第4話 五月初旬

 高校に入学して、初めて見た時から、あいつのことが忘れられない。入学式に校門の前で母親と一緒に写真を撮られながら、もういいよって不貞腐れたように父親に言ってた、あの肌が白くてツルツルで、つねりたいくらい柔らかそうなほっぺの、童顔くん。そしてたまたま、写真を頼んだ人が超絶下手くそだったのか、俺と母さんが一緒に撮ってもらった写真の端に、あの子が写りこんでいた。今、思い返せば、童顔くんは向井春樹と一緒にも、写真撮ってたっけ。


 こうやって毎日、後ろからその子の姿を見れるなんて、俺はなんて幸せ者なんだ。正直、頭の中はその子のことでいっぱいだ、童顔くん。


「ん?」


 大地がいきなり後ろを向いてきた。


「ん?」


 俺も同じ言葉を返した。


「いや、今なんか、竜二に呼ばれたような気がして」


「呼んでないよ」と言い、授業中だったため、俺は大地を前に向かした。

 

 え。もしかして、俺、今、口に出してた? いや、そんなわけない、そんなわけない。でも、あの保健室での出来事、ちょっと引かれてるよな。ぶっちゃけ大地がゲイである確信もないわけだし。

 

 俺と春樹は部活の後、自動販売機の前にある三段しかない階段に座って、月末にある試合の話をしていた。ただ、俺はどうしても春樹に打ち明けたいことがあった。


「なあ、春樹。球技大会の時さ、俺、大地に変なことしたかも」


「はぁ〜、変なことって何?」


 春樹が呆れた感じで俺の方を見た。


「いやさあ、大地が先生呼びに行こうとしたんだけどさ、俺、腕ぐいって引っ張って、引き止めたんだよね」


「おまえさ〜、俺はおまえが大地のこと、高一の頃から好きなの知ってるからさ、別になんとも思わないけどさ。大地はまだ、おまえがゲイだって知らないんだろ?」


「知らない、知らない。春樹にしかカムアしてないし」


「俺もさ、大地がゲイなのか未だに分からん。キャラなのか、本当なのか」


「はぁ〜、春樹〜、どうしよ〜」

 

 ため息が出た。


「どうするも何も、タイミングじゃね」


「そうだよな。俺たち今、大事な時期だし。もう今月末はサッカーの地区予選だしさ」


「向井。むーかーいー。一緒に帰ろ」


 大地が目の前から叫びながら歩いてくる。


「大地! なんでこんな遅い時間まで学校にいんの?」


 春樹が少し嬉しそうに近づく大地に尋ねている。


「今日部活だったし、竜二も一緒に駅まで帰ろよ」


 そうだった。大地は英会話部だった。俺はなぜ忘れてしまった。こんな可愛い子の入っている部活を。


 実際になんの活動をしてるか全く俺には予想はできないが。あぁ、大地が春樹にする笑顔ってやっぱり俺のとは、違うんだよなと、心の中で思い、一人悲しくなった。


「大地、なんか飲むか?」


 俺は大地の気を引きたかった。


「え、奢ってくれるの? 竜二」


「良いよ。こないだ世話になったしな」


「こないだって?」


 大地の質問に俺は足を指さし、大地にニコッとされ、大地に百円を渡した。


「どれにしよっかなー?」


 何を飲もうか考えてる姿もかわいい。後ろから抱きしめたい。見過ぎだと春樹に突っ込まれた。


「微炭酸のモッチにしよっ」


ガタン ピーピピピピピピピピピピ ピ ピ ピ ピロリロリン 


「ねえ、向井、竜二、当たったんだけど!」


「お前、ついてるな」


 大地の嬉しがる姿にキュン死にしてたら春樹に言いたいことを、先にこされてしまった。


「竜二、何飲みたい」


「ん?」


 春樹には聞かないのか。取り敢えずなんでもいいと返事をする。


「分かった」


 大地、何選んでくれるのかな。後ろからそっと差し出された。


「はい、紅茶秘伝。これ、好きでしょ」


「あ、うん。ありがと」


「ありがとって、元々は竜二の金だし」


 大地はモッチを開けて飲み出した。


「やっぱ微炭酸、最高。向井も飲む?」


 なに? 何? なに? 大地と春樹が間接キスをするなんて。何とかして阻止せねばと、ついつい口を滑らしてしまった。


「俺ももらっていい?」


「いいよ」


 その後すぐに、耳元で春樹に聞かれないぐらいの声で大地は俺に「間接キスになるね」と言ってきた。

 

 なんなんだ〜この小悪魔は。

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