第5話

地図を頼りにアリス先生のお家に帰宅した。

アリス先生が元気よく出迎えてくれた。


「お帰り助手ちゃん!」

「ただいまです」

「疲れたでしょ。寝ても良いよ」

「いえ、大丈夫です」


代わりに、ベッドの上に座らせてもらった。

すると、アリス先生も私の横に座ってきた。


「それにしても、随分遅かったね。地図、分かりにくかった?」


ドキリと胸が鳴った。

慌ててフルフルと首を横に振る。


「いえ、その、魔法道具店のおじさんと少しお話をしたので…」

「お話? 何を話したの?」

「えっと…」


鏡のことは秘密にしなければいけない。

罪悪感で胸が痛むけど、お店の奥の部屋に通されたことは言わない事にした。


「アリス先生の昔のお話とかです…」

「とか…? 他に何か話したの?」


うっ…。

しまった。言葉尻を捉えられてしまった。

慌てて言う。


「いえ、特には…。杖の事を教えてもらったくらいです」

「本当に?」


アリス先生がズイと顔を覗いてきた。


これは、何か疑われているな。

隠し事をしているなんて思われたくない。

いや、実際はしているんですけどもね。


「ほ、本当ですよ…!」


慌てて言った。

アリス先生はムゥゥと顔をしかめた。


「・・・それにしては、時間がかかりすぎじゃないかな」


図星です。

おじさんとは何だかんだで、20分以上話し込んでしまったし、途中裏路地で手鏡の力を確かめたのもロスタイム。


「えっと…」


私が言葉に詰まっていると、アリス先生が体重をこちらに傾けてきた。


ギジリ

と木のベッドが軋む音。


アリス先生と顔が急接近した。


「…っ…」


アリス先生の何かを勘繰るような鋭い視線に、不覚にもドキッとしてしまった。

美しすぎるんだよ、この人。

さすが国一番の美少女だ。


アリス先生は、私の耳元で、ゆっくりと静かに囁いた。


「隠し事なんて、先生寂しいなあ」


ハッとした。

そうだ。嘘をつく時は中途半端はいけない。

罪悪感はすごく、すごーくあるけれど、ここは悪魔になったつもりで。


私はまず心を落ち着かせて、何でもない顔をしてみせた。

そして、へにゃっと笑った。


「ごめんなさい、実は、魔法道具店のおじさんに、杖以外にも色んな物を見せてもらってて…」

「それならそうと最初から言えば良いじゃないか」

「だって…」


私は目を伏せて俯いて、モジモジと指と指を絡ませた。


「言われたこと以外のことしたら、先生に怒られちゃうと思ったから…」

「助手ちゃん・・・」


先生はギュウウと私を抱きしめて、頭を撫でてきた。


「良いんだよ。好奇心は学びの始まりだからね!変な事を疑ってしまった。ごめんよ。君が心配だったんだよ」

「い、いえ…」


うううう。

ごめんなさいごめんなさい。

罪悪感で押しつぶされそう泣。


やっぱり先生に秘密事をするのは心苦しい…。

鏡の事、どうしてもアリス先生にまで秘密にしなければいけないのかな。

また後日おじさんに聞きに行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る