賢者のお小遣い
三題噺トレーニング
賢者のお小遣い
久しぶりに先輩から電話があった。
電話口の彼はとても嬉しそうな声で「ようやく借金を返し終わったわ!」と言った。
先輩といえば、給料を入ったそばから全部使ってしまっていて、3万なんざ端金だ!と言っては、飲む打つ買うの全てを網羅している人だった。
きっぷもよくてぼくも良く奢ってもらっていた。以前など、高級な焼肉店でざぶとんという1皿3,000円もする目玉の飛び出るような肉を大盤振る舞いで奢ってくれた。
湯水のように金を使っては会社から借金をしていたはずで、その額はたしか100万円はくだらなかったと聞いていた。
「え、先輩、どうやって返したんですか?」
「実はよ……。鉱石、売ってたんだよな。ほらよくあるだろ、あの石の裏にびっちりついてるようなやつ」
あー……そっち系かあ……。面食らうぼくに先輩は続けた。
「言うなよ、他のやつに言うなよ」
「あー……はい。いいっすよ」
「オレさ、会社に内緒で土産物屋で働いててさ。近所の観光地の。場所は言えねぇけど」
「ん? あそこの観光地っすか?」
「そうそう。でよ、そこでよくあんじゃん、紫のでっかい石とかそういうの。あれ売ったりアイス作って売ったりとかしてさ」
「はあ……」
なんだ、思った感じと違うぞ。
「で、そこで出来た金で兄貴の子どもにお小遣いあげたんだわ、前に正月で帰ってきてたから。その時にさ、小3の男の子と小5の女の子に5,000円ずつ渡して。それでその子達に、とにかく金を使えって言ったの。貯めるな、って。兄貴にも言い含めてさ。これは教育だから。まずは金の使い方を覚えるべきだろうって。オレらにとっちゃふつうの金だけど、子どもにとっては大金じゃん?」
「たしかに、そうっすねぇ」
先輩曰く、そのお金で小3の男の子は腕時計を買ったらしい。名探偵コナンが大好きでカッコいい腕時計が欲しかったということで、その報告を聞いて、やっぱりこどもはパーっと使うもんだなと先輩は思ったらしい。
しかし、女の子の方は違った。
5,000円を細かく分けて、毎日コンビニでおやつを買ったり、リップクリームを買ったりと充実した使い方をしたそうだ。
そして、最後のお金で女の子は花を1輪買ったそうだ。ママ、いつもありがとう、という手紙を添えて。
それを聞いて先輩は己の金の使い方を猛省したそうだ。
そして100万円以上ある借金を9ヶ月近くで返し切って、晴々とした気持ちでぼくに電話をくれたらしい。
うーむ、天晴れだ。
なんとすごい使い方だろうか。
女の子のお小遣いが、まさか先輩の金銭感覚までも変えてしまうなんて。
その話を聞いてぼくもいたずらに浪費をするのではなく、すこしだけお金をかけて生活をちょっぴり豊かにすることで毎日を充実して暮らせるような、そんな小さな賢者の生き方を実践してみようかな、と思った。
賢者のお小遣い 三題噺トレーニング @sandai-training
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます