第16話 Beginning of August 〈東京編3〉

 窓から東京の朝日が降り注ぐ。俺は慎重に、ベッドから起きあがろうとした。でもグイッと腕を引っ張られ、ベッドに戻された。


「もう起きるのか?」

「オープンキャンパス」

「何時から?」

「十時」

「まだ七時じゃん」

「こっから一時間ぐらいかかるし」

「そしたらここ九時に出ればいいだろ」

「シャワー浴びてくる」

 

 俺はベッドから飛び降り、洗面台に向かった。鏡に映る自分を見て、首元にはキスマークがついてる。俺は少し悲しかった。

 「キスマークつけるなよ」俺はそれを触りながら独り言を言った。


 シャワーを浴び終えると「コーヒー飲むか?」と聞かれた。

「いい」

「お前なんでそんな不機嫌なんだよ」

「朝、苦手だし」

「お前、やっぱかわいいな」

「なんで?」

「変わらないからさ」

「変わらないか……」


 俺たちはオープンキャンパスへ向かった。

 デートみたいだった。楽しい時間はすぐに過ぎるって言うけど、楽しかったのかな……

 大学の夕暮れ時は活気あふれていた。人気のいないとこで俺は「なんで、こんなに優しくするんだよ」と聞いた。

「なんでって……」言葉に詰まってるように見えた。

「好きだからに決まってるだろ」その言葉、卑怯だよ。

「一人で帰るから」あの場所にいるのが辛かった。二人っきりでいるのが辛かった。でも好きだった。

 

 ホテルの部屋に着くとなんだか騒がしい。


「竜二なんでわかんないの?」

「知んねーし」

「疲れた、疲れたって文句ばっか」


 そんな会話がドアを開ける前から聞こえてくる。やっぱこの二人には俺がいないとダメなのかなと、少し元気がでた。


「大地、竜二、ただいま」

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