第13話 8月上旬

「大地、新幹線のチケット持った? 菊池さんとこに迷惑かけたらダメよ。これ、なんかあったら使いなさい。リュックの後ろの方に入れときなさい」


 お母さんから封筒を受け取る。昔から心配性だ。


 昨日、自分の口座から下ろした3万円がちゃんと財布に入ってるか確認し、リュックと小さいスーツケースを持って車から降りた。お母さんが何度も玲花のお母さんにお辞儀しながら、車の窓越しに何か話している。「ほんとにすみません」と聞こえてきた。


 待ち合わせの新幹線が通る駅に着いたのが、俺が一番最後だった。寝坊してくるかなっと思っていた竜二が意外にも、一番早く着いたらしい。


「なんかワクワクするな」

 というか、竜二、ソワソワしてるけど。


「竜二、落ち着けよ」

 向井が竜二を落ち着かせながら、俺ら5人、新幹線乗り場まで向かった。電光掲示板に乗る新幹線の番号が表示されている。エスカレーターでホームに上り、上り新幹線が来る十三番乗りばに到着した。


「俺、お茶と弁当買ってくるわ」

 向井がホーム内のコンビニへ駆け足で行った。


「竜二、お昼どうするの?」

「あ、やべ。買ってねぇ」

「俺のおにぎりあげる。そう思って、余分に持ってきたんだ」

「お前というやつは、なんて優しいんだ」

「えーあたしも買ってないんですけど」

 玲花が話に割り込んでくる。

「大地くんは本当に優しいわね。おばちゃん微笑ましくなっちゃう」

「お母さん、話に割り込んでこないで」

「はい、はい」

「玲花ってさ、母さんに厳しいよな」

 竜二がボソっと俺の耳元でつぶやいた。

「聞こえてるんですけど!」

「玲花、何怒ってんの?」

 コンビニから帰ってきた向井の手には、お菓子がいっぱい入ってる袋があった。

「これ、一緒に新幹線のなかで食おうぜ」


トルルルルルルルルルル


「あ、あたしたちの新幹線来たよ」


 俺たちは新幹線に乗り込んだ。窓側から玲花のお母さん、玲花、通路を挟んで、向井、俺、竜二の順で座った。最初は修学旅行みたいだなって言いながら、テンションが高かったが、1時間もすればみんな寝てた。


 でもなんで向井も竜二も俺の肩で寝てるんだ。


「ん〜大地、腹へった」

 しばらくして竜二が欠伸をしながら起きた。俺はリュックからオニギリを2個出した。


「シャケ?うめ?」

「う〜ん」

「いいよ。ふたつ食べて」

 竜二にオニギリを渡した。

「大地、これってさ。もしかしてさ、もしかしてよ? お前の手作り?」

「うん。毒入れてないから、安心して。って竜二、写メ撮らなくていいから」

「お前、これ撮らなきゃ、何を撮ればいいんだ」

「俺・・・とか?」

 自分で言っときながら照れてしまった。

「お前ら・・・」

 騒がしい俺らのせいで向井が起きた。

「俺が撮ってやるよ。お前ら二人一緒に。携帯貸せ」

 竜二が「すいません」って言いながら、向井に携帯を渡した。

「はい、チーズ」

 カシャ

「え。何それ。みんなで撮ろうよ」

 玲花が携帯奪ってみんなが入るようにセルフィーを始めた。

「玲花、周りに迷惑でしょ」

「竜二、後でみんなにシェアしてね」

 玲花が竜二に携帯を返した。


〈次は品川です、 降り口は左側です〉

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