第23話 10月初旬

「大地、本当に横の水の看護に行きたいの?」

酢豚を取ろうとした時、お姉ちゃんにいきなり言われた。

「うん。とりあえず国立だし、合格圏内だし」

「それだけ?」

「うん……」酢豚のパイナップルを口に入れる。

「お母さんが看護師だから?」

「う〜ん……」物心ついた時から、お母さんはいつも病院で働いていた。今日も夜勤でいない。

 父さんが黙って酢豚を食べている。

「あんた、看護師ってそんなに簡単なことじゃないのよ」なんでそんなに突っかかってくるのか分からない。

「わかってるよ……」実際、本当はどこの大学に進学したいかなんて、ない。看護師になったらお母さんに喜んでもらえるんじゃないか。ただそれだけで決めた。

「まぁまぁ、どこでもいいじゃないか。大地の好きなところで」黙っていたお父さんが口を開いた。

「お父さんは大地にいっつも甘いんだから」

「あたしはSMART目指すよ」高一の妹が生意気に喋り出した。


「SMART……か」


 俺はあることを思い出し、速やかに食事を終え、お姉ちゃんに腹を立てながら自分の部屋に戻った。夏休みに、竜二と行った水城大学オープンキャンパスでもらったパンフレットのことを。あの日、横の水大学に朝から行った後、同じ駅の反対側だからって竜二がいきなり言い出して、水城大学のオープンキャンパスにも参加したんだっけ。


 見つけた。勉強机の大きい引き出しに入っていた。あの時、東京なのに、ダダ広い緑豊かなキャンパスに、俺は感動したのを覚えている。読み進んで行くうちに水城大学も悪くないかと思い始めていた。ただ、俺は竜二と一緒に大学生活を送りたかった。


 とりあえず、携帯で「水城大学 偏差値」と検索をかけてみた。有名私大ということもあり、やっぱり全学部、偏差値が高い。俺の偏差値は今、六十五ぐらいだから……文学と心理ならいけるか。


 俺は竜二にTWINした。


【竜二さ、水城大学も受けるんだっけ?】


 すぐに返事がきた。


【分からん】


 あっけない返事だった。そしてすぐに【たぶん】と来た。


 変なのって思いながら、現代文のセンター過去問を開いた。 


 次の日、学校で大学入学共通テスト模試が行われた。そして、俺は初めて第二次志望校の欄に水城大学心理学部と埋めた。

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