第37話 世界大戦
大正3年(1914年)
オーストリア=ハンガリー二重帝国の皇太子フランツ・フェルディナント大公が、オーストリア領ボスニアの首都サラエボでセルビア人スラブ民族主義者により銃殺。
これを受けてオーストリア帝国はセルビア王国政府に暗殺の責任があるとして、セルビアに対して懲罰戦争をもくろみ、屈辱的な内容の最後通牒を突きつけた。
セルビアは責任を認めて1条件を除いて基本的に要求を受諾すると回答したが、条件付き回答が気に入らないとしてオーストリアはセルビアに宣戦を布告した。
これに反応したのがロシア帝国である。そもそもオーストリアはセルビアの隣国のボスニアを併合した際に、ロシアに対してセルビアの独立を保障すると約束していた。しかし皇太子暗殺を機にその約束を破ろうとしているのだ。
ロシアはオーストリアに圧力をかけるために総動員令を発令。これにドイツ帝国が反応し、総動員を発令。さらにフランス共和国がドイツに反応して総動員を発令し、ドイツがロシアとフランス両国に宣戦を布告することにより大戦争が始まった。
◆ ◆ ◆
ドイツは露仏協商に挟まれており、この二か国がいつ何か口実を設けて挟撃してくると強く信じ込んでいた。そのため、これを撃退するために考案されたのがシェリーフェンプランである。しかしこの計画の肝である中立国ベルギーを侵犯してのフランス領強襲にイギリスが強く反対したため、作戦が変更されることになった。
ドイツ軍主力はメッツに配置され、ヴェルダンに向けて進撃するも山がちな地形で進撃はうまく進まず、フランス軍の強力な抵抗に会い、停滞。
さらに動員に一か月半を要すると想定されていたロシア軍が2週間で動員を終えて東プロイセンに侵入、急遽東に援軍を送らざるを得なくなり、フランスを短期間で撃破するのは不可能になってしまった。逆にフランス軍はアルザス=ロレーヌを奪還すべく西部戦線で総攻撃を開始。ドイツ軍が押し返されてしまう。
このまま露仏協商が挟撃で押し切るかと思われたとき、イギリスがドイツを救うためとして露仏協商に宣戦を布告。イギリス艦隊がフランス本土を封鎖した。フランスは広大な海外領土からの補給を絶たれ、動きがとれなくなった。
その間に独英連合艦隊はバルト海でロシアバルト海艦隊を撃破。東プロイセンに攻め込んだロシア軍の後背に逆上陸を仕掛けて、タンネンベルクにおいてロシア軍20万を包囲殲滅することに成功した。
これにより作戦の優位性を得た独英墺同盟は再度西部戦線でフランス軍に対して攻勢をしかけた。初戦の無理な侵攻で消耗していたフランス軍はヴェルダン要塞まで撤退。しかしフランスはパリの自動車という自動車を総動員してヴェルダンに援軍を送り付け、独英連合軍を食い止めることに成功。
これ以降、西部戦線は塹壕を掘っての睨み合いに移行することになる。
◆ ◆ ◆
戦争の原因となったセルビアに対してオーストリア軍は何回か総攻撃を仕掛けていたが、元からの山がちな地形もあり、はかばかしい成果は得られていなかった。一番の問題がロシア対策に大軍を割かないといけなかったことであり、さらにそのロシア軍との激戦で兵力を消耗しつつあったことである。
ロシア軍はオーストリア領に大挙して侵入しており、お互いに多大な損害をだしていたが、ロシアにとって10万や20万の損害は簡単に補充できたのに対し、オーストリアには容易に埋められる損害ではなかったのである。
結果、ロシアとの戦線ではオーストリア軍はじりじりと後退を続けていた。
このままではあまりにもまずいと気が付いた独英はまたもや西部戦線から大軍を振り向け、ポーランドで対ロシアの攻勢を開始。ロシア軍は敗北し、撤退を決断した。
もともとポーランドはドイツ領とオーストリア領に囲まれ、突出していたこともあり、
ドイツ軍はポーランドで進撃することには成功したが、手に入ったのは荒れ地と難民ばかりであり、それ以上進むことができなくなった。
◆ ◆ ◆
「我々は天皇陛下の代替わりがあったばかりだし、家康公の300回忌も控えておるのだが」
「わかったから助けてくれ」
日本国連邦帝国内閣総裁、徳川家達はロシア大使の要請に対してむにゃむにゃと答えていた。
まず正直、今すぐの参戦は非常に困るのだ。特にイギリス東洋艦隊が非常に怖い。ロシア太平洋艦隊と完ぺきに連携すれば何とか対抗できそうなのがさらに怖い。
というわけで家達は断るつもりで
これで断り切れなくなった日本は大東亜共栄圏の同盟国に参戦を要請。イギリスとドイツの勢力圏にされていた浙江省や山東省に攻め込みたくてうずうずしていた大明が二つ返事で参戦し、世界大戦に巻き込まれることになる。
早速、第一陣の援軍がシベリア鉄道で欧州に向かうことになった。
◆ ◆ ◆
大東亜共栄圏諸国が参戦を表明してから大陸では急激に事態が動いていた。
「南無阿弥陀仏!」
「南無阿弥陀仏!」
「南無阿弥陀仏!」
山東省のドイツ植民地にて数十万の一向一揆が発生。数を恐れて青島に籠城したドイツ軍に対して、毛利家出身の乃木将軍率いる日本軍5万が攻撃を開始。日本軍初の近代要塞に対しての攻撃で多数の死傷者を出したものの、これを陥落せしめた。
山東省では山東浄土真宗念仏国が樹立され、即日大明帝国に帰参した。
そしてイギリスの影響下にあった浙江省でも一向一揆が発生、まったく同じ経過をたどった。
領土を次々と蚕食された大清帝国はたまらずにイギリスに支援を要求。連合国に加盟して大明帝国に攻撃を開始した。しかしそれと同時に満州からアムールコサック軍、
「南無阿弥陀仏!」
「滅満興明!」
「南無阿弥陀仏!」
「滅満興明!」
「南無阿弥陀仏!」
「滅満興明!」
そして長江沿岸では明の正規軍が一向一揆と合流して100万を超える大軍に膨れ上がり、あちこちで清の軍を撃破。次々に民衆の辮髪をほどき、伝統的なお団子頭に結いなおしていた。
「だからこれは浄土真宗じゃないんです、本願寺に持ってこないでください!」
そのころ本願寺門主大谷伯爵は明国総理大臣に対して逆切れしていた。
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