第10話 七月初旬

 キスしちまった。大地にキスしてしまった。俺はとうとう一線を超えてしまった。でも、大地も俺の気持ち受け入れてくれたっぽいしな。あーでもこれからどう接していいか。俺はそんなことを朝から考えながら、春樹にTWINした。


〈緊急集会。十一時に駅前カフェループ〉


すぐに携帯がTWINと鳴り、【OK】と返事がきた。


 カフェループのドアを開けて見渡すと、春樹はいつも通りお洒落して、先に席に着いて待っていてくれた。テーブルを見ると着いたばかりなのか、まだオーダーはしてない様子だった。


「で、何?どうした?」


 俺が椅子に着いた途端、聞いていた。


「それがさ〜俺さ〜キスしちまったんだよね」

「ご注文……」


 ウエイターさんがタイミングよく来てしまい、固まってしまった。


「あ、コーヒーください」

「コーヒーひとつですね。ミルクとお砂糖いかがいたしましょうか?」

「ミルクだけ、お願いします」


春樹が丁寧にお願いしている。


「そちらのお客様は?」

「アイスミルクティーで」

「すぐにお持ちいたしますね」


 ウエイターさんが少しニヤケながらテーブルを後にした。


「キスしちまったんだよ。それがさ、ほら、あれがあれでさ。非常階段で、あれよ。あれ」

「いや、あれって何だよ」

「あれよ」

「いや、わかんねーし、お前、落ち着けよ」


 春樹はいつも落ち着いている。俺も落ち着こうとした。


「で、誰と?」

「だ、だ、だ、だ、大地と」

「お先にコ、コ、コ、コーヒーで〜す」


 またウエイターさんの前で発言してしまった。


「ありがとうございます」


 春樹が軽くお辞儀し、コーヒーを受け取ってった。


「で、なんでそんないきなり?」


 春樹がコーヒーにミルクを入れて混ぜながら、聞いてきた。俺はミルクティーを飲みながら経緯を話した。春樹は「なんだその青春ラブストーリーは」って笑っている。


「よかったんじゃない? お前、ずっと好きだったし」

「そりゃ、嬉しいしさ。大地の唇ってめっちゃ柔けーの」

「聞いてない、聞いてない」


 目の前で手を左右に振られた。


「でもさ、これからどう接していいか分かんないんだよね。TWINでさ、メッセージ送りたいんだけど、なんて話していいか、わかんないしよ。あー俺はどうすりゃいいんだ。迷える子羊なわけよ」


「普通にすれば?」

「普通にできてれば問題ないっしょ」


 俺は机に伏せてしまったが、あることを思い出した。


「そういえばよ、春樹、引退試合の時、玲花から手紙もらってじゃん? もしかして、玲花に告られた?」

「ちげーよ。あれ、祐介からの手紙。俺たちの恋は完璧に終わりを迎えたわけ」

「そうだったのか。なんかごめんな、力に慣れなくて」

「いいんだよ、これで。遠距離ってやっぱり難しいしな」

「そっか……難しいか。あ、やべ」

 

 俺は咄嗟に机の下に隠れた。春樹が「なんなんだよ」と言いながら机の下を覗き込んでくる。


「大地、大地、綺麗な女の人と一緒」


 俺は小声で春樹に一生懸命伝えた。


 春樹がカフェの入り口に目をやると、そこには大地と女性が一緒にいた。


「竜二、あれ大地の姉ちゃん。地元の大学に通ってるんだってよ」

「あれ、向井! 何してんの?」


大地が向井を見つけた。


「向井くん、久しぶりじゃん。また一段とイケメンになって」

「こんにちは、大地の姉ちゃん。」


 大地が俺を見つけたのか急にしゃがみ込み、俺を凝視してくる。


「竜二、こんなとこで何してんの?」


 ちょっと呆れたような声だ。


「いや、コンタクト落としてさ」


「裸眼んじゃなかったっけ?」と大地に言われ、ハハハハと苦笑いし、立ち上がり、椅子に座った。立つ途中にテーブルで頭をドンッとぶつけた。


「大丈夫?」


 綺麗な女の人が、笑いながら言ってきた。


「大地くんのお、お、お、お姉様。大丈夫です。こんにちは、大地くんと同じクラスの伊吹竜二です。」


 俺よ、鎮まれ。声まで裏返ってしまっているではないか。


「あ、君が竜二くん。大地から色々聞いてるよ〜」


 なんだこの意味深な言葉は。


「いつも助けてくれるって。」

「姉ちゃん、変なこと言わなくていいから、コーヒー買ってきて、俺タピオカ入りミルクティーね」

「はいはい」


タタタタタピオカ入りミルクティーだと。なぜだ、なぜか分からないが大地が発すると、全てが可愛く、愛おしく聞こえる。


「竜二、今日変なの」

「大地、これから何すんの?」


春樹、ナイス質問だと心から思った。


「これから、姉ちゃんの大学のオープンキャンパスに行くんだよね」

「オープンキャンパス?」

「そ、大学がどんなとこで、どんなことをするのか、色々説明してくれるらしいよ。まさか、竜二知らないとか?」

「知ってる、知ってる。そりゃ知ってるさ。あれだろ、あれ。そうあれ!」

「二人も来る?」

「いや、俺はいいや。今日この後、塾だし」

「竜二は?」

 

 どうすべきなんだ、俺よ。ここは一緒に行くべきか。一緒に行けばデートか。いやお姉様もいるし、デートじゃないか。


「大地、電車の時間!」


 大地のお姉さんが慌てて、コーヒーとタピオカ入りミルクティーを持って戻ってきた。


「あ、ほんとだ。じゃ、また月曜学校でね」

 大地は去っていった。


TWINが鳴り携帯を見ると、無事に電車に乗れたのか大地からだ。


〈ばーか(*´꒳`*)一緒に行きたかった〉


 キュン死にだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る