第12話 七月下旬 

 いよいよ来週か。俺は頭の中で何度も確認したが、教室に向かう廊下を歩きながら「来週だよな」と、大地に確認する。だって何度も大地と確認したい。


「うん。もう、朝から何回聞いてんだよ。来週だって」

 大地が少しウザそうにこっちを見てくる。


「ほら、大地と東京いけるの嬉しすぎてさ」


「そうなんだ。でも、俺もだよ、竜二」


「ハウッ」

 こんなに可愛い子から、直球でこんなことを言われたら、思わず声が漏れてしまった。


「なんだよ、ハウって」

 大地に笑いながらこっちを向いてツッコマれた。俺はその笑顔に毎回ヤラれる。


「俺、鼻血出てない?」

俺はこんなことでのぼせたのか、冗談まがいに慌てて確認した。


「出てない」

 大地が最近、以前より笑ってくれるし、俺に対して心を開いてくれたのか、正直になってる気がした。


 教室のドアを開けた。

「あれ、誰もいね〜」

 俺の声が空の教室で虚しく響く。


「夏休みだし、そのうち来るんじゃない? まだ九時ちょうどだしさ」

 大地が机を動かし始め、俺の机と向かい合わせにした。


「竜二の顔見ながら、勉強していい?」って聞かれて俺はもう有頂天だ。

そして俺は、がらんとしている教室に大地と二人っきりでいる状況に少しエロさを感じてしまった。それが後押しして、舞い上がってしまい、ちょっと調子に乗ってしまった。でも、これが大地に触れたいという俺の最大限の誘いだ。


「大地、手を繋いでいい?」


「別にいいけど、他の人がきたらどうする?」


 俺は何も言わず、机の下で足を絡め、誰が来ても見えないように、壁側の方の指先を握った。

 大地が少し物足りなかったのか、次のステップに突入してくる。


「恋人繋ぎ、してみる?」


 恋人? 恋人? 恋人なの? 俺たち。恋人なの? でも付き合ってくださいって言ってないし。そんなことを俺は考えてる間に同意した。


「お、おう」

「こうやって繋ぐんだよ」


 肘を机につき、手のひらを合わせ、少し指をずらして、交互に絡ませ、ギュッとされた。俺は今、ここに担任のハリマーがいて、立てと言われても絶対に立てない。緩めなボクサーパンツだったため、あそこがあからさまになっていた。


「ちょっと恥ずかしいぜ、大地」


 俺は大地のことを直視できない。


「恥ずかしくなんか……ないよ、竜二」


「大地、俺、あのさ、あの。これがヤバイ」


 俺は目線を下にした。大地はすぐに理解したのか「俺も」と少し照れ笑いしながら言ってくれた。


 意外にも大地が手を離し、椅子を少し引いて、靴を脱いだ。そして俺の足元から徐々に、いまにも下着とズボンを突き破りそうな場所を右足で器用に触れてきた。俺は他人に初めて触られる感覚に力が抜け、声が出そうになったがえて吐息だけ出した。俺も同じ様にしたら、大地も吐息が漏れ始めた。


 俺たちは教室に誰もいないことをいいことに、少し大胆になっていた。けど、止められない。


 俺はもう我慢出来なくなり、立ち上がり、座っている大地の目の前に立った。大地から始めたのに、今度は急に恥ずかしがっているのを見ると、俺は余計興奮した。


大地が俺の顔見て吐息以外に発した。


「竜二、俺、初めてだから……」


「俺も……初めてだから…」


 俺は大地のに触れたくて左手を椅子の背もたれの左端に着いた。そして右手で大地のを確認し撫で、自然と前屈みになり、唇を重ねた。

 初めて舌を絡めたキスをした。大地が俺の舌を受け入れてくれる感覚、2人の口の中でお互いの舌が出入りする感覚に俺は無我夢中になっていった。


「んッ、ハァ」


 時折り、大地がこの吐息のようで喘ぐような声を出す。



「いやマジでー、ゆうンゴも自信持ちなって」

 いきなり外から女子の大きい声が聞こえてきた。


 俺たちは今までに見たことのないような速さで勉強スタイルに戻った。そして適当な会話を始めた。

 大地への想いも、俺の心臓も、正直なところ、俺のあそこも爆発寸前だった。


 ガラガラガラガラと、教室の後ろのドアが開いた。

 女子生徒二人が仲良く入ってきた。


「竜二じゃん、大地もいんじゃん」


 二人が近づいてきた。俺らは二人して股間の膨らみがバレないように座っている椅子を思いっきり机に近づけた。


「てかさ、竜二、優子がさ、お前と8月の花火大会行きたいんだってさ」


 一瞬にして萎えた。サッカー部のマネージャーだった優子の隣にいる、未来みきが話しかけてきた。


「ちょっと、未来みき、いいって」

「花火大会? 俺、春樹と大地と玲花と行くんだよね」


 約束してはいないが、これを回避せねば。大地と行きたいんだ、俺は。


「そっか」

 優子が残念そうに頷く。


「いいじゃん、花火大会くらいさ。お前らいつも一緒にいるだろ」

ギャルの未来みきはグイグイくる。俺は大地の方をちらっとみた。


「行ってあげれば?」

 大地が頬杖ほおずえをつきながら言ったきた。


「いえーい、決まりー。よかったな、優子」さすがギャルのノリ。


「ほんとにいいの? 竜二くん」


「まあ、大地がそう言うなら」

 俺は渋々、了承した。


 家に帰って、俺はすぐにシャワーを浴びるため、脱衣所に向かった。


 大地になんで優子のOKしたのかってTWIN《トゥウィン》で尋ねると、「だって竜二はみんなにカムアしてないでしょ? 変に疑われたらいやじゃん。みんな竜二は、人一倍優しいから俺と一緒にいるんだって思ってるしね」とすぐに返事がきた。


 本当は俺だって大地みたいに堂々としたい、と思いながら履いていた黒のボクサーパンツを脱ぐと、大きなシミが付いていた。俺は洗濯カゴの下の方に入れた。

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