第7話 6月初旬

 中間試験の結果が返ってきた。

 竜二が毎回、俺の点数を気にする。

「大地、何点だった?」

 そして教えるたびに「まじか」とうなだれている。どうやらあまり良い出来ではなかったらしい。でも引退試合もあったことだし、集中出来なかったんだろう。向井は向井で、テストはよかったらしいが、なんか落ちこんでる。あの時の手紙が原因なのかな?

 

 引退試合の日、応援してたら隣にこないだ校門で見た人が座ってきた。


「君が大地くん?」

「はい。そうですが・・・」

「お兄ちゃん?」

「よ、玲花。元気にしてた?」

「おはようございます」

「大地くんは春樹の友達だよね。たまに君の話をきくよ。良い子だって」

「向井がそんなこと言ってたんですか?」

「玲花さ、春樹には俺が来たこと言わないでくれるか。あと、これ春樹に渡してくれ」

 玲花に手紙をあづけて、去っていった。


 この時すでに、俺も向井がゲイだって知っていた。向井も俺がゲイだってことを。英語スピーチコンテストに、春樹に見に来てもらったからだ。

「Because I am Gay and I am Happy」これが最後の文。玲花と向井はスタンディンオーベーションしてくれた。あの時の光景は忘れられない。特別審査員賞を受賞した。コンテストが終わって、二人のところに駆け寄ると、向井が抱きしめてくれた。

「俺もゲイなんだ」

 向井が言ってくれた。

「俺のゲイレーダー外れた」

 二人して笑った。

「あの〜取り込み中失礼いたしますが、あたしもここにいるんですが・・」

 玲花が少し怒った感じに割り込んできた。

 そして3人で笑った。

 

 でもなんで竜二は原稿を渡したのに、何も言ってこないんだろ? それともあの英語が理解できないとか。いや、それはない。簡単な単語使ってるし。もしくはなんで自分は招待されなかったんだって怒ってるのか。でも怒ってたら話しかけないよな。まあでも俺からあのスピーチについて話すのもな。

 

 六時間目に残っていた英語の中間試験の結果が返ってきた。八九点。まあまあかな。後ろからため息が聞こえる。絶対竜二のため息だ。振り返ると机に伏せていた。

「竜二、大丈夫?」

「大丈夫じゃない。六十点・・・親に怒られる〜。あっ大地さ、今日放課後なんかある?」

「何もないけど」

「そしたらさ、英語教えてくんない?」

 竜二が子犬みたいな目になってる。

「いいよ」

「ありがと」

 頭をポンポンされた。

 

 放課後、向井が「俺、塾あるから、先に帰るよ」って教室を出た。俺たち二人だけになった。竜二に英語を教えてるのに竜二は俺の顔ばっか見てる。しかもすごい上機嫌。

「あのさ・・勉強する気・・ある?」

「あるある。まじある。でもさ大地の顔見てるとなんだか幸せな気分になるんだよな」

「何それ?」

「ほら、なんかハムスターみたいな」

 頬をつねってくる。

「ハムスター? いいからここの助動詞はさ」わかりやすく説明するために竜二の隣に移動しようとした瞬間、竜二が俺の腕を引っ張った。自然と竜二の膝の上に座ってしまった。その姿はまるで竜二がでかいぬいぐるみを抱くような感じだった。

「大地、じっとして。なんのシャンプー使ってんの?いい匂いがする」

「え。最近CMでやってるいちごのやつ」

「かわいい〜」

 俺は恥ずかしくなり顔が熱くなるのを感じた。

「大地、耳、赤くなってるよ」

 俺は竜二を振り払い、冷静になるために外に出ようとした。

 教室のドアが勝手に開いた。目の前にはハリマーがいた。

「お前ら、勉強もいいがもう帰れ。学校閉まるぞ」

 

 竜二と俺は「はーい」と返事し、荷物をまとめ、駅に向かった。


「ねぇ、竜二。明日体育祭だよ?」

「知ってるー。大地、何、出るんだっけ?」

「クラス対抗リレーと玉入れだけ」

「少な! ってか、クラス対抗リレーと玉入れって全部、全員参加のやつじゃん。 俺は学年対抗、部活対抗、百メートル競争と・・・後なんだっけ?」

「自分の出る競技くらい忘れんなよ」

「クラス対抗リレー、一緒に頑張ろうな」


 クラス対抗リレーの結果は3位に終わった。

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