第5話 五月中旬
インターハイ予選地区大会まであと十日。俺と春樹は夜遅くまで練習に励むようになっていた。正直、実力的に、強豪校じゃない俺たちがインターハイに出場出来るとは思えない。それは春樹も分かっていた。しかも、くじ運悪く、最初の試合相手は優勝候補の南高校。けど最後まで諦めたくはない。きっと高校生活、最後の試合になるだろうから、悔いなく終わりたい。
「よし、今日の練習はここまで。一年は清掃よろしく」
キャプテンの春樹が合図を出す。ただ、そんなことを言いながら春樹はキャプテンになってからいつも、一年の清掃を手伝ってきた。キャプテンがやってたら、俺たちも見てみぬフリなんてできないじゃん? しかも、みんなキャプテンの春樹が好きだから文句も言わず参加するんだよな。これがリーダーシップってやつか。俺にはないな。大地もそういう向井が好きなんだろうな。責任感も強くて、誰にでも平等に優しく出来て。って何考えてんだ、俺。
「伊吹先輩、そこもう終わりましたよ」
「お、悪りぃ。考え事しててさ」
「どーせまた、女子マネの優子さんのこと考えてたんじゃないんすか?」
「ちげーわ」
「絶対そうっすよ。伊吹先輩、優子さんと仲良いし、いっつもタオルもらってるじゃないっすか」
「だからちげ〜っての」
ぐいぐいくる一年だな。
「俺、こいつの好きなやつ知ってるから」
春樹が笑いなが言ってきた。
内心、助かったーと思った。苦手なんだよな。ゲイじゃないやつと恋愛の話するとか。
日も暮れ、部室の鍵を閉め、正門へ向かっていたら、誰かがこっちに向かって手を振ってくる。え?大地か。いや違う。よく見たら、制服じゃないし。
「あれ。春樹、あれ、祐介先輩じゃね?」
「そうそう。今週末、地元に戻ってきてるんだよね」
「マジか〜。いいな〜。デートかい」
「春休みぶりかな」
俺たちは祐介先輩に近づき、挨拶をした。
「祐介先輩、お久しぶりっす」
「おー竜二 元気にしてたか? お前らもうすぐ試合だろ。頑張れよ」
「今日は今からデートっすか?」
「おう。春樹、もらっていくぜ」
「祐介、やめて」
春樹が突っ込む。
「悪りぃな、竜二。じゃ、また明日な」
春樹が謝りながら、祐介さんの車の助手席に乗っていく。
明日は土曜日で、午後練だからな。いいな、彼氏持ちは。くー俺も大地と一緒に夜過ごせたら……なんて妄想をしてると前屈みになってしまった。
祐介さんが運転する車が出発してすぐにTWINで春樹からメッセージが届いた。
【親にはお前んち泊まるって言ってるから、よろしく】
「誰あれ?」
人気のいない正門で後ろから誰かに話しかけられた。
俺は振り向くとそこには不思議そうにしている大地がいた。
「だ、だ、だいち! お前どっから出てくんだよ」
「いや、竜二たちが目の前にいただけだし」
大地は歩きながら、俺はチャリ(自転車)を手で押しながら、駅の方向に歩き出した。
「今の、誰?」
もう一度同じ質問をされた。
「菊池祐介先輩。俺らが一年の時の三年。元サッカー部のキャプテン。春樹がさ、なんか月末の試合に向けて、相談したいことがあるんだって」
「そっか。てか、月末の試合って?」
「インターハイ地区予選。ここで負けたら引退なのさ〜自由の身になるわけさ〜」
「引退……俺は明日の英語スピーチコンテストで引退かな」
「え? 明日? うそ、明日なの?」
「そう、明日。そんな驚くなし」
大地が笑ってくれた。
「なんのスピーチすんの?」
「内緒」
「いいじゃん、教えろよ」
大地は「う〜ん」って何かを考えてる。
「じゃあ、月末の竜二の試合が終わったら教えるよ」
「秘密主義かい」
「竜二だって」
大地が俺の脇腹を突っついてきた。俺は脇腹が弱いんだ。チャリがよろけるだろが。
「てかさ、携帯教えてよ」
俺はこれを言うのにどれだけシュミレーションをしたことか。
大地が携帯をいじりながら、返事が返ってきた。
「TWIN?」
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