第17話 8(八)月中旬
あれから竜二とは口も聞いてない。帰りの新幹線でも喋りたくなかった。
せっかく竜二が好きそうなショップとかレストランとか、調べて行ったのに。「疲れた〜。まだ歩くの〜」って。今でもあの時のこと考えたら腹が立ってくる。でも、竜二がおでこにキスしてくれたことは、忘れらない。忘れたくない。TWINが鳴った。向井からだ。
【竜二と何があったか知らないけど、今日の花火大会は来いよ】
十八時に駅に集合し、歩いて会場に向かった。十九時半から港での打ち上げが始まるのだが、すでに駅にはすごい数の人がいた。会場までの道のりはお祭りみたいで道の両脇に屋台がずらりと並んでいる。なんだか幼い頃に戻ったみたいだ。
「大地、浴衣良いじゃん」
「向井だって」
向井は白の浴衣に紺の帯。
「え、玲花のも見てよ。髪もアップにしたんだから」
「自分でやったの?」
俺は驚いた。
「お母さん」
「だよなー」
向井とハモった。
「あれ、竜二じゃない?」
玲花が、優子と一緒に歩いてる竜二を見つけた。
「なんで優子と?」
玲花が続けて質問してくる。
「俺が、一緒に行けばって言ったんだよ」
「なんでそんなこと言ったのよ」
向こうも俺たちに気づいたのか手を振りこちらに向かってくる。
「春樹、玲花……だ、いち」
竜二が少し気まずそうに俺を見る。優子は嬉しそうに話しかけてくる。
「来てたんだ〜、玲花の浴衣、かわいいじゃん。ねぇねぇあの型抜きやった? 伊吹くん超下手でさ」
俺は知ってる。竜二、指太いし、不器用だもん。
「俺、トイレ言ってくる」
あまりにも気まずいから俺はその場から逃げた。
「俺も。優子、春樹と玲花と一緒に先、行っいとて」
竜二が俺に付いてきた。
「なんで付いてくんだよ、優子に怪しまれるだろ」
「どうでもいい。それより、おまえまだ怒ってんのかよ」
「別に怒ってない」
「TWINも無視するしよ」
言い返せなかった。
二人黙ったまま早歩きで駅まで戻ってきた。駅に着いても歩みを止めず、俺はどこを目指すこともなく、歩いていた。
「大地、まじで待てって」
「付いてくんなよ」
「マジで」
竜二がイライラし始めたのが分かった。俺は止まって周りを見渡した。
「ここ……」
「ハトポッポ公園」
「ハトポッポ……竜二何それ、ハトポッポって」
なぜかハトポッポの響きがツボにハマった。笑いを堪えられない。
「ハトポッポ。そうだよ、ハトポッポ」
「竜二、やめてよ。俺、だめ、その響き」
俺たちはブランコに座った。
「大地よ〜、もう怒んなって。悪かったて思ってるしよ」
「もういいよ、竜二」
「俺たちって何何だろうな」
竜二が星空を見ながら聞いてきた。
「そうだね。俺たちって何何だろ」
「俺らって付き合ってんのかな」
「そうだね」
「付き合ってんのか……」
「そうだね」
なぜか笑顔が止まらなかった。
「そうだね、そうだねって。おまえ、そうだね星人か」
「何それ? あっ!」
俺はブランコからジャンプした。二人が同じ方向を見つめる。
ヒューーーーーーーードン パラパラパラ
「花火だ」
竜二もブランコから飛び降りた。
俺はそっと大地に寄り添い、手を繋ぐ。あの時、大地が教えたくれた繋ぎ方で。
「言ってなかったけどさ、浴衣、似合ってるじゃん」
「竜二も、カッコいいよ」
花火がまた上がる。
「花火ってさ、やっぱキレ」
「竜二、シッ」
人差し指で唇を一瞬、押された次の瞬間、キスをされた。
俺たちはゆっくりと目を閉じ、お互いの唇の感触を確かめ合った。あの東京での晩の様に。
目を開けたら、そこには少し恥ずかしそうな大地がいた。俺は繋いでいた手を離し、大地の胸に手を当てた。
「大地の、心臓の音。こうやってちゃんと感じるの初めてだな」
大地の手を取り、その手を俺の胸に当てた。
「竜二の、心臓の音」
「彼氏の心臓の音」
「彼氏の……」
大地は微笑んでいた。
そして俺たちはもう一度、濃厚なキスをした。誰にも見つからないように。
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