書館で初めて友達ができました。しかも名前がさ、荒井大輝って言うんだぜ。大地と一文字違い。うけるっしょ?】


【久々すぎて まじ 誰かわかんなかったんですけど✌︎(‘ω'✌︎ ) 玲花も元気だよ♪(´ε` )】


【おう、竜二。お前もっと早くメールよこせよ。俺も木崎も元気だぞ】


【名字の漢字違うし、俺、新井だし。元気だよ】


 俺たちのTWINのグループがまた活発になった。

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